月刊バスケットボール6月号

男子日本代表、オーストラリア戦勝利の4つの鍵 - FIBAアジアカップ2022準々決勝

 バスケットボール男子日本代表がFIBA世界ランキング3位の強豪オーストラリアと対戦する7月21日のFIBAアジアカップ2022準々決勝は、渡邊雄太が19日のフィリピンとの一戦で右足をネンザしたことで出場できるかどうかがわからない状態となったまま、試合当日を迎えている。しかし、渡邊の故障以降トム・ホーバスHC以下メンバーが語るのは、「いずれにしても相手が強いことには変わりがなく、日本がやるべきバスケットボールも変わらない」ということだ。


やるべきバスケットボールはタイトなプレッシャー・ディフェンスを土台とするトランジションの速い展開であり、その中でフィニッシュの相当部分がコート上の5人全員のペイントアタックを絡ませた3Pショットになるようなスタイルだ。ホーバスHCは、小柄で運動能力の高いプレーヤーを集め長身のチームを圧倒するスモールボールをさらに発展させた「マイクロボール」という言葉を時折聞かせてくれていたが、ノックアウトステージでのオーストラリアとの対戦には、それが究極的にハイレベルな形で遂行される必要があるだろう。


7月1日の直近の対戦で52-98という大差で敗れた相手に対し、果たして今の日本がそうしたことをできるものなのか? 極めて難しいことではあるが、それはやってみなければわからないとは言える。実現のカギはどんなところにあるだろうか


前提: 日本はチームとして急激にアップグレードしている


ホーバスHC率いる男子日本代表は、結局のところ自分たちよりも格上の中国とオーストラリア、イランにこそ負けたものの、勝つべき相手に取りこぼしなくしっかり勝てている。決して弱いチームではないことは、証明できているのだ。また、オーストラリアへの大敗は、第1Qのスタートから4分過ぎまではほぼ互角だった。


状況が変わったのは、7-5の日本リードで迎えた開始4分20秒過ぎあたりの流れで、身長216cmのソン・メイカーが、テーブス海と吉井裕鷹のドライビングレイアップに立て続けに強烈なブロックを浴びせたところから。この流れでオフェンスでも3Pショットを決めたメイカーの活躍に勢いづいたオーストラリアは、一気に10点を連取してしまった。ただしそれでも、日本は富永の連続3Pショットで13-17と追い上げ、厳しい展開の中でも希望を感じられる内容だったのだ(以降の展開はご存知のとおりだ)。


この試合はホーバスHC体制下での4試合目で、事前の練習試合などもできないまま臨んでいた。今回のアジアカップのロスターにも名を連ねているテーブス海、富永啓生、吉井裕鷹、そして井上宗一郎の4人にとっては、A代表デビューを飾ったばかりのタイミングでもあり、ホーバスHCのスタイルに慣れることに加えて、それ以上に代表での遠征になじむ苦労もあっただろう。


ホーバスHCは、この試合を振り返って「ウチのプレーじゃなかった。相手が強かった以上にウチが良くなかった」と語るとともに、今回の対戦を前にして「ウチのバスケをちゃんとやれば大丈夫。今のチームは(当時と)全然変わっている」と自信を見せている。今回アジアカップで4試合の実戦経験を積み、3勝1敗の成績を残した12人は、仮に渡邊抜きに考えた11人であっても、2週間半前からは大きくアップグレードできているのは間違いない。

 

勝利のカギ(1) - 失点後のクイックスタート

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)

 

 これは渡邊が代表でもNBAでも実践していることの一つだ。ゴールを決められてしまった後に肩を落とすことなく、即座にボールを拾ってインバウンドプレーに転じ、反撃態勢に入る。オーストラリアに対してディフェンスをセットアップする余裕を少しでも与えることは、それだけ勝ちが遠のくことを直接的に意味してしまう。かつ、日本がオーストラリアに得点を許してしまう場面が多くなるだろうことが想像できてしまうので、そのたびに1秒2秒相手に一息つかせる暇を与えていたら、やるべきことの一つであるトランジション・バスケットボールができない。「絶対に」できない。


したがって、渡邊がいてもいなくても、これを遂行することが勝利の可能性を高める最初の要素だ。失点続きは当然避けたいが、失点されてもクイックスタートを徹底して攻めるしかない。


勝利のカギ(2) - ペイントアタックからエキストラパスをかませての3Pショット


20日に行われたオンライン会見で、富樫勇樹が勝機を見出すカギとして挙げていたのが3Pショットだった。「特に強い相手には、なかなかインサイドの得点で圧倒するのは難しいと思います。シリア戦とまではいわないですけど、ある程度の選手の3Pショットが当たらないと難しいゲームになるんじゃないかと思います」

 

