月刊バスケットボール5月号

MORE

2022.12.30

安間志織(ベネツィア)インタビュー – ヨーロッパ最強を目指す挑戦

2020-21シーズンにトヨタ自動車アンテロープスをWリーグチャンピオンに導き、翌2021-22シーズンにはドイツに渡ってアイスフォーゲルUSCフライブルク(Eisvögel USC Freiburg)でチーム史上初となるブンデスリーガ王座獲得に成功した安間志織。続く今シーズンはヨーロッパ全体でも強豪の一つとして知られているイタリアのベネツィア(Umana Reyer Venezia)に移籍して、国内リーグのセリエA1FIBAユーロカップの両方で頂点に立とうという大きな目標を目指している。


クラブ生誕150周年の節目に王座獲得を目指す名門が獲得したこと自体、安間の価値を示しているが、その期待に応え、シーズン前半を終えた時点でセリエA1のアシストランキングでトップに立つ安間の活躍はそれを証明するものだ。

1210日に、多忙なスケジュールを縫って安間にインタビューの時間をもらうことができた。
取材日:2022年12月10日

新たな環境、タフな日程で奮闘中

——ワールドカップは気持ちにどんな影響を及ぼしましたか?

初めてのA代表で、本戦ではなかなか自分の力を発揮できなかったのが悔しいです。チームとしても、全員が自分たちらしさを発揮できませんでした。あの大会から本当に学ばないといけません。どういう状況でもパフォーマンスを出せるメンタルや技術を、もっともっと強くしていきたいし、うまくなりたいと思いました。選んでもらって、本当に良い経験をさせてもらいました。


FIBA女子ワールドカップ2022がA代表初選出だった安間にとって、ほろ苦い結果も飛躍の糧。国際舞台での活躍の本番はこれからだ(写真/©FIBA.WWC2022)

——フライブルクから慰留もあったのではないですか?

ドイツに残る選択肢は私にはなかったし、ヘッドコーチともそういう話をしていました。チームメイトもみんな「来年シオリはどこでプレーするんだろう」と話していて、引き留めても気持ちが変わらないだろうとわかっていたと思います。

いくつかお話があった中で、ベネツィアからも声をかけていただきました。コーチ(アンドレア・マッツォーン)が熱い方で、バスケットの技術だけでなく態度とか表現のしかたも見てくれていたのと、昨シーズンのユーロリーグとユーロカップでの試合を見るとツーガードのときが多かったので、試合に出られるチャンスも多いかなと思いました。ボールを速くプッシュしていくプレースタイルだと聞いたし、チームも新しくなるということで、いろいろと楽しみにしながら決めました。

おもしろいシステムをやる熱量がすごいコーチの下で、チームに貢献しながら新しいことを学んでいきたいと思ったのがベネツィアに来た決め手です。

——ユーロカップも並行して出場する今シーズンは、ドイツ時代とはスケジュール感覚が違いますね。

移動はしんどいですし、休みも少なくなりました。だいたい水曜日か木曜日にユーロカップがあって、日曜日にイタリアのリーグ。ユーロカップはアウェイだと前日入りで、移動してその日に練習か、こちらで練習してから移動です。試合開始の時間が遅いので、終わると夜9時半とか10時くらいになり、ホテルに帰るのが10時半。そこから食事ですが、11時から12時近くになったりもします。それでもすぐに帰って、イタリアリーグの準備をしないといけません。

一番びっくりしたのは、夜8時に試合が始まって11時にホテルに戻り、翌朝5時に出発というときもありました。寝る時間は2時間くらいでしょうか。それで移動みたいなのは結構あります。スペインとドイツのチームが同じグループで、移動は飛行機。乗り継ぎもあったりします。

ドイツ時代は試合が週一回で、遠征時の前泊入りはありませんでした。バスで8時間というのはありましたけど、ここはここで移動の多さやスケジュールのタイトさはしんどいところがあります。どのチームも同じですけどね!

——休みはどのくらいあるのですか?

