月刊バスケットボール10月号

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2022.12.02

ウクライナのバスケットボールは今(2)——FIBAワールドカップ2023ヨーロッパ地区予選を絆で乗り切りたい男子ウクライナ代表

 男子ウクライナ代表はFIBAワールドカップ2023ヨーロッパ地区予選の2次ラウンドグループLで、6チーム中5位という状況にある。同グループではすでにスペインとイタリアが本大会出場権を獲得済み。各グループから上位3チームが本大会に駒を進められるフォーマットで、残るは最後の1枠のみとなった。3位以下は激戦で、3勝5敗のウクライナは勝ち点1差でジョージアとアイスランド(ともに4勝4敗)を追いかけている。

 

 2次予選に突入した後、ウクライナは8月のWindow4でイタリアとアイスランドに僅差で連敗を喫したが、11月のWindow5ではオランダとアイスランドを倒して盛り返した。戦禍が続く中でWindow5を良い形で乗り切れた要因として、アイナス・バガツキス(Ainars Bagatskis)HCは一体感を挙げている。「私は過去の代表候補や所属クラブ同士の交流で、以前から今回のメンバーを知っています。皆の方も私の戦い方を知っていますし、しかも高い意欲を持っています」というのが、チームケミストリーが良い理由だ。

 


Window5の2戦目でアイスランドを倒した後のウクライナ代表(写真/©FIBA.WC2023)

 

 NBAのサクラメント・キングスに所属するアレックス・レン(Alex Len)は、スビ・ミハイリュク(Sviatoslav Mykhailiuk、ニューヨーク・ニックス)とともに夏場のWindow4に出場した。そのときは勝利をつかむことができなかったが、続いて9月に行われたFIBAユーロバスケット2022では、6試合に出場してチームのベスト16入りに貢献した。Window4を終えた後、「祖国のファンのことが頭に浮かんできました」というレンのコメントがAP電で報じられている。「皆で話し合い、もっと一丸となって戦おうと決めたんです。祖国が大変なときなのだから、もっと懸命にやらなければ。戦おう、やってやろう。国に対する敬意を示そうよと」

 

 ユーロバスケットでは、そんな絆が結果として現れた。それはNBA組がいなかったWindow5での成功にもつながっていたように感じられる。

 


Window4のアイスランド戦でのアレックス・レン(写真/©FIBA.WC2023)

 

☆FIBAワールドカップ2023ヨーロッパ地区予選の2次ラウンドグループLの3位争い(Window5終了時点)

※表記はグループ順位、チーム名、勝敗、勝ち点

3 ジョージア 4-4(12)

4 アイスランド 4-4(12)

5 ウクライナ 3-5(11)

6 オランダ 0-8(8)

 

 主力数人の故障も伝えられているウクライナの立場からは、残り2試合での上記の順位表は一見絶望的に見えるかもしれない。しかしウクライナはジョージアとアイスランドに対するタイブレーカーを持っており、逆転が可能だ(どちらとも1勝1敗、ジョージアとは得失点差+8、アイスランドとは得失点差+4)。ただし来年2月のWindow6でウクライナは2連勝が最低条件。かつジョージアとアイスランドがどちらも1勝1敗以下だった場合のみ、本大会出場がかなう。

 

 Window6のウクライナは、東京2020オリンピックで5位に入ったイタリアと、グループ最下位のオランダを相手に戦う。格上のイタリアとの初戦(2月23日[木]のアウェイゲーム)に勝利できれば、本大会進出の希望が膨らむ。

 

 希望が膨らむということの意味は、ウクライナの現状を思うと計り知れず大きいはずだ。

 

 

 ミサイルや銃砲による攻撃におびえながら暮らさざるを得ない子どもたちの姿も伝えられている。平和にバスケットボールをできること、お気に入りのチームやプレーヤーを応援できることが当たり前ではない人々に、このスポーツがもたらす喜びはどれだけ大切なものだろうか。

 

 かつてNBAで活躍したスラバ・メドベデンコ(Stanislav Medvedenko)は、ロサンゼルス・レイカーズの一員として勝ち取った2つのチャンピオンシップ・リングをオークションにかけ、その収益をウクライナの子どもたちのカウンセリングやバスケットボール活動継続などの支援に当てたことが報じられている。メドべデンコより以前にアトランタ・ホークスでプレーしたアレクサンダー・ボルコフ(Alexander Volkov)は、58歳になった今年3月に、祖国の惨状に胸を痛め従軍を志願した。ボルコフは自身がバスケットボールを教えていた子どもたちをリトアニア出身の元NBAプレーヤー、サルナス・マルシャロニス(Šarūnas Marčiulionis)の下に避難させたことも伝えられている。

 

 レジェンドたちが私財を投げ出し、体を張っている。それは人々の希望を膨らませることを期待してのものだろう。それほどまでの価値がそこにあると捉えているからこその行動だ。男子ウクライナ代表のメンバーにとって、彼らの思いも背負って戦うWindow6は特別に意味深い舞台になりそうだ。

 

文/柴田 健(ゲうバス.com)

(月刊バスケットボール)



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