月刊バスケットボール5月号

トム・ホーバスHC「もっと日本人の力を信じて」 – 代表強化に向けBリーグとクラブに望むこと

 7月21日にオーストラリアに85-99で敗れ、FIBAアジアカップ2022での戦いをベスト8で終えたバスケットボール男子日本代表。4強入りをかけたこの試合で、日本は富永啓生(ネブラスカ大学)が3Pショット15本中8本を沈めて33得点を記録する大爆発で、チームとしても成功率46.5%(43本中20本成功)という高確率で3Pショットを決めていた。にもかかわらず、平均身長で約10cm小柄な日本はリバウンドで29-51と圧倒され、かつインサイドを固めるディフェンスの戦略を逆手に取られて相手にも3Pショットを47.1%の成功率(34本中16本成功)で決められたことが響き、終盤まで粘りながらもなかなか2桁の点差を詰め切ることができずに黒星を喫する結果となった。


昨日に関しては渡邊雄太の故障欠場で、富永を除けば全員が国内組。そのメンバーで大健闘したことは間違いなく称賛されるべきだ。しかし一方で、FIBA世界ランキングでトップ3に入るチームのレベルは、日本の現状とは段違いに高かったことをあらためて確認しなければならない試合でもあった。BリーグがB1の将来構想として掲げる「地域・日本を代表し、世界と伍する“輝く”リーグ」という言葉の実現に、まだまだなすべきことが山ほどあることを、この日の結果はつきつけている。リバウンドやインサイドゲームで簡単には埋めがたい差がある以上、オーストラリア戦の秀逸なシューティングを日常にしないかぎり、真の意味で世界のトップと伍することは難しいのではないだろうか。


7月22日にオンライン会見に応じたトム・ホーバスHCに、それを仮に実現するために、代表のヘッドとしてBリーグとクラブにどんなことを望むかと率直に聞いてみたところ、ホーバスHCも率直な言葉を返してくれた。

 


7月22日のオンライン会見でのホーバスHC


「Bリーグクラブの考え方は全然違い、自分のクラブが勝ちたい気持ちがあって当たり前です。勝ちたいと外国籍選手を使うじゃないですか、オプション1、オプション2、オプション3も。代表は全員日本人ですが、井上(宗一郎[サンロッカーズ渋谷])もほぼ試合に出ない。でも彼は結構いい。この大会では須田(侑太郎[名古屋ダイヤモンドドルフィンズ])もすごく良かった。富永選手のシューティングは特別ですが、Bリーグのチームがもっと彼らを使ってほしいです、外国籍の代わりに」


いつも通り日本語で、言葉に力を込めて回答してくれたホーバスHC自身、日本代表としても世界と伍するチーム作りをしたいという情熱を持っていることが伝わってくる。招集したプレーヤーたちに実戦経験が足りてない点も、ホーバスHCは付け加えた。

 

 

Bリーグの眠れる獅子たちを起こすために


例えばホーバスHCからシューターの役割を任された須田の2021-22シーズンは、57試合に平均17分40秒出場して、3Pアテンプトが133本(1試合平均2.3本)、成功数が39本(同0.7本)の成功率29.3%で平均5.6得点という数字が残っている。これは機会という観点からは、チームメイトでフィリピン代表として今大会で対戦したレイ・バークスジュニア(平均22分25秒の出場で3Pは155本中60本成功の38.7%、平均10.6得点)のざっくり2割減だ。


昨年末、筑波大学在学時にプロ契約してシーズン途中からサンロッカーズ渋谷に加わった井上は、さらに出場機会が少なかった。シーズンの途中からの合流であり、立場的にシーズン開幕当初から在籍していたほかのチームメイトとまったく同じには考えにくい対象でもあっただろうと想像する。その中で井上は18試合に4分47秒出場して、3Pショットは19本中3本成功の成功率15.8%、リバウンドは年間トータルで9本、平均得点は1.2だった。

 


サイズもシュート力もある井上だが、Bリーグではまだ本来の力を見せられていない(写真/©FIBA.AsiaCup2022)


どちらも日本代表を連想させるような顕著な活躍をイメージできる数字には見えない。しかしホーバスHCは、両者を今大会の代表ロスターに抜擢。それぞれが今大会で以下のような数字を残している。


須田 平均18.1分出場(5試合) 3Pショット=3.2/7.0(成功率45.7%)、得点=12.4
井上 平均14.1分出場(5試合) 3Pショット=1.6/3.2(成功率50.0%)、得点=6.2

 


須田は爆発的な3Pショットでチーム全体に勢いをもたらしていた(写真/©FIBA.AsiaCup2022)


両者ともクラブでのパフォーマンスを大幅に凌ぐ活躍をしている。須田はシリアとの大会第2戦で3Pショットを12本中9本決めて33得点というビッグゲームがあった。井上も、今大会で優勝争いを考える中では最も大事な一戦だったイランとの試合で、3Pショット4本すべてを成功させて12得点という素晴らしい活躍があった。どちらも国内でトップのプレーヤーにしかできないような素晴らしいパフォーマンスだ。しかし昨シーズンのBリーグでは、彼らの能力のほとんどの部分が披露されずに終わったと言わざるを得ない。

 


ホーバスHCは日本代表の立場からの思いを語っているが、Bリーグの質的な向上の観点からも、これだけのパフォーマンスが日本人プレーヤーの中に眠っていることを、どうにかできないものだろうか。「ウチのチームの考え方は全員がオプション1。だからみんなアグレッシブに考えるし、楽しくできる。彼らはできるんです」とホーバスHCは続け、「クラブでは見せるチャンスが本当に少ない。そこは直さないと良くないと思います。もっともっと、日本人の力を信じてください」という言葉で会見を締めくくった。


日本人の力を信じるという言葉は、それがこの問答の中ではリーグとクラブの首脳に向けられたものだったとしても、実際には日本人プレーヤーたち自身のマインドセットにも問いかける言葉と捉えるべきだろう。常にデカい外国籍にはデカい外国籍で、日本人の自分は日本人を担当する。それが役割と割り切った結果、日本人としての自身の力を信じられなくなるような落とし穴がないだろうか。

 

 代表強化とクラブの事業とチーム強化を両立させていくために、どんな取り組み方が必要なのだろうか。リーグ・クラブと日本代表のコミュニケーション、リーグ・クラブとプレーヤーたちのコミュニケーションがどのようになれば、毎試合わずかの出場時間で力を出し切れずにくすぶっている日本代表候補レベルの人材が、無限大の可能性を花咲かせることができるのだろうか。真に「世界と伍するリーグ」、真に「世界と伍する日本代表」は、これらの難題に対する答えを見つけたときに初めて達成されるのかもしれない。


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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