2連続3Pショット成功、調子を上げる渡邊雄太に「ルカ・ドンチッチの試練」
日本時間10月28日(北米時間27日)にバークレイズ・センター(ニューヨーク)で行われたブルックリン・ネッツ対ダラス・マーベリックスの一戦は、ネッツに所属する渡邊雄太が終盤の勝負どころを含め今シーズン最長の22分38秒間プレーし、延長戦になだれ込む大激戦となった。
前日のミルウォーキー・バックスとのアウェイゲームで今シーズン初得点となる3Pショットを成功させた渡邊は、この試合でも前半のオフェンスでネッツにインパクトをもたらした。19-23と4点差を追う第1Q残り2分41秒にコートに入り、第2Qもそのままスターターとしてプレー。するとクォーターの残り10分29秒にロイス・オニールの3Pショットをアシストし、その後の2度のポゼッションで自らも連続して3Pショットを成功させた。
この2本の3Pショットで渡邊は得点を今シーズン最多の6まで伸ばし、最終的に試合を通じてこの6得点に加えて4リバウンド、2アシスト、1ブロックを記録した。渡邊は第4Qもスターターを務め、ルーズボールを拾ってカイリー・アービングにつなぎ、3Pショットをアシストする好プレーもあった。延長でも渡邊はスターターに名を連ねた。
試合には125-129で敗れたが、渡邊がコートに立っていた間のネッツはマーベリックスを得失点差で4点上回っていた。総じて間違いなく、チームに貢献できたと言ってよいだろう。しかし内容的には厳しさも伴う一戦だった。特に難題を提供したのは、本来一番の持ち味であるディフェンス面で、渡邊は主にルカ・ドンチッチに対するマッチアップでファウルがかさみ、失点を食い止めることに苦労させられた。
世界一のプレーメイカーが渡邊に提示するチャレンジ
渡邊のディフェンスに何か問題があったと言いたいわけではない。ドンチッチはこの試合で41得点、11リバウンド、14アシストの驚異的なトリプルダブルを記録し、試合を支配したが、絶好調の世界的プレーメイカーの驚くべき能力をまずは高く評価すべきだ。誰が守ってもドンチッチを抑えるのは非常に難しいことなのだ。
しかし渡邊がこの世界にいる限り、ドンチッチや前日対戦したバックスのヤニス・アデトクンボなど超人的能力を持つプレーヤーとのマッチアップを楽しみ、何とかして対抗していかなければいけない。
渡邊はマーベリックスのオフェンスエントリーではレジー・バロックやティム・ハーダウェイとマッチアップし、彼らがピッカーとなってしかけられるピック&ロールやスクリーンプレーでスウィッチして、ドンチッチをガードする形が多かった。その状況下、渡邊5つのファウルのうち3つをドンチッチとのマッチアップでコールされた。また、そのうち第3Qの4つ目、5つ目のファウルはスウィッチしてドンチッチと対峙した状況でのものだった。また、ファウルにならなかったケースではドンチッチ自身に得点を奪われたり、ピックからロールあるいはポップアウトしたマブスのプレーヤーに得点機を作られてしまう場面がたびたびあった。特に5ファウルでプレーした延長の序盤はそのパターンから立て続けに失点し、ネッツは残り1分40秒時点で116-125と引き離されてしまった。
ファウルに関しては、4つ目ドンチッチのドライブにうまく対応してコースをふさいだように見えた紙一重のファウル。5つ目はドンチッチとのアイソレーションとなった後、3Pショットをクローズした際に指先がドンチッチの手に軽く触れたところを吹かれた。どちらも不運な側面もあったかもしれない。しかしそれでも吹かれてしまうことがあるのが現実だ。
ファウルにならず失点につながってしまったケースは、相手のピックプレーへの対応としてチームディフェンスで何ができるか、ネッツ全体の問題もあるに違いない。渡邊としては、味方とのコミュニケーションをさらに改善するとともに、この日のスカウティングから得られる情報の分析でディフェンスの精度を高めていく必要があるだろう。相手はいかなるタフショットも沈める能力があり、360度全方向の視界と究極のコーディネーションを身につけた世界一のプレーメイカーだ。
第3Qで5ファウルとなっても、第4Qと延長で渡邊に出場機会が巡ってきたのは、スティーブ・ナッシュHCが渡邊の能力を買っているからこそのことだろう。3本中2本の3Pアテンプトを成功させてシーズンハイの6得点を記録したオフェンスでの好感触と、試練の時間を味わわされたディフェンス。終盤の勝負どころでも長時間オールスター級の主力とともにプレーした経験。悔しい敗北。そのいずれも、次の一戦での向上に繋げられる要素だ。
前述の延長残り1分40秒、ケビン・デュラントがフリースローを得て時間が止まっている間に、スタンドからは飲み物の入ったカップのような物が投げ込まれた。大物がそろい、デュラントとアービングが夜な夜な大量得点を重ねていながら、この黒星で3連敗を喫し1勝4敗のネッツに対するファンのフラストレーションが感じられる出来事だった。それも含めてNBAという世界が提供するエンタテインメントのさまざまな要素が詰まったようなこの日のマーベリックスとの激戦は、渡邊のプレーヤーとしての幅を大きくする糧となる一戦だったのではないだろうか。
文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)