コーチの「試合中の指示」や「怒る事」絶対禁止、新時代のミニバス大会『ファンジャンプ!バスケットボール さわかみチャンピオンシップ2022』大成功

1227日・28日の両日、千葉ポートアリーナ(千葉県千葉市)は『ファンジャンプ!バスケットボール さわかみチャンピオンシップ2022』というミニバスの新しい大会で盛り上がっていた。この大会は、千葉ジェッツふなばしとカイエント株式会社の協業により、子どもの可能性を広げる「日本一夢のある小学生バスケットボール大会」と銘打って企画・運営された非常にユニークな大会だ。当日はかつて千葉ジェッツでも活躍した元プロバスケットボール・プレーヤーの伊藤俊亮もスペシャルアンバサダーとして来場。新型コロナウイルス感染により出場辞退せざるを得なくなったチームが対戦するはずだった試合に、千葉ジェッツU15女子チームとともに出場して往年の姿をほうふつとさせる動きを披露した。




今大会の大きな特徴は、各チームの指導者が「試合中の指示」や「怒る事」を絶対禁止としている点。また、試合・大会である以上勝負をつけることは否定しないものの、勝利至上主義ではなくすべての子どもたちの成長を促すことを重視し、一人のプレーヤーの前・後半通じての出場を禁じる「全員均一プレールール」や特定の一人・二人に得点が集中してしまう傾向を抑止する「全員得点加算ルール」を採用した(詳細は下記)。

主催のカイエント株式会社代表の足達伊智郎は自身もバスケットボールの競技経験があり、ミニバスの試合で見られる勝利至上主義で監督やコーチが怒る、特定のプレーヤーへの比重が極端に高い起用方法などに疑問を持っていた。それが子どもの成長に則した大会を作りたいと考えた理由だ。

「小学生の時期は4月生まれと3月生まれで体格差や運動能力に大きな差があります。また小学生の時期は成長のピークではなく、すべての子どもたちに大きな可能性があるはずです。一方で、勝利至上主義がダメだから全国大会をやめる、勝ち負けを決めないというのは大人の理屈であって、勝負は否定しないけれど可能性の塊である子どもたち全員の成長を促す大会、チャンスを与える大会を作りたかったんです。そんな中で普段決められない子が決めたら、やっぱり勇気になると思うんですよね」と足達は話す。出場チームの募集は今年6月に始めたが、この趣旨に惹かれたチームからの反響は非常に大きく、男女24チームずつの枠に千葉県内外から200を超える申し込みが殺到。実際に出場したチームでは、秋田県の能代ブルーインズ(男子)、三重県のあがたミニバスケットボールクラブが関東圏外からの遠征という熱の入りようだった。


秋田県能代市からやってきた能代ブルーインズの面々。6年生にとってはこの大会が最後の思い出の場だそうだ

実際に大会当日を迎えると、足達の狙ったとおりのことが起こっていた。会場に足を踏み入れると、聞こえてくるのは子どもたちの歓声だけ。勝負を意識しすぎるがための行き過ぎた指導や暴言は一切聞こえない。タイムアウトになると子どもたち同士で話し合っている。「普段点取り屋の子がパスをしたり、すぐにパスしてしまう子が自分で攻めていくことが多くなったりという保護者の声もありました。やってよかったと思います」と足達はコートサイドで笑顔を見せた。

この日6試合でコートに立ったスペシャルアンバサダーの伊藤によると、今大会はコロナ禍の動向を見ながら2年半近く時間をかけて練ってきた大会とのことだ。ユニークなルールの考案には伊藤の意見やアイディアも取り入れられている。「小学生の試合で、例えば40点中35点を一人の子が獲って優勝したと言っても、どこかにもやもやしたものが残ってしまいます。そこを何とかしたかった。普通の大会なら、上の子たちが勝とうとしてそうなるのは競技として当然ですが、何とかチームとして引っ張り上げる作業をしてほしい、それなら別の大会を作った方がいいとずっと思っていたところに足達さんから声をかけてもらい、すごくいいと思ってかかわらせていただきました」。伊藤は言う。


新型コロナウイルス感染の影響で出場辞退となったチームに代わり、ミニバスのチームとの交流戦に出場した千葉ジェッツU15女子チーム。後列右から2番目が足達、右端が伊藤

「指導者が怒らないことに加えて一歩踏み込んだ全員得点加算ルールは、バスケットボールの特徴をうまく出せるものではないかなと思います。一人・二人が活躍して“勝ってしまう”のではなく、子どものチャレンジを大人に見せる大会。開会式でも、『君たちのチャレンジを大人が楽しみにしているから存分にやってください』と伝えました」

いくつかのチームが新型コロナウイルス感染により出場辞退となったのは残念だが、伊藤は「何とか開催できて本当に良かったです」と現場の熱気を楽しんでいる様子だった。「千葉ジェッツU15の女子チームが協力してくれて一緒に出ましたが、相手が良いチームだったので、『ジェッツロゴをつけて負けるわけにはいかないよ。ちょっとチャレンジさせてあげるみたいな態度は失礼。しっかりやるよ!』と話して臨みました」

