月刊バスケットボール6月号

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2022.08.19

町田瑠唯いよいよWNBAプレーオフ - 1回戦、対ストーム戦の見どころ

 ワシントン・ミスティックスでWNBAキャリアに挑戦した町田瑠唯の最初のシーズンのうち、レギュラーシーズンが終わった。36試合で22勝14敗(勝率.611)の成績を残し、第5シードでプレーオフ進出を決めた強豪において、全試合に出場した3人のプレーヤーのうちの一人であり、マイク・ティボーGM兼HC以下チームからの信頼を勝ち得ていたことがうかがえるプレーぶりだった。

 

 

 2019年以来3年ぶりのリーグ制覇を目指すミスティックスのプレーオフは、日本時間8月19日(北米時間18日)から。3試合シリーズで2勝した方がセミファイナル・ラウンドに進出できる1回戦で対戦するのは、同じ勝敗ながら直接の対戦成績で1勝2敗と負け越した相手であるシアトル・ストームだ。ホームコートは第4シードのストームが持っており、最初の2試合はシアトルのクライメイト・プレッジ・アリーナが会場となる。ミスティックスは今シーズン、この会場で1度ストームと対戦し、71-85で敗れている。

 

 ストーム側ではベテランの司令塔スー・バードが今シーズン限りの引退を発表しており、このシリーズに向けられた意気込みは高い。

 

 

実力拮抗激戦必至の1回戦、スー・バード効果も?

 

 両チームは平均失点がリーグのトップクラスで、ミスティックス(75.9)がズバリの1位、ストーム(78.4)が3位。オフェンスではナターシャ・クラウド(ミスティックス、平均7.0アシストがリーグ1位)とバード(平均6.0アシストが同6位)というリーグのエリートプレーメイカーを持っており、エレーナ・デレ・ダン(ミスティックス、平均得点17.2がリーグ9位)、ブリアナ・スチュワート(ストーム、平均21.8得点で今シーズンの得点王)という器用でサイズもあるスコアラーもいる。


リバウンドでは、ストームでスチュワート(平均7.6本、リーグ7位)とティナ・チャールズ(平均7.3本、リーグ9位)の2人がトップ10入りしているが、チームとしての平均本数ではミスティックス(34.9本、5位)がストーム(33.6本、9位)を上回る。また最後の10試合の勝敗を見ると、ミスティックスがプレーオフ進出チームに対する4勝2敗を含む7勝3敗、ストームは5勝5敗でプレーオフ進出チームに対して2勝5敗という状況だ。その中にはお互いの直接対決での1勝1敗を含んでいる。


両チームは成績が示す通りほぼ同等の戦力を持っている。しかし勢いとしてはややミスティックスが上回るか。ただしストーム側には、ホームコートアドバンテージや“バード効果”というプラスに働きそうな要素がある。


自信が堅実さに現れる町田


そんな中で、町田はどのようなプレーを見せるだろうか。レギュラーシーズンを通してのアベレージは平均1.8得点、1.1リバウンド、2.6アシスト、0.4スティールの町田だが、ストームと対戦した3試合は以下の通りだった。


6/23 ミスティックス71-85ストーム 町田=2A、±+5
7/30 ミスティックス77-82ストーム 町田=2P、FG1/1、1R、3A、1S、2TO、±+2
7/31 ミスティックス78-75ストーム 町田=2P、FG1/6、3P0/3、1R、1A、±0
町田のストーム戦アベレージ=1.3P、0.7R、2.0A、0.3S、0.7TO、±+2.3
P=得点、FG=フィールドゴール、3P=3Pショット、R=リバウンド、A=アシスト、S=スティール、TO=ターンオーバー、±=出場中のチームとしての得失点差


町田はこの3試合で初戦から順に9分57秒、9分57秒、11分31秒という出場時間。シーズン全体のアベレージと比較して突出した差異と言える項目はなさそうだが、±がマイナスになったことが一度もなく、ターンオーバーも少ない点はバックアップのプレーメイカーとして高く評価できる。加えて、大量得点につながっていないもののフィールドゴールのアテンプトが3試合目で増えている点に、積極性の高まりが感じられる。


町田の積極性の高まりはストーム戦だけのことではなく、レギュラーシーズンの終盤に差し掛かるにつれて目に見えるようになってきていた。マイク・ティボーGM兼HCは、インディアナ・フィーバーに勝利したレギュラーシーズン最終戦後の会見で以下のようなコメントを残していた。

 


「一つ思うのは、プレーのやり方に慣れてきて自信を深めているということです。相手に対して向かっていく姿勢が強まっているからそうなるんだと思います。今日も何度かゴールに突っ込んでいきましたよね。それで1本は吹き飛ばされて(第3Q残り5分1秒のレイアップショットをブロックされたシーン)、スタンドのどこまで飛んでいったかわかりませんけど(笑) でもあれで攻め気をなくすような彼女じゃありませんから!」
“I think for one thing that she’s getting more confident in playing the way she’s used to playing. I think that part of that is just being aggressive attacking people. I mean she went to the rim a couple times. Now that one shot got sent…, I don’t know how far into the stands. But you know I don’t think that’ll keep her from going again!”


