“ハマのダンカー”佐藤誠人(横浜エクセレンス#14)とダンクをとことん語る
ウォームアップ代わりのトマホーク。大きく振りかぶってを斧(トマホーク)振り下ろすようにボールをリムに叩き込む
昨シーズンの「B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2022 IN STUDIO(コロナ禍で中止となったBリーグオールスターに代わって開催されたオンラインイベント)で、べストプレーヤー投票ダンク部門の4位として紹介されたことで、B3クラブ所属ながら日本を代表するダンカーの一人として広く知られるようになった佐藤誠人(横浜エクセレンス)。身長189cmで、ペリメーターからのアタックや3Pショットを武器とするスモールフォワードの佐藤は、驚異的な跳躍力と攻守で常に全力を注ぐハッスルが魅力であり、アクロバティックなダンクはそのシグニチャーといえる持ち味だ。その佐藤がオフを終えてコートに戻るタイミングで、ストレートなダンク談義を申し込んだ。
1997年10月14日生まれの佐藤誠人にとって、世代的には2010年代のダンカーたちが最も目にする機会が多そうだ。しかし「バスケを始めて真っ先に見せられたのがマイケル・ジョーダンのDVD」とのことで、一番のあこがれはジョーダンだった。「ダンクだけでなくあのダブルクラッチがすごいなと思って…。レイカーズとのファイナルでやった“ミッドエア・スイッチ”とか、ベースラインを右サイドからアタックしてきて、空中でフェイクをかけて相手をかわしながら決めるプレーとかに憧れたんですよね」
なるほど、ジョーダンにインスピレーションを受けて、ダンクしたいと思い続けて育ったことが、今につながっているのか。
人生一番のダンクは2022.4.9 vs 八王子戦のクラッチ弾
この取材中、たぶん100回以上試みてくれたダンク。成功するたびに見せた笑顔が清々しかった
――トライフープ岡山でプロデビューして、横浜エクセレンスに移籍してきた昨シーズンに脚光を浴びましたが、その後何か変わったことはありますか。
目標が定まって、より上のカテゴリーに上がりたいという気持ちが強くなりました。B1でやりたいなとずっと思ってきて、その気持ちがこの1シーズンでグッと高まって、どうやったら自分がB1でできるだろうとか、今必要なことを勉強するようになりました。
――佐藤選手は、ご自分ではどんな人だと思っていますか。
自分の性格は気分屋でマイペース。本当に面倒くさいと思います、僕は(笑)
――バスケットボール全般で努力していても、周りからは「ダンク以外のことも頑張れ」というようなことを言われながら選手生活をしてきたのかなとも思うんです。
学生時代はもうそういう声が妬みにしか聞こえなくて、「こっちの気持ちも知らないで…」と内心では思っていましたね。試合でダンクはそんなにしないとしても、リバウンドが獲れたりブロックしたりと僕には“デカい一発”があったので、当時の僕はそのチャンスを常にうかがっていました。
ですけどプロに入ったらそうしたプレーは簡単にはできません。僕以上にうまい選手たちがたくさんいて、ブロックはタイミングをずらされてそもそも跳ぶことさえできなかったし、外国籍選手と競い合ってリバウンドを獲るのも難しいし…。いろいろ感じることがあってこれじゃダメだなと。だからダンクもこだわってはいますけど、今は他にももっとプレーを磨きたいなというのがあります。
――先ほどマイペースと自己分析されていましたが、周囲の声に対して頑固になってしまう一面もありますか?
自分で言うのもアレなんですけど、ここまでステップアップできたのは、素直だったからじゃないかと思います(笑) ハイレベルな環境で通用できるために、周りから「こういう方法もあるよ」と聞いたらまずやってみるタチなんです。いろんなものを取り入れて…。10人いれば10人のやり方があるじゃないですか。同じやり方をしてもいいかもしれないですし、それを掛け合わせたり、1回やってみて合わないならやらなければよいという方法をとってきました。
身長189cmの佐藤だが、両足での垂直飛びバックダンクがこの高さだ
――最初にダンクしたのはいつ頃でしたか?