休みはあまりないので、きついときはきついですね。2週間丸ごと休みがないときもありますから。今週は月曜日が休みだったんですけど、来週は丸一週間休みなしです。


12月15日に行われたユーロカップのケルターン戦より(写真/©FIBA.EuroCup2022-23)

なるか!? セリエA1、ユーロカップのダブルタイトル

——競技レベルはどうですか? マッツォーンHCは、安間選手のスピードはチームメイトの倍速いと言っていました。

ドイツとは全然違うレベルだと感じます。WNBAの選手も私のチームに2人いて、その子たちだけではなくイタリアの選手たちもほとんどイタリア代表経験がある選手。全員が各国代表なので負けたくないから、皆仲はいいんですけど練習もバチバチになったり55で負けが続くと雰囲気が悪くなったりするんです。お互いが勝ちたいから言い合いになったり、コーチとも意見交換をします。

フライブルクの子たちは若かったし、自分の意見をそれほど主張しない感じでした。ここでは全員が「あの時はこうだったからこうしたの」「私はこうだったからこうして」というのをストレートに言い合います。その中で私もできるだけ何かしら発言するようにしますし、皆も聞いてくれます。外国人に自分の意見をストレートに言うには、意見を持ちつつプレーでも示せないといけないなと思っています。

——それはできている感覚がありますか?

言いたいことは私も伝えようとするので、皆聞いてくれています。でもプレーに関しては、まだ自分らしさを出せているときとそうでないときの差があります。ヘッドコーチは好きなようにやっていいよと言ってくれるのですけど、レベルが高い分戦術面やチームに沿って遂行することが大事だと思うので、崩すところは崩してというところこのバランスをどこまで私が取るべきか。コントロールはちゃんとしないといけないですしね。点数を取るとかアタックするのはもうちょっとやっていきたいと思います。

——ここまでの出来は何点くらいですか?

半分くらいかなと。うまくいくことが最初よりは増えてきているし、皆がどういうプレーをするのかが少しずつわかってきていますから。英語がわからないときも皆が助けてくれます。理解できないときはわからないと伝えて、その場でも試合後にも聞いたりしていますし。

全員が得点できるので、パスを探してしまうというのはあるんです。ドイツでは日本にいた頃にはなかったほどシュート、シュートという感じでしたけど、ここでもやっぱり得点を狙わないと強みが生きていかないし、皆も打て打てと言ってくれるので、数字的にはもう少し得点も伸ばしたいと思います。

私がみんなに合わせるばかりでなく、私がボールをプッシュして皆を私に合わせさせるのも大事です。チームメイトとの合わせやボールコントロールも含め、良いとき、悪いときがあることも含めると4-5点かな(笑)


アワク・クィエール(Awak Sabit Bior KUIER=左)の好プレーに駆け寄る安間とマリエッラ・サントゥッチ(Mariella SANTUCCI)。コミュニケーションの良好さを感じさせるシーンだ(写真/©FIBA.EuroCup2022-23)



——前半戦で上位のスキオ(Famila Wuber Schio)とボローニャ(Virtus Segafredo Bologna)に勝つことができませんでした。この二つの黒星をどう見ていますか?

あの2試合は勝てるような内容も多かったですが、次以降の対戦で勝つためには私のゲームコントロールやチームディフェンスなどで改善が絶対必要です。数字的に良かった部分はあるんですけど、もう少しコミュニケーションをとったり、ローテーションを最後まで回るとか、上位チームとの試合はそういう細かい部分が大事になってきます。

私たちのプレーができていない中であの点数。私は学ばないといけないですが、皆が声をかけてくれますしコーチともビデオを見たりしているので、次は勝ちたいですね。どんどん合わせも良くなっていくと思うので、しっかり学んでいきたいと思います。

※現在セリエA1の3位に位置しているベネツィアは今シーズンの前半戦で、11月19日にリーグ2位のボローニャに対し71-85、12月4日に同1位のスキオに対して71-83で黒星を喫した(時間はいずれもイタリア時間)が、ほかの試合は全勝中

——ベネツィアはどんな特徴があるチームですか?

