ウクライナのバスケットボールは今(1)——FIBAユーロバスケット2023予選突破を目指す女子ウクライナ代表の奮闘
今年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、世界中の人々の生活に様々な形で困難をもたらし、12月に入った今も戦禍が収まる気配がない。侵攻を受けたウクライナ国内の惨状は日々伝えられている。しかしそのような環境のウクライナで、バスケットボールを続けている人々がいる。祖国代表はワールドカップやユーロバスケットの舞台を目指しているし、国内リーグもバブル方式で進行中だ。
逆にキャリアを断念せざるを得ない人や、国外に退避する決断をした競技関係者もいる。かつてバスケットボールで鍛えた体を投げ出し、武器を片手に祖国を守ろうとしている人もいる。生きる喜びをかみしめるためか、祖国に希望を届けるためか、厳しい現実にあらがう姿が意味するものは何なのだろうか。
女子ウクライナ代表は来年6月にスロベニアとイスラエルの共催で開催されるFIBAユーロカップ2023の予選に参戦している。38チームが10グループに分かれて総当たり戦を行い、グループ1位の10チームと2位チーム中の成績上位4チーム(計14チーム)が本戦に進出できるフォーマット。ウクライナはフランス、リトアニア、フィンランドと同組のグループBで現在2勝2敗の3位だ。
昨年11月14日、フランスを破ったウクライナの面々(FIBA.EuroBasket2023)
この大会でのウクライナは、残念ながら戦禍の影響が色濃く反映された経過を辿っている。侵攻が始まる前だった昨年11月に行われたWindow1では現在グループ首位のフランスに90-71、同最下位のフィンランドに対し77-71と連勝。しかし、今年の11月のWindow2ではリトアニアに62-81、フランスに88-109と差をつけられて連敗を喫した。
Window2で勝てなかった要因の一つにはベテランのガード、オルガ・デュブロビーナ(Olga Dubrovina)を欠いていたことが挙げられる。昨年11月にフランスを破った試合では8得点、12アシストでチームを勢いづけた。しかしウクライナバスケットボール連盟公式サイトには、スルダン・ラデュロビッチ(Srdjan Radulovych)HCの「残念ながらデュブロビーナはほぼ終わってしまった」というコメントがあり、フランスのバスケットボール専門メディア「バスケットヨーロッパ(www.basketeurope.com)」は、デュブロビーナ本人の「コーチやチームメイトから電話で何度も来てほしいと言われたけれど、私はもう99%終わり。故障やそのほかのことでプレーできないと思います」というコメントを報じている。
プレーしたくないわけではなく、気持ちは今にもコートに飛び出してチームを助けたい。しかしそうできる状況にない。デュブロビーナはその悔しい思いを語っている。最後にプレーしたのは3月のウクライナ国内リーグの一戦。「8ヵ月もバスケットボールから離れてしまい、さてフランスに対抗しようかというのは無理」と話す。
オルガ・デュブロビーナはキャリアを断念せざるを得ない状況だという(FIBA.EuroBasket2023)
また、代表招集とチーム作りに困難が伴っているのも言うまでもない。Window2のリトアニア戦は11月24日に同国のビリニュスで行われたが、チームの招集はそのわずか4日前で、場所もリガ(ラトビア)だった。
とはいえ、本大会進出の可能性が断たれたわけではない。来年2月の最後のWindowでは、フィンランドとリトアニアを相手に戦うホームゲームをどちらも勝利することがほぼ必須条件だが、どんな結果になるだろう。問われているのはプレーする技量ではなく、過酷な戦時下の社会状況で力を発揮することができるかどうかだ。
Window2開幕前、ラデュロビッチHCは「戦争でウクライナの女性は世界一強いということがわかりました。それを見せてくれることを望んでいます。ウクライナの国旗を背負う戦いに、皆燃えてくれるでしょう」と話していた。このWindowでは負けたとはいえ、だからこそWindow3への思いはいっそう強くなったのではないだろうか。その頃にはウクライナに平和が戻り、チームとしての全力を尽くせる状況であることを願わずにはいられない。
文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)