高校3年の5月か6月、最後の県総体前の練習中にやってみようと思って跳んだらできたんです。周りが「え…!」みたいな感じになりました。
――ダンクは簡単ではありませんよね。特に割と小柄な佐藤さんは、できるようになるためにどんな努力をしていましたか
最初は172cmぐらいだったときに、NBAを見てダンクしたいなと思いました。当時もう結構ジャンプ力があって、リングにぶら下がれたんですよ。そこからボールを使ってダンクできるようになるまでに、ボールがすっぽ抜けたり、そもそも届かなかったり、難しかったですけど、だんだん身長が伸びて届くようになっていきました。
一番難しかったのは、本当にリングに入れること。ギリギリでダンクができる人とできない人の差はそこなんですよね。リングの奥に当たって跳ね返ったり、手前にガンとぶつけてしまったり。でも、一番簡単なのはリングの上にボールを持ってきて下ろせばいいだけ。別に投げ込まなくていいんです。リングに触りながら入れればそれはもうダンクという気持ちで、少しずつステップアップです。
そういう練習を高校時代にやっていたら、滑らすように置いてこられるようになりました。それで次の段階として叩きつけようと。何度も何度も練習しましたが、思い切ってやったらある時できるようになりました。その頃には183cmぐらいでしょうか。
ギリギリでボールをゴールの上においてリングに触れるようにして入れられれば、もうダンカーの仲間入り。そこで自信を持ってレベルアップを望む意欲の大切さを佐藤は力説した
――部活の引退で一度コンディションが落ちた後も、ダンクができなくなったりはしなかったですか?
ダンクができるようになった後、県総体で引退してから大学が決まるまで、受験勉強もあって僕は本格的なバスケをしなかったんです。ただ、大学のAO入試というので体力テストがあって、部活は週2ぐらい顔を出していました。そのときも全然跳んだりはしていませんでしたが、おかげでうまくコンディションを保てたのだと思います。引退試合では「できるかな?」と少し心配でしたが、ウォームアップで試したらできて、膝も痛くなりませんでした。
――思い出深いダンクはいつのものですか。
試合中のダンクが一番多かったのは大学時代です。だけど思い出深いと言ったらやっぱり昨シーズンの八王子ビートレインズ戦のダンクですね。
練習中でいうと、大学時代に後輩をポスタライズしたことがあって、それは楽しい思い出です。3対2でアウトナンバーになって、僕がもう跳び上がっているところに後輩が襲い掛かって。その子もすごいジャンプ力があったので、空中戦になって決めた一撃でした。ちょっと気の毒で、「おいおい、なんでここでブロックに来たんだよ~!」となって(笑) その場のみんなが盛り上がりました。
☆筆者補足
佐藤が言及した八王子との一戦は今年4月9日のホームゲームで、第4Q残り55秒に自らのスティールから速攻に持ち込み叩き込んだ同点トマホークを指している。この一撃で延長に持ち込んだ横浜エクセレンスは大﨑翔太の逆転3Pショットで91-89と劇的勝利を収めた。
この試合での佐藤は、“クラッチ”という言葉がそのまま当てはまる驚異的な勝負強さ。試合全体でのスタッツラインは9得点、4リバウンド、2スティール、2ブロックだったが、そのうち1ブロック以外の記録がすべて第4Qでのものだった。
4リバウンドのうち1本はオフェンスで、残り4分50秒にアーネスト・ロスの3Pショットがこぼれたところを空中でティップインする豪快なプレー(ダンクではなかったが)。67-64と接戦の中できわどくリードを広げたこのフィールドゴールは、この試合での佐藤の初得点だった。
次のエクセレンスの得点は佐藤のスティールから出た速攻で、トレーラーとなった佐藤自身がレイアップを成功させた。その次の得点も佐藤。これは69-73と4点差を追う残り1分43秒に、ショットクロック残り2秒を切るところで成功させた3Pショットだ。しかもこのプレーは、味方からのパスが乱れて右サイドのベースラインからコート外に飛び出しそうなところをダイビングセーブした後、同じサイドのコーナー付近まで即座に駆け戻り、アイザック・コープランドのショットがブロックされた後のルーズボールをつかんで成功させたハッスルプレーだった。ここまで佐藤は7連続得点。エクセレンスは72-73と食らいつく。
その後も3Pショットを1本決められ72-76。ママドゥ・グアイが1本返して74-76…。そして残り56秒、「人生一番のダンク」が飛び出した。自らのスティールからコートの4分の3を駆け抜け、全力疾走から跳び上がってボールをゴールにぶち込んだ佐藤は、「これがオレのバスケットボールだ!」と世界に知らしめるかのように雄叫びを発した。
歴代最強ダンカーの推しはビンス・カーター
――好きなダンカーと言ったら誰になりますか?
