月刊バスケットボール1月号

Bリーグ

2022.11.16

コービー・パラス(アルティーリ千葉) - 千葉に飛来した“フィリピン・イーグル”の脅威

 フィリピンの国鳥とされるフィリピン・イーグルをご存じだろうか。美しい青い目と冠のようなとさかを持ち、フィリピンではジャングルの王者とも呼ばれる大型の猛禽類だ。両翼を広げると約2メートルにもなる。鋭い爪が備わった両足は、中型の哺乳類の骨をも砕くほどの力があるという。親鳥の狩猟はしばしばチームワークで1羽が獲物の群れを威嚇・かく乱し、狙いを定めたもう1羽が上空から捕獲作業を遂行する。


アルティーリ千葉が今シーズン獲得した新戦力の一人、コービー・パラスには、祖国フィリピンの国鳥に相通じる特徴がある。身長198cm、体重91kgの均整の取れた体系に優し気な表情の25歳。父が元プロバスケットボール・プレーヤーで母が元女優ということもあり、インスタグラムのフォロワーが82万人を超えるセレブリティーでもある。まるでファッションモデルのような優雅な容姿——こんな形容はまったくお世辞ではなく、パラスのアウトフィットは彼が着ているだけでかっこよく見えてしまう。

 

コービー・パラス(Kobe PARAS)
アルティーリ千葉 SF 198cm/91kg 1997年9月19日生まれ(フィリピン出身)
©B.LEAGUE


しかし、バスケットボール・プレーヤーとしてパラスがコート上で表現するスタイルは、専門媒体の視点からすればさらに魅力的だ。対戦相手とすれば大きな脅威に違いない。コービー・ブライアントにちなんでつけられた名を持つパラスの本質は間違いなく、バスケットボールの申し子と言えるものだ。


鮮烈な千葉でのデビューにレマニスHCも驚き


オフェンスに関していえば運動能力と創造性、スピード、高さ、激しいコンタクトに負けずペイントに攻め込んでいけるしぶとさ、オープンスペースに味方が走り込んでくる前に、絶妙のタイミングで絶妙の位置にポケットパスを通す能力などが挙げられる。ロングレンジからの“レインボー・スリー”の脅威もある。現代的なウイングのポジションに望むべきもので、パラスが持っていないものはないようにさえ感じる。


パラスはコンディション面の調整に時間を費やしていた関係で、開幕から6試合を欠場したが、A千葉でのデビューを飾った10月22日・23日の香川ファイブアローズとの2連戦は「鮮烈」という言葉がぴったりの大活躍でチームの2連勝に貢献した。


この連戦でのパラスは平均12.0得点、フィールドゴール成功率53.3%、3P成功率50.0%(8本中4本成功)、1.0リバウンド、2.0アシスト、1.0スティール、3.0ブロックという数字。特に2試合目ではスティール2本とブロックショット5本を記録し、ディフェンス面で強烈な存在感を発揮した。アンドレ・レマニスHCはパラスの活躍を見て、「運動能力が高いのは知っていましたが、想像以上でした(I know he’s a very good athlete, but actually a better athlete than I had anticipated.)と絶賛していた。

 

「ショットも良く入りましたが、オフェンスができるのはわかっていました。でもディフェンスではどうかと思っていたんですよ。ローテーションやヘルプ、ブロックショットやリバウンドができるかどうか。彼は大型のガードにスウィッチして対応できますね。ディフェンス面でチームに柔軟性をもたらしてくれる存在で、間違いなくこれまでウチになかった戦力です」
“He made some shots. We know he can play offense. But how was he going to be at the defensive end, his ability to just rotate, help ‘em out, you know block a shot, get the defensive rebound? We can switch him on the bigger guards like I think he gives some versatility at that end of the floor that we haven’t had in my time here for sure.”