一緒に汗を流して楽しんだだけでなく、やはり伊藤もこの大会の手ごたえを感じていたようだ。「タイムアウトとかでも子どもたち同士が集まって話し合う姿が見られて、この大会をやってよかったなと思えました」。自身もこれまでのミニバスの試合を見て感じていた違和感を解消するような舞台が、『ファンジャンプ!バスケットボール さわかみチャンピオンシップ2022』の形で実現した。しかも「日本一夢のあるミニバス大会」を目指す今大会は、優勝・準優勝の2チームを211日(土)に行われる千葉ジェッツのホームゲーム(船橋アリーナで行われる名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦)に招待し、満員の観客の前で表彰式も行う予定(千葉ジェッツからのクリニックを受ける機会も提供される)。勝ったチームはもちろんのこと、負けたチームの子どもたちにとっても、これからの自分に対する希望を膨らませて新年を迎えられる、弾みになるような大会だったのではないだろうか。

☆大会概要と最終成績

日程:20221227日(火)・28(水)

場所:千葉ポートアリーナ

主催:カイエント株式会社

特別協賛:さわかみホールディングス / 特別協力:株式会社千葉ジェッツふなばし

エントリーチーム:

女子(24チーム)

浅草橋ブレイザーズ(東京)、多摩フェアリーズ(東京)、二葉クラブ(東京)、狭山ゼルズガール(埼玉)、大沢スマイリーズ(埼玉)、戸田南オールズバスケットボールクラブU12女子(埼玉)、佐野ミニバスケットボールクラブスポーツ少年団(栃木)、西方都賀Flowersミニバスケットボールクラブ(栃木)、禾生ミニバス(山梨)、冨貴島MBC(千葉県)、あがたミニバスケットボールクラブ(三重)、芳川北ワイルドキャッツ(静岡)、湖西ミニバスケットボールスポーツ少年団(静岡)、花園MBC(千葉)、グローリアス(千葉)、有秋西MBC(千葉)、ウイングス(千葉)、小見川スポーツ少年団(千葉)、実籾レイカーズ女子(千葉)、レッドローズ(千葉)、東野MBC(千葉)、旭町ミニバスケットボールクラブ(千葉)、鷺沼MBC(千葉)、七栄ミニバス(千葉)

男子(24チーム)

リトルベアーズ(東京)、小岩はすのみバスケットボールクラブ(東京)、滝坂MBC(東京)、総和B-BOYSミニバスケットボールスポーツ少年団(茨城)、サブシックス富士(静岡)、宮竹男子ミニバススポーツ少年団(静岡)、川越エルフ(埼玉)、東川口ミニバスケットボールクラブ(埼玉)、東富水ミニバスケットボールスポーツ少年団(神奈川)、大間々グリーンモンスターズ(群馬)、west boys(山梨)、能代ブルーインズ(秋田)、Hedgehogs jr.(栃木)、足利南ミニバスケットボールクラブ(栃木)、AYAME KIDS(千葉)、屋敷オールスターズ(千葉)、国府台ミニバスケットボールクラブ(千葉)、富岡男子MBC(千葉)、八幡台MBC(千葉)、打瀬ベイ・シューターズ(千葉)、ジュニアファイブ(千葉)、交進キッズ(千葉)、千城北フェルターズ(千葉)、内野イーグルス(千葉)

優勝: 男子 東川口ミニバスケットボールクラブ/女子 多摩フェアリーズ(東京)

多摩フェアリーズ



東川口ミニバスケットボールクラブ

準優勝: 男子 ジュニアファイブ(千葉)/女子 湖西ミニバスケットボールスポーツ少年団(静岡)


参加した子どもたちに配られた参加賞

【特別ルール】

■全員均一プレー(前半、後半両方に同じ選手がでることはできない)

※5ファール退場はなし。ただし、悪質なプレーや故意のファールの場合は退場(少ない人数で試合続行)

※出場選手は5,6年生で最大15人までのエントリー可能(10人未満のチームのみ4年生の参加も可能)

※試合中ケガ人が出た場合、10人以上のチームはその試合の控え選手が出場することは可能(10人しかいない場合は同じ選手が前・後半出ることはできないため少ない人数試合続行)

※10人以上の参加がある場合は試合ごとに均一に参加選手が出場できるような起用を行う(1試合ごとにメンバーは固定になり、選手交代はできない)

 

■全員得点加算ルール

ハーフごとに点数を決めた人数によって加算される点数

3人ゴールを決めたら+1 → 4人でさらに+2 → 5人でさらに+3

※前半後半で最大12点の加算がされる大会特別ルール

※予選、準々決勝はゲーム終了後に加算して勝敗を決定

※準決勝、決勝はリアルタイム反映を予定

※大会運営スタッフが点数カウントを厳正に行います。

 

■子どもの主体性を促すルール

監督やコーチが怒るのは禁止

タイムアウト・ハーフタイム以外のベンチからの指示も禁止、故意に立ち上がるなどの行為も禁止

※子どもたちによるベンチからの応援やアドバイスは可能

※違反した場合はスタッフなどから声掛けする場合あり

大会公式サイト



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

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