いっぱいいるんですよ! いろいろとタイプが違うので…。マイケル・ジョーダン、ドミニク・ウィルキンス、クライド・ドレクスラー…。
――オールドスクールですね!
この世代が好きなんですよ(笑) 現役ならザック・ラビーンとかデマー・デローザン、ゲームタイムのダンカーでいえばレブロン・ジェームズも好きです。でも、試合もコンテストも含め一番スゴいなと思ったのは、ビンス・カーターですね。
――エルボー・ジャム…! やったことはありますか?
僕、人生で“肘入れ”したことが1回だけあるんです。ボールは持っていなかったんですけど、大学のときに。でも誰も周りにいなかったんですよね(笑)
――今シーズンやるしかないじゃないですか!
できるように鍛えるしかないですね!(笑)
――小柄なダンカーたちはどうですか?
スパッド・ウェッブは168cmくらいしかなかったと思いますけど、すごくいろんなバリエーションができるじゃないですか。ボードを使って一人アリウープもやっていましたよね。ネイト・ロビンソンも好きですし、スティーブ・フランシスも185cmくらいでスゴいダンクをします…。本当に好きなダンカーはいっぱいいます。
――やっぱりスラムダンカーらしいですね。中でも印象に残るダンクと言えばどれでしょうね?
どれだろうなあ…。やっぱりオリンピックの、ビンス・カーターの“セブンフッター越え”でしょうか!? どのダンクハイライトでも絶対出てきますからね。あれが一番スゴいです!
ウインドミル(風車)と呼ばれるこのダンクは、空中でこの体勢からボールを振り回して叩き込む。高さとボディバランスの両方が必要なアクロバティックなダンクだが、これも佐藤は軽々決めてしまう
子どもたちのあこがれになれるように頑張りたい
――ダンクの喜びや楽しさはどんなふうに捉えていますか?
空中でボールをどう扱えばいいかとか、自分の体のどこを軸にして回ればうまくいくか、どういう足の使い方や足の運び方で跳べば一番効率良く高く跳べるかといったことを、1回1回感じながら練習するのが体の使い方の面でも重要だと思うし、すごく楽しいですね。周りの反応ももちろんうれしいです。試合中とかウォームアップで、お客さんが見に来てくれている中だと僕もすごく気分が高ぶるし、「こういう人がいたんだよ!」って覚えて帰ってほしいじゃないですか。
ダンクはしっかり、自分にできる最大限のことを残していこうと思うんです。単純に体を動かすだけのアップというのはあんまり好きじゃないんですよ。そこは魅せられる場だし、自分もちゃんと100%でアップできますからね。
――試合中のダンクには何か特別な気持ちが込められるものですか? 「フィニッシュを強く」と誰もが言いますが、なかなかできないことだと思います。
そうです。ディフェンスが見えると怖いと思ってしまう瞬間もあるんですけど、強いフィニッシュは入らなくてもファウルをもらえますし、相手に「コイツはやばいな」という印象を与えるのはやっぱりダンクです。昨シーズンの僕はどちらかっていうと、かなりびびってたんですよ。外国籍選手がブロックに飛んでくるのに対してダブルクラッチでかわそうとして外したり…、練習中もそうだったんです。そういうのを今年は減らして、「いける」と思ったら、思いっきり突っ込んで、ブロックされてもチャレンジしたいと思っています。
――今年はスマイルパスのサービスもあって神奈川県の子どももたちがたくさん来場すると思いますが、子どもたちは佐藤さんのダンクを見たら絶対忘れないでしょうね。
そうですね。いつも会場にお子さんと見に来てくれている人もいて、「今日もダンクしてね!」と声をかけてくれたりもします。そういってもらえたらやっぱり「任せとけ!」と言いたくなるじゃないですか「将来佐藤誠人みたいになりたい」と思ってくれる子がいっぱい出てくるように頑張りたいですね。
佐藤誠人(横浜エクセレンス#14)SF/189cm/79kg 新潟医療福祉大学卒 1997年10月14日生まれ(新潟県出身)