月刊バスケットボール5月号

今週の逸足(CLASSIC KICKS)Vol.10-2

  NIKE DUNK FLYKNIT ナイキ ダンク フライニット   文=岸田 林 写真=石塚康隆   (つづき) そのときの需要によって毎月値段は変動するが、AJⅠ~Ⅶまでであれば、140~400ドル(当時のレートで約1万5,120円から4万3,200円)程度は確実。珍しいモデルやカラーであれば、つわもののコレクターたちがオークションで争うことになる。   同じ頃、ニューヨークの新聞には「あなたのクローゼットにある古いナイキの靴を売ってください」という広告が連日のように掲載されていた。マンハッタン近郊のホテルの一室では、週末ごとに即席のスニーカー買い付け会が催され、古いAJやダンクが一足数百ドルで買い集められる。これらはそのまま航空便で日本へ届けられ、10万円以上の値札が付けられたが、それでもミントコンディション(最良な状態)のものから買い手がついていく。当時、ミシガン大カラー(紺×黄)の「ダンク」なら20~30万円程度が相場とされ、ニューヨークタイムズ紙は日本におけるヴィンテージスニーカーの市場規模を1,000万ドル程度と報じている。   この異常事態を受け、ナイキは99年に初の「ダンク」復刻を決定する。もちろん競技用ではなく、タウンユースを想定してのものだ。だが意外なことに、この復刻版を着用するNBA選手が現れた。92年のスラムダンクコンテストで“目隠しダンク”をして話題となったセドリック・セバロス(元レイカーズほか)が、マブス時代の99-00シーズンにたびたび「ダンク」でプレイし、スニーカーマニアの注目を集めた。これは、ジョーダンが2度目の現役引退直前の98年12月、マディソン・スクエア・ガーデンでの最後(当時)の試合に初代AJで臨んだことを例外とすれば、おそらくNBAのコートでレトロキックスが着用された最初の事例だろう。   こうして発売から30年余り、パフォーマンスモデルとして「ハイパーダンク」シリーズにそのスピリットが受け継がれている一方で、「ダンク」はストリートに欠かせない存在として進化を続けている。例えば2002年にはスケートボーディング用にアレンジされた「ダンクSB」が登場。以降、数々のアーティストやブランドとのコラボに加え、「エア ズーム ダンケスト」、「エア トレーナーダンク」、「ウーブン ダンク」といった過去の名作とのハイブリッドモデルも登場し、今年に入って「ナイキ ダンク フライニット」が発売された。尽きないバリエーションは、30年前に誕生した「ダンク」のデザインの普遍性を物語っていると言えるだろう。 (おわり)   (月刊バスケットボール)

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