 また、ホーバスHCはインサイドに攻め込んでフィニッシュするか、いったんディフェンスを縮めさせたところでキックアウトして狙う3Pショットをハーフコートオフェンスのキモとしている。同じことを月初の対戦でもやろうとしていたことは明確に見て取れたが、あの試合ではペイントに侵入した際に相手のフィジカルなディフェンス、アクティブなハンドワークにボールを失う場面や、キックアウトのパスがターゲットの懐に飛んでいかず肝心のフィニッシュが乱れるケースが何度もあった。


イラン戦で、オーストラリアと同様のスイッチング・ディフェンスに対してペイントアタックを思うようにできなかった西田優大は、20日のオンライン会見でその点を反省しながら、以下のようなコメントを残している。


「イラン戦ではスイッチされた後に全員足が止まってしまったので、そこで1対1をねらいすぎるのではなく、さらに動きを作って、その動きの中でできたズレからアタックするのが大事なんじゃないかと思います」

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)

 


ホーバスHCはガッグル・アクション(Gaggle Action=ウイークサイドにいるオフボールの3人が、ストロングサイドの2人のオフェンスとタイミングを計りながら、味方をオープンにしようとするオフェンスアクション)を例に挙げて、オーストラリアのスイッチング・ディフェンスへの対応のアイディアを語っていた。一人、あるいはストロングサイドの2人のピック&ロールは第一のオフェンスの波かもしれないが、西田が言うようにウイークサイドの3人は単にスポットアップしているだけでは足りないのだ。ウイークサイドのコンビネーションはペイントにアタックするプレーヤーのフィニッシュ機会もパスの選択肢も増やすだろうし、同時にシューターのフィニッシュの精度を高めることにもつながりそうだ。


ドライブして、キックして、スイング、さらにもう一つエキストラパスをかませてディープスリー。こんな絵にかいたようなハーフコート・オフェンスが、何度かでも見られたら、それは日本勝利の兆しの一つだ。ただ、実際にはホーバスHCはハーフコートゲームでの勝負を嫌っている。それ以上にトランジションとそこからの3Pショットのほうが重要で、富永や須田侑太郎には40%といわず50%前後の高確率で、そうした機会を得点につなげることを期待したい。

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)

 

勝利のカギ(3) - リバウンドからのトランジション・ゲーム


ホーバスHCはリバウンドに関して「大きく負けたくない。相手の強いところなので、大きく負けなければうちの速さを使うことができると思う」と語った。ディフェンスからのトランジションはリバウンドを奪うことから始まる。次々と得点を許すようだと、最初に挙げたクイックスタートは当然としても、相手のミスショットから速攻に移ることができない。富樫や河村勇輝が最も生きるこの展開に、リバウンドは必須だ。

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)


トランジション・オフェンスからの3Pショットに戻ると、ホーバスHCは「相手のディフェンスがセットアップする前に狙うことで、オフェンスリバウンドのチャンスも出てくる」という見方をしており、トレーラーとなるフロントラインのプレーヤーは、富永や須田がいかに芸術的なディープスリーを放とうとも、全速力でバックボードめがけてクラッシュしていく必要がある。それがもう一つの勝利のカギとなる。


日本の平均リバウンド数39.0本は、今大会において16チーム中8位。2日前に102-81で勝利した相手のフィリピンは最下位の33.0本なのだが、日本はこの対戦で34-40とそのフィリピンを下回っていた。オーストラリアは大会全体の3位で平均43.7本。この平均通りの39-44程度の差ならば、日本が勝つチャンスはあるのかもしれない。前述の7月1日の試合では、32-47と差をつけられてしまっていた。

 


勝利のカギ(4) - スティール


日本がスタッツ項目で今大会上位に入っているのがスティールで、平均11.8本は中国と並んで今大会2位タイの成績だ。格上のイランに対して4本のみに終わっているが、ほかの3試合はいずれも10本以上で、最初の2試合はカザフスタン戦が18本、シリア戦が15本と、ライブボールのターンオーバーを大量に誘発できたことがそのまま勝因となっていた。


オーストラリアに対してもしも2桁のスティールを記録でき、そこからのトランジションで3Pショット、落ちたとしてもリバウンドを拾ってセカンドチャンスでの得点をねじ込めるとすれば、オーストラリア側が感じるダメージは非常に大きそうだ。


これは非常に難しいチャレンジに違いない。しかし、イラン戦の第4Qに、フルコートプレスでトラップを仕掛けたことで劣勢を10点挽回できたという好材料もある。ホーバスHCはそのディフェンスについて、点差をつけられて劣勢に立たされていたからこその戦略だったことも明かしていたので、そのディフェンスを40分間敷くことは考えられなさそうだ。しかし、勝負どころが来ればあのときと同じトラップディフェンスが火を噴く可能性はある。

 

 こうした要素が思い描いたとおりに遂行され、相手のスウィッチング・ディフェンスを破って得点を重ねられたとすれば、日本はハイスコアリングな展開で勝利する。80点代後半から90点台に得点を乗せて、オーストラリアの面々が顔色をなくすような驚異のマイクロボール炸裂に期待したい。


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



PICK UP