月刊バスケットボール5月号

NBA

2022.11.09

優等生ではないケビン・デュラント(ネッツ)のコメントに感じるNBAの面白み

 日本時間11月8日(北米時間7日)のダラス・マーベリックス対ブルックリン・ネッツ戦は、最後の最後まで勝負の行方がわからない激戦となり、96-94でマーベリックスが勝利した。両チームの対戦は今シーズン2度目。マーベリックスは最初の顔合わせでも延長の末にネッツを129-125で下しており、これでシーズンスウィープとなる。ネッツとしては非常に悔しい結果だったが、中でも苦々しい思いをしたのは大黒柱のケビン・デュラントに違いない。

 


デュラントは 93-96で迎えた第4Q終盤の残り5.6秒に、3Pショットのアテンプトでファウルを受け、3本のフリースローを与えられた。イージーマネー(「楽に稼げる金」から転じて「楽々得点を奪うスコアラー」といった意味合い)のニックネームで知られる点取り屋のデュラントに対するクラッチタイムのファウル。マーベリックスにとって冷や汗が止まらないような出来事だ。しかもデュラントは、その時点までフリースローを62本連続で成功させていた。


もう延長突入は決まったようなものと思ったファンも多かったのではないだろうか。しかし名手の2本目は手元が狂いミスに終わる。第3投は意図的にリングに弾かせてフィールドゴールの機会を狙ったが、得点機に結びつけることはできず万事休した。


デュラントは第4Q残り5分7秒に、マーベリックスのガード、ジョシュ・グリーンのピックプレーに対して強烈なコンタクトを伴うファウルを犯し、続けてグリーンと何やら言い合いとなったことでテクニカルファウルを吹かれるという場面もあった。このプレーでルカ・ドンチッチが1本、グリーンが2本フリースローを決め、マーベリックスのリードは88-78と10点に広がった。


このテクニカルファウルの背景には、マーベリックスのベンチにいた元ネッツのシオ・ピンソンとデュラントの言い合いが続いていた状況があった。ピンソンはデュラントに、マーベリックスのジャンク・ディフェンスを打開するにはアービン“マジック”ジョンソン(元ロサンゼルス・レイカーズ)のようにならなければできないぞと挑発したとのこと。デュラントはそれに対し、自分の力を認めているからこそそうした特別な対策が必要なんだろうと返していたそうで、そのやりとりが冷静さを失う原因だったようだ(後述のコメントを見ると、デュラント自身はそれを認めないかもしれないが)。


試合後の会見でデュラントが語ったコメントには率直な思いがあふれていた。フリースローのミスを振り返ったときには、放送禁止用語も口を突いて出てしまう。「あれは入れなきゃ。入れとかなきゃいけなかった。あれを入れるためにやっているんだ。(放送禁止用語)いつもの流れで打ったのに。しくじった。あとほんの少し強く打てばよかった(I gotta make that. I gotta make that. That’s the game. F--k, man…, I felt like, you know, I went through my whole routine. Damn, I should have shot it a little stronger)」とデュラントは悔やんでも悔やみきれない様子で話した。


「最悪、最悪です、ご覧のとおり。ゴールを前にして自由に打てるのに。いつも言っている通り、自由に打てるんです。そこまで行けたのに1本失敗するとは。むかつく。ほかにあまり言うこともありません。とにかくむかつきます」
It sucks. It sucks…, you know what I’m saying. You get a free shot at the rack. I tell you all the guys all the time, they’re free. An I was able to go there and miss one. It sucks. You know not much else I can say about it. It just sucks.

 


ピンソンとのやり取りについては、「何に腹を立てていたんですか?」と問われてこんな返答をしていた。


「腹を立ててなんかいませんよ。最高に楽しい時間でした。僕はファンや相手チーム、コーチとからかい合うのは大好きですから。相手もそれが健全だと感じています。別にシオが話しかけてきたことで怒ってケンカを売ろうってわけじゃありません。楽しんでいたんですよ。僕にとって今夜はこれ以上ない最高の場所でした」
“I wasn’t pissed off. I was having an amazing time, a great time. I love talking s--t to fans, other teams, coaches. And they sense that it’s a healthy thing. It’s not like I’m upset or wanting to fight Theo, you know, or pissed off at him for talking to me. I was having an amazing time Ain’t no better place for me to be at this point in my life. It was where I was tonight.”


冷静に捉えれば、大黒柱らしからぬ二つのミスが勝負を大きく左右する要因になったと言えるだろう。しかしそうなってしまうほど熱狂的な試合であり、このような要素がその熱狂を生み出していたとも言える。


ただの優等生ではないデュラントのコメントには、リーグを代表するスコアラーのプライドや、1980年代・90年代に比べればかなりソフトになったと言われるNBAにいまだ息づいているプレーグラウンドのタフなカルチャーのエッセンスが詰まっている。きれいごとではないNBAの世界はやはり面白い。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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