月刊バスケットボール5月号

中高生にもおすすめしたい“映像分析”でのレベルアップ [後編]

「予習」「復習」が授業の効果を最大限に高めるように、バスケットにおいても映像を使って過去を振り返り、チーム全員で今後の方向性を確認することは、練習の効果を高める方法の一つだ。今回は、日々練習や試合に映像を活用しているU18世代のチームを2つご紹介。前編では、今年の春から始動した佐賀バルーナーズU18を紹介。後編では、佐賀東高校の女子バスケ部を紹介。男子部がインターハイやウインターカップに出場し、女子部も負けじと全国の舞台を目指して日々練習に取り組んでいる。リアルタイム映像分析アプリケーション「FL-UX(フラックス)」を導入したきっかけ、活用方法を監督、選手からそれぞれうかがった。


【前編】佐賀バルーナーズU18 元安 陽一HC インタビュー 「課題や手応えを客観的につかめるのは大きなメリット」





「“分かっているつもり”が浮き彫りに」

ー田中 睦コーチ(佐賀東高女子部監督)


――まずは佐賀東高で「FL-UX」を活用されるようになったきっかけを教えてください。


「昨シーズン、佐賀バルーナーズの宮永ヘッドコーチと知り合いになり、チームで『FL-UX』を活用していることを知りました。それで話を聞きたいと連絡を取り、去年の夏に担当者の方に来ていただいてデモンストレーションをしてもらったのを機に、使い始めた形ですね。使い始めて、ちょうど1年くらいになります」






佐賀バルーナーズ 宮永雄太一HC インタビュー 「大きなメリットとしては『“やっているつもり”をなくす』」


――具体的には、現在どのように使われていますか?


「主に練習試合や試合を撮影して、そのポイントを抜き出した映像を練習前に見せるとか、普段の練習であれば5対5のスクリメージだけでなく、3対3のラリーなどいろいろなメニューを撮影して確認しています。『今日はこういうところに重点を置いて練習しよう』というものに対して、それが良くも悪くも出るようなメニューを撮り、できているか答え合わせするようなイメージですね。

 『FL-UX』はその場で撮ったものをすぐ巻き戻して見られるので、例えば5分とか10分のメニューが一つ終わったときに選手たちを集合させ、映像を見せることができます。『この部分はもっとこうした方がいいよな』とか『このセットプレーはここが弱いよ』とか、課題をすぐに共有できる。個人のプレーも、チームとしてのプレーも、客観的に見られるというのは良いですよね」







――導入して、選手たちの反応はいかがでしたか?


「恐らく今までは映像を頻繁に見返すこともあまりなかったでしょうけれど、意外にすぐ使いこなしていました。スマホでも簡単に映像を見ることができますから、抵抗は全くなかったのかなと。練習以外の時間でも、手軽に動画を見返すことができるのは良いと思います。自分のシュートフォームなどを見返したり、チームプレーを確認したり、そういうことが家でもできますからね。

 あとは導入して最初の頃、コロナ禍でなかなか練習に人数が集まれない時期があったんです。その頃はよく、人数も少なかったので3対3の練習をして、映像をチェックし合うということをやりました。練習の合間、合間に自分たちで感じたことを言い合う時間を作って、徐々に映像を見る力を付けさせていきました」






――『FL-UX』の導入で、何かチームに変化はありましたか?


「映像をきっかけに自分の役割を再認識できるというのはあると思います。客観的に自分を見ることで、ガードとしての働きができているかとか、周りのために動けているかとか。それに映像を通じて、良いコミュニケーションが取れるようになったかなと。今の選手たちはすごくおとなしいのですが、プレー的なことで『ここはこうした方が良かったね』と選手同士で話し合うことが増えました」


――映像を見ながら、特にどんなところに着目していますか?


「いろいろありますが、スペーシングなど全体の動きですね。バスケットにおいて、スペースをどう生かすかというのは非常に重要ですが、実は指導者も、見えているようで見えていないときがあるかなと。映像を見返すことで、『こう動けばここが空いていたな』といった、その瞬間には気付かなかったことが見えてきます。分かっているつもりで分かっていなかったところが浮き彫りになるので、映像分析は指導者にこそおすすめしたいですね。

 結局、バスケットではボールのないところでの動きが重要で、ボールをもらった時点で、攻められるかどうか勝負が決まっている状況がほとんどだと考えています。ボールを持つ前、逆にディフェンスからすればボールをもらわれる前に、もう勝負は始まっている。体の向きや人の位置、目線など、プレーが始まる前の準備や予測が、できているかどうかを映像でチェックすることが多いです。

 ただ、ボールを持つ前を0地点として、そこからボールを持って1、2とプレーが連動していくにしても、なかなか0の地点に着目するって難しいんですよね。選手たちに『準備していないのが悪いんだよ』と口で言っても、どうしても0地点はイメージしにくいし、自分ではしっかり準備しているつもりでいる。それを映像で見せると、どんな準備が足りていないのかが分かりやすいし、客観的な証拠なので説得力があるかなと思います」



――今後に向けて、意気込みをお願いします。

「もっとコミュニケーションを増やして、バスケットIQを高めていきたいと感じています。目標に向かって頑張っていきたいですね。

 ただ私としては、試合をやる以上は“勝者”と“敗者”にどうしても分かれるけれど、どんなときでも“勇者”でいようと。以前、私が選手たちにそう話した言葉を、最近ある選手がミーティングで発表して思い出させてくれたんです。勝ち負けも大切だけれど、目標に向かってチャレンジする勇気を忘れないことの方が大事だと思っています。

 最近、体育館の床の張替え工事が終わってピカピカになり、ようやく落ち着いて練習できるようになりました。男子とは毎日隣のコートで練習していて、男子は最近全国にも出ていますから、男女で切磋琢磨して女子も全国に出られるよう頑張りたいです」


【選手の声】

◆「『FL-UX』を知ったときには、こんなものがあるんだなとびっくりしました。最初はちょっと慣れなかったけれど、スマホで映像が見られるのですぐに慣れました。普段は練習試合などの映像を、電車通学の間で見ることが多いです。見ながら自分の課題を探して、もっとどうすれば良かったのかを考えています。映像を意識的に見るようになって、個人としても少しずつ良いプレーが増えたかと思いますし、良かったチームプレーを覚えておいて、次の試合ではそれをイメージして生かせるように心掛けています。映像を今後も活用しながら、良いプレーはそのまま伸ばして、悪いプレーはどんどん改善していきたいです」




◆「『FL-UX』を導入して映像を見るようになり、自分のシュートフォームなど、どういう動きをしているのかがよく分かって、試合に生かせていると思います。前より自分で試合をよく見るようになり、自分のプレーだけでなく周りの動くタイミングなども見るようになりました。バスケノートを書いているので、試合が終わった後は映像を見ながら、箇条書きで良かったところや悪かったところを書いています。みんなでスペースをよく見られるようになったので、中の合わせなどのプレーも増えたと思います。」




「『FL-UX』は、最初はビデオを撮って見るだけだと思ったのですが、スローで再生したり動画に書き込んだりできるので、すごいなと思いました。家などで映像を見るときには、試合中に先生に言われた場面を中心に見返すようにしています。悪いところだけでなく、良いプレーを繰り返し見てイメージできるようにして、良い部分をもっと伸ばせるように心掛けています。映像を撮ってくれるチームメイトがいるので、しっかり見返して良いところを伸ばしつつ悪いところを改善できるように頑張りたいです」






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