月刊バスケットボール1月号

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2022.06.04

安間志織インタビュー - ブンデスリーガに残した小さな巨人の足跡(1)

 トヨタ自動車アンテロープスが2020-21Wリーグでチームとして初めてのチャンピオンシップを手にした後の昨年8月26日、同チームのプレーメイカーとしてプレーオフMVPに選出された安間志織がドイツのブンデスリーガに所属するアイスフォーゲルUSCフライブルクに移籍することが明らかになった。王座に就いたチームの司令塔の突然の海外移籍は、日本のファンや関係者を大いに驚かせたことだろう。


ドイツに渡った後の安間は、控えめに言ってもブンデスリーガを揺るがす大活躍でアイスフォーゲルをけん引、初のリーグ制覇に導き自らはオールブンデスリーガ・ファーストチーム(いわゆるベストファイブ)とファイナルMVPに輝いた。


5月に入り帰国し、オーストラリア遠征を控えた日本代表の合宿に加わった安間に、多忙なスケジュールを縫ってインタビューの時間を作ってもらった。

 


写真©Shiori Yasuma/Eisvögel USC Freiburg


日本からの応援に励まされた


――シーズン開幕の頃は不安もあったかなと思いますが、日本で記事を発信するたび反響が大きくて、トヨタ自動車アンテロープスの皆さんをはじめ、いろんな方から応援の声が届いていました。シーズン中、日本の皆さんとはどんなやりとりをしていましたか? 


トヨタ自動車の選手やスタッフからも「試合見ているよ!」とか「頑張ってね!」とすごくいってもらっていました。本当に急な挑戦、急な退団という形になってドイツに飛びましたが、それにもかかわらず応援してもらえたのは、すごくありがたかったです。
日本の皆さんからの応援は本当にもう、強く伝わってきていました。私も日本を出たからには頑張らなきゃという思いがありましたね。トヨタ自動車だけでなくほかのチームの選手たちも反応してくれて、すごくうれしかったです。


――シーズン中には、今も続いているロシアのウクライナ侵攻が始まりました。戦争の当事国がすぐ近くで、ドイツはウクライナの軍事支援にも乗り出していましたし、怖かったのではないかと心配していましたが、どんな気持ちでしたか?


確かに日本にいるときよりは間近に感じていましたね。試合前に黙祷があったときは戦争が近づいてきているのかなと思っていましたし、同じ中学校の子がヨーロッパに住んでいるので、「大丈夫? そっち」など連絡を取り合ったりはしていましたね。
そしてハラルドも言っていましたが、戦争と同じタイミングで、キャプテンでチームにとって大事な存在のエミ(エミリー・カピッツァ=身長186cmのフォワード)がケガしてしまったのは大きかったです。
初めての慣れない海外生活、バスケットの取り組み方の違いにいろいろ思いながらやっていましたが、「私は私」と一人で日本でやっていたときと同じようなことをドイツでも続けていました。ウォームアップのダッシュ、コンディショニング、試合の日の朝のシューティングも最初は一人でやっていましたが、途中から一緒にやりたいって声をかけてくれたのが彼女です。最初は私と一緒にシューティングすることにめちゃくちゃ緊張したって言ってましたけど(笑) 私が誰も誘えずにいたので、声をかけてくれたのはすごくうれしかったです。
彼女を筆頭にそこから数人ずつ、一緒に走ったりシューティングしたりする子が増えたので、私も最後までそれを続けられました。ちょっと個人的な感情になってしまうかもしれないですが、こういう感じで一緒に頑張ってきていたので、彼女がケガをした時のショックは大きかったのが正直な気持ちです。
戦争やエミのことが重なりチームも勝てない試合がありましたが、スタッフ、選手、チームの組織、みんなの目標がブレることなくチームとして乗り越え、"優勝"という最高の形になったと思います。



――その中で安間さんはチームを引っ張る立場だったと思いますが、言葉の壁を越えてというのはかなり難しかったのではないでしょうか?


難しかったです。日本にいるときのように自分が言いたいことをパッと言えないですしね。最初の頃、コーチ陣とは「このシグナルを出したらこうしてほしい」というような話を何度もしましたし、私がこうしたらみんなにはこうしてほしいというのを練習中から伝えていました。
そうして私が伝えたい単語を繰り返し何度も話していくうちに、それを後半戦ではみんながわかってくれるようになっていたと思います。それでもわからないことが試合ごとに毎回出てきましたが、そこで躓かないように次へ次へと切り替えていきました。その場でわからなかったことは、「あの時はどういう意味だった?」というのを試合後やベンチに戻ったときに話し合えていました。「こういうことを言いたかったんだ!」というのはドイツのみんなも返してくれますし、私もちょっと時間をおいてからボード(作戦板)を使って説明してみると、ちゃんと伝わりました。私の英語力というよりは、周囲のみんなが私の言葉を理解しようとしてくれて、助けてくれました。

 


――非常に良くコミュニケーションが取れていた印象でした。試合を見ていてハドルで皆を集めていろんな指示をする場面も何度もありましたが、そうそうできることではないと思います。


若いチームなので、私がやらなきゃという気持ちが強かったです。私には海外経験はなかったですけど、チームの中でバスケットの経験はあるほうかなと思いましたしね。みんな練習中から、「シオリ、こういう時はどうしたらいいの?」と聞いてきてくれるし、とてもやりやすい環境でした。


――向上心があるチームだったんですね。


みんな「あの時はこうすればよかった…!」みたいな話をよくしていましたし、お互いに「あの場面は打ちなよ」とか「あんなときはこうしよう」というように練習中から話し合っていました。最初の頃は違ったと思うんですけど、後半戦ではゲームを重ねていくごとにみんながまとまってきていました。

 


写真©Shiori Yasuma/Eisvögel USC Freiburg

 

(筆者追記)
安間はレギュラーシーズンの25試合ですべてにスターターとして出場し、リーグ公式アプリの示す数値として平均18.5得点(リーグ2位)、5.3リバウンド(リーグ29位)、6.3アシスト(リーグ1位)、3.0スティール(リーグ1位タイ)、エフィシエンシー21.5(リーグ3位)という特筆すべきアベレージを残した。アイスフォーゲルは18勝7敗のリーグ2位という成績で、リーグの14チーム中の上位8チームによるプレーオフに駒を進めた。


25試合のうち安間の得点が一桁に終わったのは、昨年12月4日の対バスキャッツUSCハイデルベルク戦の1試合のみ。その試合でどんなことが起こったかと言えば、安間自身はブンデスリーガでのキャリアハイとなる12アシスト、チームは出場した全員が得点(うち5人が2桁得点)を記録して90-52の快勝を収めていた。デビューから6試合目となった10月24日のルトロニック・スターズ・ケルターンとの試合では、27得点に10リバウンド、10アシストのトリプルダブルに加え、4スティールという豪快なパフォーマンスでチームを80-75の勝利に導いていた。シーズン中にダブルダブルももう一度記録している(今年の1月19日に行われた対TSV1880ヴァッサーブルク戦、11得点、11アシスト)。


アイスフォーゲルのハラルド・ヤンソンHCにシーズン終了後にインタビューした際に、コーチ自身もチームも安間の活躍を引き出し、支えるための手厚いサポート体制を考え、実行したことを話してくれていた。その熱弁ぶりから、開幕前の時点から安間がそれだけの支援に値するタレントであることがヤンソンHCの目に明らかだったことがわかったが、安間自身は言葉の壁がある移籍直後のシーズンで、全試合を通じてその期待に応え続けたのだった。

(2)へ続く


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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