 


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レマニスHCのスタイルの幅を広げる新たな脅威として、パラスは試合を重ねるたびに存在感を強めている。


第7節までに出場した7試合はすべてベンチスタートで、その間チームは5勝2敗の成績だ。5勝の中には東地区首位の越谷アルファーズをアウェイで倒した勝利と、西地区首位の長崎ヴェルカを20点差で下した直近の白星が含まれている。個人的なアベレージは平均17分42秒の出場時間で9.9得点、フィールドゴール成功率42.9%、3P成功率38.5%(26本中10本成功)、1.7リバウンド、2.1アシスト、0.7スティール、1.1ブロック。パラスは自身について「気持ちを表に出すタイプ(Emotional person)」と話しているが、ベンチから良い流れをもたらす存在として、そんな個性もプラスの作用となっているように感じられる。


B1の新潟アルビレックスBBで49試合に出場した昨シーズン(平均21分45秒の出場で8.2得点、フィールドゴール成功率35.0%、3P成功率35.3%、2.1リバウンド、1.2アシスト、0.7スティール、0.4ブロック)に比べると、コンディションが万全でない状況ながらパフォーマンスが全体的に上昇している。

 


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「日本でプレーしていることが現実と思えないほどうれしい」


長崎を104-84で破った11月13日の試合後会見で、パラスに自身の現状を聞くと、「今置かれている状況とチームが我が家にいるように感じられて、役割的にも心地よい状態なんです(I just feel like the situation I’m in, the team I’m in…, it feels like home. I’m very comfortable with the role I have.)」と内面的な要素を好調の要因として挙げていた。チーム内でのコミュニケーションが良好で周囲の助けが力になっているという。


「みんな話しかけたりつきあいやすいので、この環境のおかげで楽しく穏やかな気持ちでいられます。それでパフォーマンスが上がっているんでしょうね。今シーズンはまだ始まったばかりです。これからももっとうまくプレーできるように続けていきたいです」
“They’re easy to talk to and get along with. So, to be in an environment like this where I feel very happy in the peace, I feel that’s why I’m performing better. This is just the start of the season. So, hopefully, I’m gonna do a better job and continue this.”


コンディションも気になるところだが、チームに合流した時点の状態に比べると大幅に改善しているという。ただし全快ではなく「ご覧のとおりまだ苦しんでいます。プロらしくしっかり調子を整えてチームの勝利に貢献したいし、望まれることは何でもやりたいです(as everyone can see, I’m still struggling. So, I have to do a better job as a professional to be in a better shape so I can help the team win, whatever they need.)」と話した。現状のパフォーマンスにまったく満足していないことが感じられるコメントだが、それだけにチームや千葉の地にいっそうなじんでいくだろう今後が楽しみだ。


ホームタウンへの親近感を聞くと、千葉周辺で楽しめる場所も徐々に見つけているとのことだった。特に日本食スポットにチームメイトと繰り出して、親睦を深めているという。「僕は食べるのが好きなので、すしや焼き肉、ラーメンなんかを食べに行きます。街が近いというのはいろいろ選べる点でいいですね。チームメイトと一緒に食べに行けますし、いい感じです(I like eating food. So, I just go to the sushi spot or yakiniku or ramen. I’m happy that I’m in the city because I have a lot of choices and I get to eat out with my teammates. So, that’s pretty fine.)」。ただし、ヘアカットしてもらうお気に入りの場所が見つからない。ヘアバンドを使っているのはそのためだった。

 


千葉の街とファンへの親しみについての会話は、パラスの表情を柔らかくしていた。ファンに対する思いを聞いた際、最初の一言が日本でプレーできることに対する喜びだったのも印象的だ。「日本でプレーしていることが現実と思えないほどうれしいです。人生の中で、海外でプロになるとは思ってもみませんでしたから(It's still surreal for me to be playing in Japan. I never thought I’d be playing overseas in my life.)」。こう答えた後、パラスはファンへの思いを笑顔で次のように話した。


「ここで日本のファンの応援を受けられてとても光栄です。千葉の代表として、ファンがもっと誇らしく思えるようなプレーぶりを披露したいです。ホームでもアウェイでも、応援してくれるファンの存在が僕らの力になりますし、僕は特にそうです。すごくうれしいことですし、皆さんに誇らしく思ってもらえるように頑張っていきたいです」
“So, to have local Japanese fans, it’s truly an honor. Hopefully, me representing Chiba, I mean make the fans even more proud with how I play. And every game we have, whether that be a home game or away game, the fans cheering us truly give us motivation, especially me. So, I’m just grateful and hope I can keep making the fans proud.”

 


©B.LEAGUE


A千葉にやって来たのはブラックネイビーのユニフォームで歴史をつくるため。ファンの期待を胸に、大きな“獲物”を狙うパラスのハンティングが始まった。

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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