月刊バスケットボール5月号

デフバスケの輪が広がる期待! 「3x3 ENEOS CUP 2022 第1回 3x3デフバスケットボール大会」開催

 特定非営利活動法人 日本デフバスケットボール協会(以下JDBA)の主催で、聴覚障がい者によるバスケットボールとしては国内で初めての3x3の大会となる「3x3 ENEOS CUP 2022 第1回 3x3デフバスケットボール大会」(以下ENEOS CUP)が、10月22日に葛飾区水元総合スポーツセンター(東京都)で開催された。

 

 プロや部活生のような、特定の練習場所を持たないチームやプレーヤーが日頃の練習などで仲間が集まるのに苦労するのは聴覚障がい者も同様で、絶対的なプレーヤー数が少ないことも、その苦労を倍加させている。その点、より少ない人数でできる3x3は、そうした苦労を緩和し、競技に触れる機会を増やすにはうってつけだ。昨年の東京2020オリンピックから正式種目として採用され、5人制とはまた異なるスピーディーな展開で人気を博したこともあり、3x3がデフバスケの競技人口が増えるきっかけとなることも期待されている。

 

 

 今年9月には、国際デフバスケットボール連盟主催による「DIBF 3x3ワールドカップ」がイスラエルで開催されるなど、3x3は世界的な広がりを見せている。折しも、同月にオーストリアで開かれた国際ろう者スポーツ委員会の総会において、2025年デフリンピック夏季大会の開催地が東京に決定。同大会ではまだ3x3の実施の予定はないが、5人制を含めたデフバスケ全体の人口拡大と競技レベル向上を目指すには早期の取り組みが大切で、3x3はきっとその間口を広げてくれるに違いない。

 

 実際、今回のENEOS CUPでも、普段は5人制をプレーしながら仲間が集まるのに苦労しているというチームは多く、人数的な面でよりハードルの低い3x3の大会開催は、バスケットボールを心のよりどころにしている多くのプレーヤーにとって、新たなモチベーションとなったようだ。

 


困難だからこそ、チームの絆がより深まる


デフバスケの特徴として、競技中の音が聴こえない、または聴こえにくいことに対する特別な措置として、JDBA主催の⼤会では試合中、コートの対⾓にフラッグマンを設置し、審判やテーブルオフィシャルのブザーの⾳が鳴るのと同時に目立つ⾊の旗を振ることによって視覚的に状況を判断できるような情報保障を行っている。今回のENEOS CUPもそれは同様で、その点では参加選手たちも普段どおりに臨めたようだ。

 

 

 ただし、本格的に3x3に取り組んでいる選手はまだまだ少なく、10分間(今大会、総当たり戦は8分間)という短い試合時間や12秒のショットクロック、ほぼノンストップで攻防が入れ替わるスピーディーな展開や当たりの激しさなど、3x3ならではの競技特性に対する戸惑いはあった模様。しかしそれも、今大会の、総当たりの後、上位チームによるトーナメントという競技方法が奏功し、試合を重ねるごとに個人として、またチームとしての経験値を高めることができたようで、1日を戦い終えた各チームの選手たちの表情は、思い切りバスケットボールをプレーできた充実感と、3x3という新たな世界に触れた喜びにあふれていた。

 

 JDBAのゼネラルマネージャーで強化委員長を務め、今大会は自ら選手としても大会に参加した須田将広氏は、今後、日本における普及を目指すデフバスケの3x3について、次のように語った。

 

「5人制との違いは、まずなかなか休めないということ。声でコミュニケーションが取れない分、視野を広く持ち、アイコンタクトなどでもっともっとコミュニケーション取らなければいけないこと。ですが、それらによってチームの絆をより深めることができますし、それが3x3の大きな楽しみの一つにもなっていると思います」

 

 これまではまず、「仲間が集まる」ことが高いハードルだったが、その点、3x3はそのハードルを低くし、競技としてのバスケットボールに触れる機会が増えるという点で、デフバスケの輪を大きく広げてくれる可能性がありそうだ。仲間が集まり練習を重ねれば、腕試しをしたくなるのは自然な流れ。JDBA主催としての大会はまだ最初の一歩を踏み出したばかりだが、参加各チームの選手たちが、その楽しさを持ち帰り、パスをつなぐように伝えてゆくことが、第2回、第3回の開催へと繋がってゆくはず。体育館にあふれた笑顔は、きっとそうなるはずと予感させた。

