月刊バスケットボール1月号

NBA

2023.02.14

マイケル・ジョーダン“最後の夢舞台”、NBAオールスター2003「若手への夢の継承式」

MJが演じた残り4.8秒のドラマ


現地2月19日(日本時間20日)、アメリカ・ユタ州ソルトレイクシティーで「NBAオールスター・ゲーム」が行われる。過去71回行われているNBAオールスター・ゲームではいくつもの名シーンが生まれた。その中でも思い出深かいシーンとなったのが2003年、アトランタでのオールスター・ゲームだ。主役は、最後の夢舞台となったマイケル・ジョーダン(ウィザーズ)だった。

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結果的に勝利したのはウエストであり、オールスターMVPを獲得したのはケビン・ガーネット(ティンバーウルブズ)である。しかし、このオールスターは始まる前からエンディングまでジョーダンのためのものだったと言える。

最後のシーズンということが明らかになる中だったが、ファン投票でジョーダンはイーストのガード部門で3位に。試合前は、誰がスターターを譲るかということが話題になっていた。実はその1週間ほど前に、イーストガード部門1位のトレイシー・マグレディー(マジック)、同2位のアレン・アイバーソン(セブンティシクサーズ)がスターターの座を譲りたいと表明していたが、これをMJは丁重に断っている。Tマックは「僕はロッカールームにわざとジャージーを忘れようと思ったんだ。そうすれば、彼が出ざるを得ないからね」とも語っている。

結果的にスターターの座を譲ったのは、ノースカロライナ大の後輩であるビンス・カーター(ラプターズ)だった。AI、Tマックのニュースも出たように誰かがスターターを譲るべきだという論議が出る中、カーターは「(投票してくれた)ファンに敬意を払うためにも先発で出るべきだと言っていた」のだが、「試合直前に気分が変わったんだ」。かくしてジョーダンがスターターになった。

ジョーダンはスローな立ち上がりとなる。1Qは11分に出場し、シュートを10本放ったものの、成功は2本だけ。2Qは6分出場で2本中1本成功。ウエストが55-52とリードしてハーフタイムを迎えることになる。
ハーフタイムショーに出演したのはマライア・キャリーだ。ジョーダンのジャージー・ドレスをまとってショーを披露。最後にジョーダンの名場面がモニターに流れる中で『HERO』を熱唱。それを見ながら、ジョーダンは目に涙が浮かべていた。歌い終わるとサプライズでジョーダンをステージに誘い出す。
スタンディングオベーションに包まれる中、ジョーダンは自身、そしてバスケを応援するファンに感謝を語ると「バスケットボールのことは、安心できる後輩たちに任せていきます。後にはまだ多くの素晴らしいスター選手たちがいます。さらに多くの選手が成長していくでしょう。私がドクターJ(ジュリアス・アービング/元セブンティシクサーズ)やほかの偉大な選手たち、マジック・ジョンソンやラリー・バードから受け継いだものを、ここにいる選手をはじめとするNBA選手たちに託していきます。これで私は何の心配をすることもなく、家に帰ることができます」とスピーチした。

そして後半がスタート。前半同様にシーソーゲームとなる。3Q残り2分4秒にジョーダンは10点目をマーク(これで当時のオールスターゲーム通算得点1位となった。現在の1位はレブロン・ジェームズ/レイカーズ)。イーストは一時7点リードを作るが、4Qに入るとウエストはシャキール・オニール(レイカーズ)らの活躍で100-100と同点に追いつく。イーストはジョーダン、アイバーソンの活躍で残り1分55秒で120-112とリードしたが、ウエストも引き下がらず。ティム・ダンカン(スパーズ)、ガーネットの得点で残り37.2秒で、1点差まで迫る。

“ジョーダンのクラッチシュートで勝利を”、とイーストの選手はMJにボールを託す。しかし、残り57秒に放ったプルアップジャンバーはリングに阻まれ、残り17.5秒のレイアップも決まらず。残り10.1秒、ジョーダンはコービー・ブライアント(レイカーズ)にファウル。フリースローとなり、1本を決めて120-120と同点に。そしてジョーダンにボールが渡る。左サイドでショーン・マリオン(サンズ)との1対1となると残り3秒、得意のフェイドアウェイ・シュートを放ったが決まらず。試合はそのままオーバータイムに突入する。

“ジョーダンのシュートが決まっていれば…”“まだジョーダンのプレイが見られる”、ファンの思いはまちまちだっただろう。オーバータイムでも両チーム引き離すことがでず。残り23.1秒、シャックのフリースローで136-136と同点になる。ジェイソン・キッド(ネッツ)がボールを持って時間を使い、ジョーダンは残り9.4秒に右ウイングでパスを受ける。ピッタリ、ガードに着くマリオンに対してジョーダンは右ショートコーナーにドリブルで進むと、またもフェイドアウェイ・シュートで軌道の高いシュートを放つと、これが見事フープに吸い込まれる。イーストの選手はガッツポーズを見せ、会場のボルテージは最高潮に。

残り3.7秒でイーストの138-136、これで試合は終わると思われた。タイムアウト後、ハーフコートからスタート。ガーネットは右サイドにいたブライントにパスを出す。しかし、ブライアントはボールを弾いて右コーナーに。バランスを崩しながら3Pシュートを放とうとすると、ジャーメイン・オニール(ペイサーズ)がファウルをしてしまった。

3本のフリースローを決めれば、ウエストが勝利。試合後、ブライアントはここでの心境について、「複雑な気持ちだった。決めなければならない状況にあるから、やらなければとは思っていたけど、正直に言うと、やりたくないと思っていた」と語っている。結果的に、フリースローは3本中2本成功。オールスターゲームで初のダブルオーバータイムに突入することになる。しかし、すでにイーストに戦う力は残っていなかった。オーバータイムでは、MVPとなるガーネットが活躍してウエストが155-145で勝利した。

試合後の記者会見、ジョーダンは目に涙を浮かべながら「これで家に帰れるよ。彼らのプレイをじっくり見られる」とコメント。そして、ガーネットは“ジョーダン最後のオールスターでMVPになる気持ちについて”「ついに年を取ったボウズ頭をやっつけた」と語った。

思えば、ハーフタイムでの言葉どおりの展開となった。オールスター・ゲーム2003は、ジョーダンから若手への夢の継承式だったのだろう。







文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)

タグ: NBA マイケル・ジョーダンNBAオールスター・ゲーム

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