月刊バスケットボール6月号

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2022.08.22

町田瑠唯WNBA初シーズン終了 - 成果と今後への期待

 町田瑠唯が所属するワシントン・ミスティックスが、日本時間8月22日早朝(北米時間21日午後)に行われたシアトル・ストームとのプレーオフ1回戦第2戦に臨んだ。大接戦となった3日前の初戦を83-86で落としていたミスティックスは後がない状態。しかしこの試合でも、ストームの文字通り嵐のようなオフェンスに対抗しきれず84-97で敗れた。この結果、2戦先勝の3試合シリーズで2敗を喫したミスティックスの今シーズンが終了した。


町田はこの試合で6分10秒コートに立った。14-25と11点差を追う第1Q残り36秒には3Pショットで追い上げ、第3Q終了間際のオフェンスでは“ベスティー(親友)”のマイシャ・ハインズ-アレンとのホットラインでレイアップをアシスト。記録としては3得点、1リバウンド、1アシストと際立ったビッグナンバーではないものの、短い出場時間で堅実に貢献した。

 

 

 約4分半出場した初戦でフィールドゴール1本を確実に決め、この試合でも追い上げが必要な場面で望みどおりに得点とアシストを記録した町田だが、61-71の10点ビハインドで始まった第4Qには、スタートでコートに立ちながら1分40秒のプレーで交代。以降コートに戻ることはなかった。マイク・ティボーGM兼HCは試合後の会見で、第4Qの町田の起用法に触れ「今日彼女は6分間プレーしてウチの追い上げの力になりました。でも第4Qにやろうとしたディフェンスでサイズが必要だと感じたんです(I mean she played six minutes. And I thought she gave us a lift. But we felt like, going into the 4th quarter, we needed more size on the court defensively in the way we were playing.)」と話していた。

 

全試合出場で残した爪あと、大きな期待、楽しみな今後


今シーズンの町田がレギュラーシーズンに残した平均1.8得点、2P成功率38.0%、3P成功率20.6%、2.6アシストという数字は、Wリーグの2021-22シーズン(平均10.6得点、2P成功率57.1%、3P成功率35.9%、8.1アシスト)に比べれば目を引くものではないだろう。しかし、富士通レッドウェーブでプレーするときとは違って、ミスティックスにはスターターとしてナターシャ・クラウドというフロア・ジェネラルがいる。クラウドは今シーズン、7年間のキャリアで自己最高の7.0アシストでアシスト王に輝いた。そんな確固たるチームリーダーがいる中、バックアップの司令塔としての町田の存在は光った。


言葉の壁に加えてオフェンス・システムやボールの感覚の違いなども含め適応するのが非常に難しかったはずだが、町田のアシストはチーム2位。堅実さを示すアシスト対ターンオーバー比率2.45は、リーグ全体の18位(チームではクラウドの2.54に次ぐ2位)となる好記録だ。出場している間にチームとして記録するアシストに対する個別の比率を示すアシスト比率は31.3%でリーグ11位(チーム1位)。町田は平均12.9分間コートに立ったが、その間にチームを仕切りクラウドとほぼ同等の堅実さでつなぎ役を果たしたと言え、かつそれがバックアップのプレーメイカーとしてリーグでも上位の成績だったことを、これらのデータは示している。


町田はレギュラーシーズン36試合とプレーオフに2試合すべてで出場を果たしたが、これはミスティックスではほかにアリエル・アトキンスとシャキーラ・オースティンの二人だけ。22勝14敗(勝率.611)の成績でプレーオフ第5シードを勝ち取ったチームでそれだけの信頼を得たことには大きな意義がある。しかも町田は、迎えたプレーオフでの2試合で平均2.5得点、フィールドゴール成功率66.7%、3P成功率50.0%、アシスト1本に対しターンオーバーはゼロというように、プレー全体の精度をレギュラーシーズンのレベルから一段上げてきた。



これらの全体像から町田のWNBA初シーズンは上出来だったと思える。ただし世界最高峰のWNBAレベルであるとしても、ティボーGM兼HCが会見で語った以下のコメントを聞けば、オリンピック銀メダリストでアシスト王のプレーヤーに向けられる期待度はもっともっと高そうだ。


「ルイはシーズンを通じて成長し、向上しました。今後WNBAでやっていけるかどうかは、オフェンスでどれだけアグレッシブになれるかにかかっているでしょう。ディフェンスでは“ペスト”(べったりつきまとうディフェンダーを称える例えでよくこう表現される)だし、パスも素晴らしいです。でもこのリーグでプレーしたいなら、毎度のオフェンスで相手を警戒させないといけません。それが彼女にとっての次なる一歩ですね」
“Rui has grown throughout the year and gotten better. You know her future in the WNBA will be dependent on how much more aggressive she can be on offense. She’s been, you know a pest defensively and she’s a great passer. But you know when you play in this league, you’ve gotta make people honor you every time on the offensive end. So, that’s her next step for her growth.”


ともあれ町田にとっては、慣れ親しんだ日本の仲間たちとプレーするWリーグや日本代表でのプレーに意識を向けるときが来た。FIBA女子ワールドカップ2022を間近に控え、パリオリンピックまであと2年。町田がWNBAで感じた「世界のバスケットボールの今」を日本にどんな形で還元してくれるか。日本の女子バスケットボール界がそれをどのように吸収するか。


同時に、来年ももしWNBAにチャレンジできる機会があったとしたら、言葉や文化が違うバスケットボールの仲間たちと一緒にプレーすることについて、町田はどんな意欲を持って臨んでいくか。ヨーロッパでは安間志織がイタリアリーグに舞台を移し、さらなる飛躍を期する挑戦に臨む。もしかしたら後続のプレーヤーたちが、彼女たちの背中を追ってWNBAをはじめとした海外リーグに挑戦していくようなことも起きてくるだろうか。果てしない発展の可能性を感じさせながら、町田のWNBA初シーズンが幕を閉じた。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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