 

 

 

男子優勝☆LAMBELS

 

 ふだんは滋賀県を拠点に5人制チームとして活動しているLAMBELS(レイブルズ)。練習は月に2回ほどで、これまで3x3の経験はなく、今大会に臨むためにチームとして練習を重ねてきたという。


攻防にわたる活躍で見事にMVPを獲得した#24河野康典は、「まさか優勝できるとは。チームメイトどうしでお互い協力したことで結果を残せたかなと思います」と喜びを語った。試合時間の短さもあり、最初は遊ぶような感覚で3x3の練習を始めたが、今大会は、総当たり戦とトーナメントで計6試合を1日でこなすというハードさに驚いた様子。だが、「負けたくない、優勝しようという目標があったので、その目標が達成できて良かった」と笑顔を見せた。

 

 これからは5人制と3x3に並行して取り組んでゆき、「来年のこの大会では連覇を目指したいですね」と、♯24河野は新たな目標に意欲を見せていた。

 

写真左より、♯11辻朋大、♯24河野康典、♯91長谷川徹


女子優勝☆scratch girls

 

 女子優勝のscratch girls。4人のメンバーうち、♯10丸山香織、♯11川島真琴、♯12沼口紗也の3人は、5人制デフバスケの日本代表として豊富な経験を持つが、チームとして3x3をプレーするのは初めて。そんな中、♯11川島は母校である久喜高(埼玉)で3x3をプレーしていたこともあり、今大会ではキャプテンとして力強くチームをけん引した。久喜高は、5人制では関東大会出場、そして3x3では全国大会でコンスタントに上位に勝ち進む強豪校だが、今大会には招待チームとして、♯11川島の後輩であるKUKI GYMRATS(久喜高が3x3に出場する際のチーム名)が参戦した。そして、総当たり戦では先輩と後輩の対決が実現し、先輩である♯11川島率いるscratch girlsが見事勝利。「恥ずかしいプレーはできないなと思っていたので(勝てて良かった)」と#11川島は微笑んだ。

 

 今大会は、最大4名の登録メンバーのうち、1名までは聴者(聴覚障がいを持たない者)の登録が認められたが、scratch girlsも#12楢木ひかるが聴者として出場した。「聞こえる1人と、聞こえない3人との間でどうコミュニケーションをとるかが最初は難しかった」と#11川島は振り返るが、試合を重ねるごとに少しずつその難しさを乗り越え、チームは一体感を増し、そして結果につなげた。

 

「5人制と比べて、切り替えが早く、1対1のスキルが求められるという点で、私は3x3は好きです。いつか、デフと健聴者がいっしょに集まって大きな大会が開催されるといいなと思います」と、♯川島は目を輝かせた。

 

 全員が聴者で、今大会は招待チームとして参加したKUKI GYMRATSだが、キャプテンの♯71髙橋楓羽は、「ふだんは、ろう者(聴覚障がい者)の方と関わる機会も少なく、私たち自身もっとコミュニケーションの幅を増やしていきたいと思い参加しました」と語る。「最初は緊張しましたが、試合を重ねごとに(ろう者も聴者も関係なく)楽しくプレーできました。伝えづらい中で、身振り手振りを使ったりして繋がっているのはすごいなと感じました」と、自身の学びや刺激になるものも多かった模様。様々な環境にいながら、それぞれにバスケットボールを愛し、プレーする者にとって、未来につながる大きな意義のある大会となった。

 

写真左より、♯9楢木ひかる、♯12沼口紗也、♯11川島真琴、♯10丸山香織

 

20~30代のお姉さんプレーヤーたちと伍して戦い、見事3位の成績を収めたKUKI GYMRATS。

多くのデフバスケチームとの戦いは自身の成長につながる貴重な経験となった。

写真左端は日本デフバスケットボール協会の佐知樹一郎理事長

 

 

 


<取材協力>
特定非営利活動法人 日本デフバスケットボール協会
理事長○佐知樹一郎
事務局長、3x3デフバスケットボール大会実行委員会代表○日比野隆
ゼネラルマネージャー、強化委員長○須田将広
手話サークル葛飾


取材・文・写真○村山純一(月刊バスケットボール編集部)



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