「彼女が周りを引きつけてヘルプにこさせることで、いつものようなチームメイトへのパスが出せるようになっています。攻守両面でアグレッシブにやってくれているので、非常にありがたいです。あのディフェンスはウチに必要ですよ」
“You know I think that the fact that she’s getting other people to come over and help will allow her to make some of the passes that she makes normally for teammates. I’ve just been so glad that she’s been aggressive at both ends of the floor you know that defense that she plays…, we’re gonna need that.”

 

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町田が自信を深めていることについてはティボーGM兼HCだけではなく、ティアナ・ホーキンスも言及していた。

 


中央のティアナ・ホーキンスが町田に関する質問に代表して答えてくれた(左はアリエル・アトキンス、右はシャキーラ・オースティン 画像をクリックすると、上記のマイク・ティボーGM兼HCのコメントも含めレギュラーシーズン最終戦後の会見からの動画が見られます)


「自信を持っているということが一番大きいと思います。自信がありますよね! シーズンを通じてジムで一所懸命に頑張ってきたことが、私たちの自信になって表れてくるんです。彼女はコートの端から端までディフェンスするじゃないですか。それもしっかり伝わっていますし、私たちが進んでいくための大きな要素です。彼女は超プロらしいです。全力プレーで私たちのオフェンスを動かしてくれますから。すごいですよ!」
“I think that the biggest thing is she is confident. She’s confident! We’ve been in the gym all season getting extra work and it shows you know in our confidence. And we know that she’s going to play defense all 94 feet at that court. And that shows, too. And I think that’s going to be really big for us moving forward. But you know she’s super professional. She plays hard. She gets us moving in offense you know. She’s been great!”


町田の今シーズンは若干の浮き沈みがあり、特に6月は苦戦する試合が多かった。しかし終盤に向けての自信の高まりは、シーズン中の数字の推移にも表れている。


最初の12試合: 2.8P、3.6A、1.3TO、±+0.6(チーム=7勝5敗)
中盤の12試合: 1.3P、1.8A、1.2TO、±-2.4(チーム=7勝5敗)
最後の12試合: 1.3P、2.5A、0.7TO、±+2.0(チーム=8勝4敗)

 


プレーメイカーとしての堅実さを示す指標の一つとされるアシスト対ターンオーバー比率(A/TO)を上記の3つの期間で比べると、2.69→1.50→3.75という推移。シーズンを通してのA/TO(2.45=リーグ18位)も良い数字だが、最後の12試合における3.75はリーグのトップ5に匹敵するレベルだ。


ここにきて高められてきた堅実さとアグレッシブさをストーム相手に発揮できるかどうか。加えてもしも町田の3Pショットが数本決まるようなら、ストームに大きなダメージを与えられる。


高い評価を得る町田のディフェンス力


町田がオフェンスだけではなくディフェンス面の貢献度も高いことは、前述のホーキンスのコメントからも感じられる。数字としては、例えばスティールやブロックショットなどではその大きさが感じにくいかもしれないが、ディフェンシブ・レイティング(94.6)が実はリーグ全体の24位とハイレベルだ。


ティボーGM兼HCは先に触れたレギュラーシーズン最終戦の翌日の練習後会見で、町田のディフェンス力について「たぶん彼女はディフェンス面で皆の予想を上回ったと思います(I think probably she has outplayed everybody’s expectations on the defensive end)」と誇らしげに語っていた。バードの花道に、町田はどこまでも食らいつきたいに違いない。それができるかどうかも、大きな見どころだ。

 


ティボーGM兼HCはこのところ毎試合のように町田に関する質問をいくつも受け、そのたびポジティブなコメントを残している(画像をクリックするとレギュラーシーズン最終戦翌日の練習後会見映像が見られます)

 

 簡単に活躍させてもらえる相手ではないことは間違いないが、特に19日の初戦で町田がストームのホームコート・アドバンテージとバード効果を打ち消すイコライザーになれたら、非常に面白い。ミスティックスは1勝すれば第3戦をホームで戦うことができる。そこでは「Rui! Rui!」の絶叫がエンタテインメント&スポーツ・アリーナを揺るがすような瞬間が待っているはずだ。

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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