マジック・ジョンソン“一夜限りの復活”、NBAオールスター1992で起きた感動劇
試合終了直後、ハグを交わしたマジックとトーマス
突然の引退を選択したマジックに待っていた特別な夜
現地2月19日(日本時間20日)、アメリカ・ユタ州ソルトレイクシティーで「NBAオールスター・ゲーム」が行われる。過去71回行われているNBAオールスター・ゲームではいくつもの名シーンが生まれた。その中でもとりわけドラマティックだった年がある。それが1992年、マジック・ジョンソン(レイカーズ)がNBAで一夜限りの復活を果たしたゲームである。
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1991年のマクドナルド選手権(NBAチーム、ヨーロッパのチームによる大会)に出場し、レイカーズは優勝。マジックはMVPを獲得する。そこから数週間後にシーズンは開幕。しかしマジックは“病気”と伝えられて5試合を欠場していた。その原因が11月7日の記者会見でわかる。HIVウイルス感染に発表し、即時引退を発表したのだ。まだ有名人のHIVウイルス感染告白は珍しい時だった。32歳という若さでカミングアウトし、トップスターの突然引退。その衝撃は計り知れないものだった。
マジックの最大の特徴は広いコートビジョンとパススキルだ。早いテンポのバスケを展開し、その中で驚くようなノールック・パス、ビハインド・ザ・バック・パスを出して得点を演出する。“ショータイム”と言われたレイカーズのバスケを紡いでいたのがマジックだった。シーズンが始まってからの突然の引退。だからこそ、オールスター・ファン投票用紙には、マジックの名前も残っていた。その出場はわからずとも、NBAファンの多くが投票。結果的に、ウエストのガード部門2位の65万8,211票を得ることになる。
ここで当時のNBAコミッショナー、デビッド・スターン氏が粋な決定をする。13番目の選手として引退していたマジックを特別にオールスターに出場させる決断したのだ。かくしてマジックは、一夜限りの復活を果たすことになる。
試合前、メンバー紹介の最後にマジックの名前がコールされると、しばらく大歓声が止まなくなる。笑顔になるマジックの元にイーストのアイザイア・トーマス(ピストンズ)、マイケル・ジョーダン(ブルズ)、パトリック・ユーイング(ニックス)らが歩み寄ってハグをし、言葉を掛けていく。誰もが主役はマジックだとわかっていた。だからこそ、スターターとなるはずだったティム・ハーダウェイ(ウォリアーズ)はマジックに先発の座を譲る。
試合は約4ヵ月ぶり、マジックもスタートは硬さが見えた。ティップオフ直後、まずボールを触ったマジックだったが、出したパスがトーマスに当たってターンオーバーとなる。それでも残り11分を切ったところで、ジョーダンからファウルを受けてフリースローで初得点。さらに自らドライブで切り込んでレイアップ、右ショートコーナーからフックシュートと決めるなど盛り上げていく。ポイントガードとして、パスを出していったマジックだが、不思議なことに初アシストは3Q残り8分51秒に。ファストブレイクの中でのデビッド・ロビンソン(スパーズ)へのノールック・パスだった。ここから試合終了までに9アシストをマークするのだから見事なものだ。
そして最大の見せ場は、4Q終盤にやって来た。
トーマスがボールを持つと、マジックが指で“かかってこい”と合図。トーマスはレッグスルーやバックビハインド・ドリブルを見せてからジャンプシュートを放つ。マジックが競ったこともあってか、エアボールとなった。続くイーストのオフェンス、今度は同じ位置でマジック対ジョーダンの1対1が作られる。ジョーダンはヘジテーションを使ってショートコーナーに進み、フェイドアウェイ・シュートを放つものの、これもリングに弾かれる。
直後のウエストのオフェンス、残り20秒でクライド・ドレクスラー(トレイルブレイザーズ)からマジックにボールが渡る。ディフェンスに付いたトーマスに背を向けてドリブルを突いていくと、右ウイングから3Pシュート。高く弧を描いたボールは、見事スウィッシュとなる。完璧なクライマックスだった。結局、ウエストが153-113で勝利。オールスターMVPは、25得点、5リバウンド、9アシスト、2スティールを記録したマジックが選ばれた。
「これが自分にとって最後になるなら、こう終わりたいと思っていた。全部が夢のようだったし、夢から覚めたくないと思った」
マジックにとっての夢のような時間は、すべてのファンにとっても夢の時間だった。
*:スターター、MIN:出場時間、FG:フィールドゴール成功数-試投数、3P:3Pシュート成功数-試投数、FT:フリースロー成功数-試投数、OR:オフェンス・リバウンド数、DR:ディフェンス・リバウンド数、TR:合計リバウンド数、AST:アシスト数、STL:スティール数、BLK:ブロック数、TOV:ターンオーバー数、PF:パーソナルファウル数、PTS:得点
写真:佐々木智明、文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)
タグ: NBAオールスター・ゲーム