月刊バスケットボール8月号

中高生にもおすすめしたい“映像分析”でのレベルアップ [前編]

「予習」「復習」が授業の効果を最大限に高めるように、バスケットにおいても映像を使って過去を振り返り、チーム全員で今後の方向性を確認することは、練習の効果を高める方法の一つだ。今回は、日々練習や試合に映像を活用しているU18世代のチームを2つご紹介。一つは今年の春から始動した佐賀バルーナーズU18。今年8月に開催された「B.LEAGUE U18 CHAMPIONSHIP 2022」でベスト8に進出したユースチームだ。練習や試合でリアルタイム映像分析アプリケーション「FL-UX(フラックス)」を導入。それぞれのチームに、活用法やメリットをうかがった。



「映像で結果よりも過程に着目する」

元安 陽一氏(佐賀バルーナーズU18 HC)





――元安コーチは早稲田大学を卒業後、これまで中学生からBリーグのトップチームまでさまざまなカテゴリーでコーチングを経験され、今年の春に始動した佐賀バルーナーズU18のヘッドコーチとなりました。チームでは、「FL-UX」を使って映像分析を行っているそうですね。


「はい。もともと、いくつかのプロチームにいた頃にも、基本的に練習と試合を撮影し、映像を分析してチームに共有していました。でも、中学や高校のチームではあまり活用したことがなかったんです。佐賀U18が始動した4月の頃も、単純に撮影した映像をYouTubeで限定公開し、チーム内で共有するだけでした。

 でも佐賀バルーナーズのトップチームが『FL-UX』を導入していて、すごく良さそうだったのでU18でも取り入れられないかと相談して。それから活用するようになり、これまで以上に手軽に映像を共有できるようになりましたし、試合や練習試合の映像には僕がコメントやタグを付けて選手たちに共有するようになりました。文字や印、矢印などを動画に入れることができ、操作性も簡単なのは良いですね。トップチームのように毎回の練習をリアルタイムで練習中に確認することはできていませんが、それでも試合後の振り返りとして『FL-UX』が使えるのはかなり大きいと思います」











――映像を分析して選手たちに共有することには、どんなメリットがありますか?

「自分たちのプレーを見つめ直すというのは、新たな発見も多いと思います。自分ではできているつもりで実はできていなかったり、逆にできていないと思ったら意外とできていたり、課題や手応えを客観的につかめるのは大きなメリットですね。具体的に言えば、例えば選手に『コーナーまで走ろう』と伝えたとして、多くの選手はコーナーまで降りたつもりになって少し手前で止まってしまう。するとスペーシングに不具合が生じ、相手のディフェンスも守りやすくなるし、少しの角度の差で仲間のチャンスを潰してしまうかもしれません。それは言葉でも伝わることですが、実際の映像があれば一目瞭然。選手たちもより理解しやすいだろうと思います。

 また、高校生は授業も宿題もありますし、遠方から練習に通っている子もいるので、とにかく忙しいんです。だから試合の全てを見直す時間がないという中でも、タグ付け機能を使って『最低限、ここだけは見ておこう』と言えるのはありがたい。効率的ですし、スマホを使って家や電車でも見られるので、忙しい高校生の生活にも合っていると思います」






――選手たちには、映像の特にどういうところを見てもらいたいですか?

「自分自身のプレーはもちろん、僕がタグ付けやコメントを付けるのは主にチームとしての動きです。例えばオフェンスでは、『スペースが狭くなっているけれど、周りの選手はどう動けば良かっただろう』とか『シュートは外れているけれど、この動きは良いチームプレーだったね』とか。特に中高生は、シュートが入ればOK、外れたらNGという見方をしがちですが、そうではなく、シュートに至るまでの動きを見てもらいたい。ディフェンスでも、相手に点を決められたからNGではなく、チームのルールでよく守れていたらそれは評価して継続すべきですよね。『FL-UX』の映像を使ってそういう見方、結果よりも過程をちゃんと見ることが、バスケットIQを高めることにもつながると考えています」






――今の高校生は、YouTubeやTikTokなどで映像を見ることに慣れている印象があります。

「そうですね。大人よりも映像を見ることに抵抗はないかもしれません。世の中にはたくさんの映像があふれていて、バスケット用語なども詳しい子は本当に詳しいです。ただ、懸念されるのはNBAやBリーグのスーパープレー集など、ハイライト動画を見て派手なプレーばかりに着目してしまうこと。先日、U18の選手たちがトップチームの練習に参加させてもらう機会があり、そのときにコーチ陣たちがU18の選手たちに話してくれたことなのですが、『派手で難しいプレーよりも、基本的なプレーをしっかり確実に徹底できることの方が大切だ』と。ダンクのハイライト動画も、そこに至るまでにアシストやスクリーンなどほかの4人の貢献があったはずなので、そういうところも見てほしいなと思います」






――指導の上で心掛けていることは?

「原点は、やはり『バスケットを楽しむ気持ちを大事にしてほしい』ということですね。“楽しさ”にもいろいろあると思っていて、ただヘラヘラダラダラ遊んで楽しいというのではなく、自分の成長を実感する楽しさだったり、仲間と切磋琢磨して競争し合う楽しさだったりを感じてほしい。高みを目指す楽しさを、バスケットを通して知ってもらえればと思っています。

 また、アンダーカテゴリーは未来ある大事な世代ですから、彼らによく言うのは『ここは目的地ではなく、あくまで通過点だ』ということ。目先のことより、このチームを出た後の大学だったりプロの世界だったり、目標とするステージを見据えながら、今何をすべきか考えて取り組んでもらいたい。僕もコーチとして、無理をさせないように時にはストップをかけることも仕事の一つだと思っています。頑張ることは大事でも、それで大ケガをして選手生命を縮めてしまっては元も子もないですから。未来を見据えて次のステージで活躍できる選手を育成することが、アンダーカテゴリーの選手を預かる私の一番仕事なのだと思います」





――今後、どんな選手を育てていきたいですか?

「昔は試合などで、自分の計算どおりにきれいに物事が進むことに喜びを感じていました。でも次第に、選手が自分の想像以上のことをしてくれたときに、喜びを感じるようになったんです。自分の想像を上回るほどのプレーや考え方を持つ、ワクワクさせてくれるような選手をどんどん育成していきたいです」

【選手の声】

出野 壱吹(佐賀バルーナーズU18キャプテン)




「試合などを映像でしっかり見直すことで、ミスしたプレーや良かったプレーを確認できるのはすごく良いと思います。全体の映像があると、プレーしているときは見えなかった部分、『このときはあそこが空いていたな』とか、いろいろな発見があります。自分のプレーだけでなく、ディフェンス面で5人がしっかり動けていたかなども、映像があると見えやすいなと。このユースチームに入ったばかりのときはコート上での視野が本当に狭くて、周りが見えずにただ突っ込んでしまう選手でしたが、動画を見ることによって考え方などが変わり、視野が広がったと思います。

 僕は高2まで高校の部活でバスケットをしていたのですが、高3からこのユースチームに入りました。高校の顧問の先生も本当は出したくない気持ちもあったかもしれませんが、応援してくれて、送り出してくれて。そうした人たちの気持ちも背負っているので、バルーナーズU18でキャプテンに立候補して頑張ろうと思いました。このユースチームの1期生として、まずはチームに良い伝統を作れるように。今後はドライブやジャンプシュート、3Pシュートなど、オールラウンドにプレーできるように頑張っていきたいです」







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