月刊バスケットボール1月号

Wリーグ

2022.09.08

Wリーグ女王トヨタ自動車の新指揮官。大神雄子の考えるチームの在り方

 Wリーグで連覇を果たしたトヨタ自動車のヘッドコーチに就いた大神雄子。現役時代はENEOS(当時はJOMO→JX)、トヨタ自動車に所属。アテネオリンピックに出場するなど、長く日本代表を支えてきたトッププレーヤー。さらにアメリカWNBA、中国でもプレーするなどパイオニア的存在でもあった。そうした国をまたいでの活躍もあって、現在はFIBAプレーヤーズコミッションのメンバーにもなっている。

 2019-20シーズンにトヨタ自動車のアシスタントコーチに着任。今シーズンより、リーグのチャンピオンチームをルーカス・モンデーロHCから引き継ぐことになった。そんな新指揮官がどうチームを率いていくのか、Wリーグのプレシーズントーナメント、オータムカップで話を聞いた。

 

オータムカップで指揮を執る大神雄子

 

 

─ チャンピオンチームのヘッドコーチとなったわけですが、気持ちやコーチングの部分で準備はできていましたか。

「もちろん、準備はできています。それがなければ引き受けることはできません。中途半端にできるポジションではないですから。試合の結果は私の責任です。選手たちはそこに至るまでの部分をしっかりと責任を果たしてほしいと思っています。練習、試合に臨む気持ちやコンディショニング、自身のスキルアップ。そういったことは選手自身が責任感を持って取り組んでもらいたいと話しています」

 

─ プレッシャーはありませんか。

「あります。ないわけないじゃないですか。成績不振のチームを引き継ぐのなら、一つでも上げればいいわけですから、もう少し気は楽ですよね。でも自分の場合は2連覇したチームを引き継いだわけです。そんなルーキーコーチっていますか? でも、だからこそ挑戦のしがいがあると感じています。そんなチャンスはなかなかないですから。ただ、ヘッドコーチですから、自分が主観的になってはいけないと思っています」

 

─ 今シーズンのチーム状況をどう見ていますか。

「昨シーズン優勝したという経験があっても、それはエブリン(馬瓜)や三好(南穂)、長岡(萌映子)といったベテラン勢がいる中でできたこと。そうした選手が抜けた今シーズンは、やはり一からのスタートだと感じています。川井(麻衣)が最年長(26歳)と、チームは若く、まだまだ経験の足りない選手たちですよね。

 私もそうでしたが、優勝できるチームに挑戦したいといって出ていった選手もいますし、もっとプレータイムが欲しいといってチームを離れれた選手もいます。そうした挑戦に対しては背中を押ししたいと思いますし、梅沢(カディシャ樹奈)や小笠原 (美奈)のように新しく加わってくれた選手もいます。

 今は日本代表候補組(馬瓜ステファニー、平下愛佳、山本麻衣)が抜けていますが、3人はさらにレベルの高いところで、いい経験、挑戦をしているわけですし、ステップアップして戻ってきてくれると思います。残っている選手たちも頑張ってくれています。こちらが止めなければいけないくらい、自主的な練習、スキルであったり、トレーニングであったりといったことに取り組んでくれていて、そうした姿勢には感謝しています。自己満足が評価にはつながらないことはわかっていますが、自分自身も現役の時は大切にしてきたことですし、チームにそういう雰囲気があるのは良い面ととらえています」

 

─ 大神さんの現役時代、JX(現ENEOS)でも同じような状況でしたね。

「そうですね。私たちが代表で抜けているとき、残ったメンバーたちが本当に頑張って練習して、それでチーム力がアップしていきましたね。岡本(彩也花)などは、そうやってポジションをつかんだ選手です。今のトヨタ自動車もそうした雰囲気があると思います」

 

 

─ 理想としては、どんなチームをイメージしていますか。

「難しいですが、選手が自主性を持って、自助力を持って、自分たちで考える力を持って戦っていけるチームですね。

 ただ、今日のゲーム(9月3日の山形銀行戦)を見ていても分かるように、まだまだそのレベルには達していません。ですから、オフェンスはこれ、ディフェンスはこれとこれとブレイクダウンしてやっている。今はそんな状態です」

 

─ メンバーは11人と少ないですね。

「FIBAの公式戦の登録が12人ですから、12人でいいのかなと思っています。今年は11人と一人少ないですが、一つのチームのメンバーとして、全員が切磋琢磨できる状況がいいと思っているんです。15人とか16人とかいると、練習でも5対5に入れない選手が出てきます。そうした状況では、選手たちはなかなかモチベーションを保てませんよね。ですから練習でも、試合でもみんなにチャンスがある。そういった状況でこそ全員が一つになる力が強まるのではないかと。

 逆に11人そろっていないと、長いシーズン戦っていけませんから、コンディショニングには気を付けています。選手個々のデータを把握し、それをコーチ陣と共有して、練習時間を調整したりしています。

 育成という観点では欠けている部分はあると思いますが、今シーズンは信頼できるコーチ陣と、選手11人で、一つのチームになってやっていきたいと考えています」

 

─ ということは、今シーズンもタイムシェアをしていくスタイルですか。

「そうしたいですね。選手も変わっていますから、足し算すること、引き算することはありますが、大きな部分では、昨シーズンまでやってきたバスケットがベースになってくると思います」

 

─ シーズンの目標はやはり優勝ですね。

「目標は皇后杯とWリーグの二冠です。Wリーグ3連覇だけに集中するのではなく、シーズンを通して、常にいいパフォーマンスを発揮していきたいです。そのためには準備を怠らずに、日々臨んでいかなければなりません。全員でその目標に向かっていきます。まだまだ目標には程遠いですけどね」

 

 インタビューの翌日には、オータムカップの最終日を控えていた。大型補強を行ったシャンソン化粧品とのブロック決勝。7選手でオータムカップに臨んでいるトヨタ自動車にとっては難敵だ。「今日のようなプレーではダメですが、修正してしっかりと挑戦します。いい戦いができれば、一本シュート、一つのミスが勝敗を分けると思います」と話していた。

 実際のゲームはその予言どおり、粘るトヨタ自動車が終盤に追い付き逆転。逃げ切りそうな展開だった。残り2.4秒、トヨタ自動車が1点リードの場面で宮下希保がフリースローを得た。一投目を決めて、2点差。2投目はわざと外し、時間を潰す作戦だった。しかし、そのリバウンドをつかんだシャンソン化粧品の野口さくらが、バックコートから放ったシュートがリングに吸い込まれた。ブザービーターの3ポイントとなり、75-76でトヨタ自動車は勝利を得ることはできなかった。

 試合自体、選手たちのプレーぶりには大神HCも満足していたに違いない。得られなかったのは結果だけだ。しかし、オータムカップの場で、こうした信じられないような敗戦を経験したことは、若い選手たちにとって、そして大神HCにとっても悪いことではないだろう。勝利をつかむために、ブザーがなる最後の瞬間まで、わずかな敗戦の可能性も摘み取っていく。そんなこだわりが、皇后杯やWリーグの試合で生きてくるに違いない。

 

 Wリーグの2022-23シーズンは10月19日(水)、トヨタ自動車とENEOSの一戦で開幕する。

 

(文・飯田康二 写真・石塚康隆/月刊バスケットボール)



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