月刊バスケットボール5月号

NBA

2022.11.10

渡邊雄太にジャック・ボーンHCへの恩返しの機会到来 - ネッツがボーンを正ヘッドコーチに任命

 渡邊雄太が所蔵するブルックリン・ネッツが、ヘッドコーチ代行を務めていたジャック・ボーンの正ヘッドコーチ就任を発表した。ネッツは就任発表当日の日本時間11月10日(北米時間9日)にクロスタウン・ライバルのニューヨーク・ニックスとのホームゲームを控えており、この日からチームとして新たなスタートを切ることになる。

 

 ネッツが発信したリリースで、ショーン・マークスGMは「バスケットボールに関するジャックの洞察力と競争力、この組織とチームについての知識の観点から、今後我々が前進していく上で彼は間違いなく最高の人物です(Jacque’s basketball acumen, competitiveness and intimate knowledge of our team and organization make him the clear-cut best person to lead our group moving forward)とコメントした。「彼は我々のプレーヤーの能力を最大限に引き出し、やるべきことをやりまとまりのあるチーム第一のバスケットボールをさせることができます(He has a proven ability to get the best out of our players, hold them accountable and play a cohesive, team-first style of basketball.)」

 

渡邊雄太のNBAキャリアのスタートで機会をもたらしたボーンHC


ボーンHCの誕生は、2日前のダラス・マーベリックス戦で左足をネンザして、この日のニックス戦欠場が発表されている渡邊の今後の活躍を見る上でも、注視すべき出来事だ。ボーンHCは、2018年のドラフトで指名されずにいた渡邊がネッツで初めてサマーリーグに出場したときにベンチで指揮を執り、小さなことを積み上げる渡邊の堅実なプレーを高く買っていた人物だ。ボーンHCから5試合で平均24分間の出場機会(2度はスターター)を与えられた渡邊は、そこで平均9.4得点、4.2リバウンド1.2アシスト、1.6ブロックのアベレージを残し、その後メンフィス・グリズリーズとのツーウェイ契約を手にして日本人として2人目のNBAプレーヤーとなった。

 


当時ボーンHCは、渡邊について以下のようなコメントをしていた。


「彼は間違いなく私とコーチングスタッフを心地よくしてくれています。ウチのチームでは練習でも試合でも最も安定感があるプレーヤーで、私はそこを評価しています。ウイークサイドでブロックアウトしているし、その能力が高いです。本能的にどこに行けばよいかを知っているんですね」
“He’s making me more comfortable, the coaching staff, for sure. He’s probably been our most consistent player, practices and games included. So I give him credit for that. You saw the weak-side block, the ability to block out, those little things. You see instinctively he knows where to be.”

 

 渡邊にとっては、ボーンHCに恩返しする機会が訪れた形だ。

 

 ボーンHCは2012-13シーズンから2014-15シーズン半ばまで、オーランド・マジックで正HCのポジションを務めていた。このときはどのシーズンも負け越しで、最終年はシーズン半ばに解雇されている。しかし今回はマークスGMもコメントしているとおり、チーム事情を当事者として把握しているという点で最良の候補だったに違いない。


ボーンがHC代行としてチームを引き継いだタイミングは、チームの中心の一人であるカイリー・アービングがオフコートの問題で出場停止となった上、ベン・シモンズが短期間に離脱・復帰という経過をたどり、セス・カリーが本格的に戦列復帰を果たすという嵐のような流れの中での出来事。正HCのポジションには、ボストン・セルティックスでチーム規約違反を起こして今シーズン全体の出場停止という重い処分を受けたイメイ・ウドカを招き入れるのではないかとの情報も広まり、物議をかもしていた。

 


その中でボーンはHC代行として間違いなく流れを変える采配を見せた。スティーブ・ナッシュからポジションを受け継いだ後のネッツは2勝2敗の成績(アービング欠場後は2勝1敗)。特異なチーム事情の中で戦い方の変化は様々なところに感じられるが、大きなものはデュラントの生かし方とディフェンスだ。


ごく大雑把に捉えれば、これまでのネッツのオフェンスがデュラントとアービングのアイソレーションに軸足を置いていたのに対し、現在はデュラントをオフェンスの中心としながら、そのほかの4人が得点機を生み出す形が頻繁にみられる。それがうまく機能して、デュラント自身の平均得点は2勝5敗と苦戦したそれまでの7試合における平均32.6得点から28.3得点に減少したが、逆にアシストが平均4.1本から5.8本に増えている。デュラントにアシストがつかないプレーでも、起点となってボールを回した先の展開で得点につながるケースはたびたび見られる。


渡邊もこの戦い方の恩恵を受けている一人とも言え、上記の同じ期間で平均得点が3.5から8.8得点へと大幅に上昇している。


またディフェンスに関しては、最初の7試合で平均120.3あった失点が、ボーンがHC代行を務めた4試合では平均96.0。失点100以上だったのはボーンHC代行としての最初の試合だった日本時間11月2日(北米時間1日)のシカゴ・ブルズ戦のみ(ネッツは99-108で敗れた)だ。


故障欠場となった渡邊が今後ローテーションのスポットを確保できるかどうかは不確定要素も多いが、ボーンHCは渡邊に対する信頼度の高い人物とは言える。直近の4試合でも、途中で離脱したマーベリックス戦以外の3試合ではいずれも23分以上の出場時間を得ていた。シモンズとカリーがいまだ万全の状態にほど遠い出来であることを思うと、渡邊自身がしっかりコンディションを整えて戦列復帰を果たすことさえできれば、活躍の機会を期待できそうだ。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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