センター陣は強くて動けるし、3Pショットもうまいし、ドライブもできるし。でも私たちとしてはオフェンスにフォーカスする前にまずディフェンスをやらないといけないと言っています。コーチからもそう言われますが、私たちのスタイルはディフェンスから走ってどんどんプッシュし、それがダメでも3Pショットでといういい流れが作れるところが強いと思います。

(ハーフコートゲームでは)昨シーズン得点王で今シーズンも得点ランキング1位(前半戦終了時点では2位)のアメリカ人センター、ジェス(ジェシカ・シェパード[Jessica Lynn SHEPARD])に相手ディフェンスが引き寄せられます。そこでトニー(ベルギー代表のアントニア・ディラーレ[Antonia DELAERE])やファッシーナ(マルティナ・ファッシーナ[Martina FASSINA])が空いてくるので、バランスよくお互いができています。

——ガードは安間さんを含め3人いますが、どんなつきあいをしているのですか? 若い二人に何か影響を与えているような感覚もあるでしょうか?

マーティー(マティルデ・ビッラ[Matilde VILLA])が18歳、レラ(マリエッラ・サントゥッチ)が25歳くらいですね。私の影響があるかどうかはまだわかりません。ただ、プレーは別として日本の文化は伝わっているかもしれないです。コートに入るときにお辞儀するのは日本人だと普通なんですけど、こちらでは皆が「めっちゃいい!」と言ってくれます。


マーティーとレラとは仲いいです。マーティーは学校があるし、レラも授業を持っているんですけど、レラは食事に誘ってくれたり、練習中も「こうだからこうしよう」みたいに結構話します。二人とはすごく話ができるので、コミュニケーションが取れていると思います。


フリースローを放つサントゥッチの後ろに安間とビッラの姿も。3ガードの時間帯もある(写真/©FIBA.EuroCup2022-23)

——フライブルクではシューティングを一緒にやる仲間がいましたが、イタリアでもそういう人はいますか?

ドイツではホームゲーム前に個人でシューティングに行っていて、そのとき一緒につきあってくれたプレーヤーがいましたけど、ここではチームとしての練習があります。だから昨シーズンと同じような仲間はいません。ベネツィアにはユースや男子チームもあって、一つしかない体育館を一緒に使っているので、シューティングの時間もコーチと話した上で振り分けられるんです。

——今の目標はどんなことですか?

最初の方はチームのシステムや環境に馴染むことでしたけど、今ではチームの皆とプレーするのがめっちゃ楽しくなりました。ここの子たちとも長くやりたいし、イタリア国内でもユーロカップでも優勝できるチャンスがあるチームだと思うので、そこにどれだけ私がディフェンスからボールをプッシュして、オフェンスをコントロールしながら貢献していけるかが大事になってきます。この二つのタイトルを狙って、プレーオフまで一つ一つの試合を大事にやっていきたいです。

——日本から応援している皆さんにメッセージをお願いします。

ドイツにいたときもすごく応援してくれる方が多くて、イタリアでも「引き続き応援しています」とメッセージをいただいています。それがすごくうれしいです。ドイツは日本時間午前0時からの試合があったと思いますけど、ベネツィアに来てからはほとんどが午前3時開始。それでも見てメッセージをくださる方がたくさんいるなんて! でも皆さん、ぜひしっかり寝てください。試合は後追いで見てくれるのでも、私はうれしいんです。

試合中に私がどんなプレーをしているかを自分からはなかなか発信できないので、見て発信してくれる方々がいることで本当に助かっています。それで私を見て元チームメイトからもと連絡をもらえているので、遠いんですけど、日本の皆さんから応援してもらえるのはありがたいです。今後ともよろしくお願いします!


今シーズンもし安間が王座獲得に成功したら、3年連続で3ヵ国の3チームを頂点に導く快挙達成となる。異国の地での奮闘に期待は膨らむばかりだ(写真/©FIBA.EuroCup2022-23)



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: 安間志織 ウマナ・レイェ・ベネツィアセリエA1ユーロカップUmana Reyer Venezia

PICK UP

RELATED