月刊バスケットボール5月号

男子日本代表FIBAアジアカップ2022、7.15(金)対シリア戦の見どころ

 7月12日に開幕したFIBAアジアカップ2022の大会第2日に行われた初戦で、カザフスタンを100-68で破った男子日本代表が、15日にシリアとの大会第2戦に臨む。シリアはFIBAワールドカップアジア地区1次予選(以下W杯1次予選)では1勝5敗でグループD最下位となり敗退しているチーム。長年の厳しい内戦状態から立ち直る過程にある国状の中、バスケットボールを取り巻く環境が十分に整備された状況とはいえず、FIBA世界ランキングも83位と日本が所属するグループCで最も低い。しかし今大会初戦では、平均26.7得点のチーム最大の得点源、アミア・ヒントンを欠いた状態で、FIBA世界ランキングがグループ内で最も上位のイランに対して、敗れたものの67-80と健闘している。


W杯1次予選を含め直近の半年間でシリアはイランと3度対戦し、いずれも敗れている。そのうち最初の顔合わせでは、イランは元NBAプレーヤーで身長216cmのビッグセンター、ハメッド・ハッダディー抜きの状態で、シリアは68-80と善戦。しかしハッダディーがプレーした7月4日の2度目の顔合わせでは56-91と引き離された。ところが今大会では、ハッダディーも出場した中、自らの最大の得点源がいない状態で13点差でくらいついている。


シリアの結束に要注意


イラン相手の今大会初戦は様々な要素を秘めていた。その一つは、ヒントンが不在だった理由で、ハビエル・フアレスHCが試合後の会見で説明したところによると、「協会が用意した飛行機のチケットを持っていたはずだが、乗ることができなかった」という。なぜ搭乗できなかったかは不明。ヒントンに関する質問に「今日は40分間戦ったメンバーについて語るべき日だと思います」と背を向けたフアレスHCの様子を見ると、チームとヒントンの関係が良好とは思えず、今大会中にチームに合流するかどうかは非常に怪しい。

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)


ヒントン不在でもイランに対して健闘したシリアのロスターで活躍したプレーヤーの一人は、W杯1次予選でチーム2位の平均10.8得点を記録しているスモールフォワードのアンソニー・ベイカーで、この試合でフィールドゴール10本中5本を決めて12得点を挙げている。ベイカーはW杯1次予選では3P成功率も40.0%と高く要注意。また身長204cmのパワーフォワードで12得点に10リバウンドのダブルダブルと奮闘したハニ・アドゥリベ、同じく12得点に加えて5リバウンドをつかみ取った身長203cmのフォワード、アーメル・アルサティ、そして身長220cmのビッグセンター、アブドルワハブ・アルハムウィというサイズのあるフロントラインへの対応が、日本にとっては大きな仕事の一つになりそうだ。


バックコートでは、ポイントガードとしてW杯1次予選でチーム1位のアシスト数(1試合当たり4.0本)を記録しているイサク・オウベイド、同じく同大会で毎試合平均2本以上3Pショットを決めているナディム・イッサ(平均2.2本成功、32.1%)らを乗せないことも重要になりそうだ。シリアは日本にとって、必要以上に怖がるべき存在ではないかもしれないが、前述のとおりヒントンがいないことで、逆に穴を埋めるべくほかのプレーヤーが奮起したことには注意しないといけない。


日本はカザフスタンとの試合で前半もたつきを見せた。シリアとの試合、あるいはグループ最終戦のイランとの一戦でも、危険な要素を持つ相手を乗せないためにも、早い段階からのびのびと日本らしさを発揮することが最大のカギではないだろうか。


発揮されるべき日本らしさ


その日本らしさについては、カザフスタンとの初戦で3つの特徴が非常に鮮明に打ち出されていた。土台となる第一の特徴は、4年間NBAで経験を積んだ渡邊雄太のオールラウンドな存在感がもたらす自信だろう。加えてチームに勢いをもたらした第二の特徴は、重たい空気を一掃したと言える富樫勇樹と河村勇輝が象徴する圧倒的なスピードであり、第三に挙げたいのが西田優大と富永啓生が形として見せたアグレッシブなペリメーターからのアタックだ。ここにはもちろん3Pショットも含まれてくる。

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)


14日にジャカルタからオンラインでメディアとの会見に応じたトム・ホーバスHCは、「渡邊が加わることのインパクトは本当に大きい」と話し、世界の最高峰で学んだことを渡邊が余すところなく日本代表に注いでいることによる予想以上の影響力を歓迎していた。「彼が入ってから、若い選手のエナジーレベルやスタンダードが間違いなく上がりました」


渡邊が加わって2試合目のシリアとの一戦で、果たしてそれぞれの持ち味を試合開始早々から発揮し、のびのびとプレーし続けることができるだろうか。これはホーバスHCも「直したい」と話していた課題だ。「このチームが戦ったのは昨日が3試合目。オーストラリア、チャイニーズ・タイペイ、そしてカザフスタンと少しずつ良くなってきています」と一定の手応えを感じつつ、カザフスタンとの初戦については、渡邊がいながら前半をビハインドで終え3P成功率も30%台にようやく到達という内容に、満足した様子もなかった。

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)


「この大会はグループラウンドが3ゲーム。でもその後も3-4ゲームは“やりたい”じゃないですか。大きなチャンスだけに、たくさん試合をやりたいです」


グループラウンドを終えた後は、「たくさん試合をする」権利は勝つことのみで手にすることができる。ホーバスHCの言葉から、経験を積みながら、試合への入り方や自分らしさを大舞台で表現することへの慣れを培いながら、また自分たちのスタイルを磨きながら、ただそれだけに終わらず51年ぶりのアジアカップを獲りに行く意欲も伝わってきた。

 


(写真/©FIBA.AsiaCup2022)


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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