月刊バスケットボール10月号

富永啓生が大爆発の33得点、男子日本代表オーストラリアに敗れるも大健闘 - FIBAアジアカップ2022

 バスケットボール男子日本代表のFIBAアジアカップ2022の戦いが、7月21日に行われたオーストラリア相手の準々決勝、85-99の敗北で終わった。しかし、チーム最長身の渡邊雄太を右足首ネンザで欠く中、33得点を挙げた富永啓生(ネブラスカ大学)を中心とした高確率の3Pショットで食らいつき5ポゼッション差で最後まで粘る大健闘。前回の対戦で46点差で吹き飛ばされた相手に対し、自分たちらしいバスケットボールで堂々対抗した。

 


富永啓生はNBAレベルのシューターの資質を披露したと言える。今後の成長が非常に楽しみだ(写真/©FIBA.AsiaCup2022)

 

 この試合で明確になったのは、男子日本代表が海外で活躍するプロ抜きの状態でも世界のトップを脅かすポテンシャルを持っていることだ。このチームは、前半にリバウンドで13-31(試合を通じては29-51)と大差をつけられながら、秀逸なロングレンジゲームでそのギャップを一定レベルまで跳ね返し、戦い続ける力を持っている。トム・ホーバスHCは試合後に、チームの戦いぶりについて「I'm very very proud of the team(チームを誇りに思います)」と胸を張っていた。チーム全体としても自信を深める結果だったに違いない。

 

 日本の最後の得点となった富永の3Pショットは、センターサークルからの「ロゴスリー」。富永はこの一撃以外にも、かなり深々とコンテストされたコーナースリーも、距離のあるトランジションスリーも沈めていた。富永に加えキャプテン富樫勇樹(千葉ジェッツ)や須田侑太郎(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、西田優大(シーホース三河)らの積極的な3Pショットも確率よく決まった日本は、徐々にインサイドでも得点がとれるようになってきた。もう一人のキャプテンである張本天傑(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)が、第4Q開始早々のオフェンスでソン・メイカーのファウルをもらいながら豪快にぶち込んだスラムダンクは、シューター陣の良い仕事がフロントラインにもチャンスを生み出すことを象徴するようなプレーでもあった。

 

 34-49の15点差を追いかける状況で始まった後半だけをみれば、日本は51-49とオーストラリアを上回っている。第3Q・第4Qの20分間はリバウンドでも16-20と差を縮めていた。

 


前回の対戦で屈辱的な敗北を喫した日本だが、張本天傑のこのダンクは一矢を報いる迫力満点の一撃だった(写真/©FIBA.AsiaCup2022)

 

 

☆FIBAアジアカップ2022準々決勝、日本試合結果

オーストラリア 99(33 16 26 24)

日本 85(22 12 20 31)

日本トップパフォーマー

富永啓生(ネブラスカ大学) 33得点、フィールドゴール成功率60.0%、3P成功率53.3%(15本中8本成功)、5リバウンド、1アシスト

富樫勇樹(千葉ジェッツ) 14得点、フィールドゴール成功率50.0%、3P成功率57.1%(7本中4本成功)、2リバウンド、5アシスト

井上宗一郎(サンロッカーズ渋谷) 11得点、フィールドゴール成功率50.0%、3P成功率50.0%(6本中3本成功)、6リバウンド

河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ) 5得点、フィールドゴール成功率50.0%(3P1本中1本成功を含む)、6アシスト、3スティール

 

世界3位への大健闘から積み上げたい男子日本代表

 

 来年のFIBAワールドカップ2023でグループラウンド開催国となっている男子日本代表は、今後この結果にどのような積み上げができるかが非常に大事だ。ホーバスHCのプレースタイルをメンバーたちが信じ始めているのは明らかだが、アジアの8強で終わった今大会の結末は、決して満足できるものではないことも確認する必要はあるだろう。

 

 今大会での5試合で41.3%の確率を残した3Pショットは、ホーバスHCがメドとしてたびたび言及した成功率40%の目標を上回ったが、それが十分な確率ではなかった以上、シューターの質はさらに向上が必要だ。リバウンドには決定的に改善の余地が残されている。富樫も河村勇輝も、テーブス海(滋賀レイクス)も攻守でスピード感あふれるプレーを見せたが、デイフェンス面でのより研ぎ澄まされた「ボールホーク」への成長、オフェンスではより素早い展開とその中での精度の高いプレーメイクを期待したくなる。

 

 第1Q開始1分に富樫の3Pショットで3-3とした後、12連続失点を喫しないために何が必要なのか。十分に逆点の可能性があった81-90の残り3分17秒、相手のタイムアウト後の日本は張本のフリースロー(3本中1本成功)と富永のロゴスリーだけの4得点にとどまり、4-9のランでゲームセットとなっている。10-0、13-3といったランが必要なこの場面で、それを実現するタフさを身につけるには何をしなければならないのか。もう一歩踏み込んで、世界のトップレベルを相手に序盤から優位に立ち、勝ちきる力はどうしたら養えるのだろう。この試合では渡邊抜きでの大健闘という形になったが、果たして今大会の最初から渡邊がいなかったら、同じ戦いぶりになっただろうか。

 

 非常に惜しい、悔しいと思える黒星を、今のメンバーならば必ず飛躍のきっかけにしてくれるだろう。日本のバスケットボールは男子も非常に面白くなってきた。

 


渡邊雄太も刺激を受けた一戦だったに違いない。しかし渡邊なしにはチームのポテンシャルが発揮できなかったかもしれない(写真/©FIBA.AsiaCup2022)

 

 文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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