月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2022.05.30

自己犠牲の上に成り立つ宇都宮ブレックスの真の強さ「やればやるほどチームが一つになっていく感覚があった」

 

 B1チャンピオンシップファイナル第2戦。第1戦で勝利し、王手をかけた宇都宮ブレックスと後がなくなった琉球ゴールデンキングスの対戦は、最後の最後まで勝敗が分からない大接戦となった。

 

 立ち上がりでリードを奪ったのは宇都宮で、開始早々に9-0のランを展開すると第1Qを終えて21-12とリード。第2Qもお互いに点を取り合ったことで、前半を終えた時点でも38-30と優位を保っていた。

 

 しかし、後半に入ると琉球が猛追。岸本隆一のペイントアタックからのキックアウトや、アレン・ダーラムを起点としたインサイドの合わせで宇都宮のディフェンスを攻略。第3Q残り1分29秒にはコー・フリッピンのドライブをドウェイン・エバンスが合わせて、この試合で初めてのリードを取った(52-54)。

 

 それでも、この局面で冷静に得点を返した宇都宮は第4Qには再び10点のリード。諦めない琉球に再度2点差に詰め寄られたが、そこでも冷静さを失わず、ラストポゼッションでは比江島慎が琉球に引導を渡すスティールで試合を締めくくった。最終スコア82-75。宇都宮がBリーグ初年度以来5年ぶりのチャンピオンに返り咲いた。

 

比江島はこの試合で24得点、第4Qでは14得点をマークした

 

 チャンピオンシップMVPに輝いた比江島や、日本生命ファイナル賞を受賞した鵤誠司の活躍はもちろん、第4Qの勝負どころでベンチ出場の渡邉裕規が記録した価値ある5得点や、最後までインサイドで粘ったジョシュ・スコットの奮闘などで逆転を許さなかった宇都宮の強さは、文字通りチーム力の高さにあったと言える。優勝会見で晴々とした表情を浮かべながら、安齋竜三HCは以下のようにここまで過程を振り返った。

 

“ブレックスメンタリティー”という言葉をよく言われていると思うのですが、(田臥)勇太を中心に、そういうものをしっかりと作ってくれていて、それを理解した日本人選手が今シーズンも残ってくれていました。そして、新しく入ってきたチェイス(フィーラー)とアイザック(フォトゥ)にも(ブレックスメンタリティーを)伝えてくれていました。ジョシュも昨シーズンの1年間で経験してきたことをインサイドでリーダーシップを取って伝えてきてくれましたし、そういったことの結果がチームとしても崩れなかったこと、ファイナルに最高の状態を持ってこられたことの要因でした

 

 特にチームスポーツの世界でよく用いられる『自己犠牲の精神』という言葉があるが、宇都宮はまさにその言葉を体現するかのような戦いぶりを見せている。チャンピオンシップの6試合で平均18.7得点と、殊勲の活躍を見せた比江島も、自身の役割について聞かれた際に「チームメイトが僕のためにスクリーンやアシストをしてくれるので、僕の役割はそれを決め切ること。自己犠牲を払ってくれる選手が多い中で、本当に僕は決め切ることだけを意識していました」と、まず口に出たのはチームメイトに向けた言葉だった。

 

 数字の面で見ても、レギュラーシーズンの宇都宮は6選手が平均20分以上の出場時間を記録し、加えて5選手が10分以上出場。ロスターのほぼ全員がローテーションメンバーとして戦い、出場時間が最も少ない田臥は、チームビルティングの面でプレー以上に重要な役割を担っていた。

 

 

 ファイナル2試合の記者会見でも、特にブレックスメンタリティーをよく知るライアン・ロシターとジェフ・ギブスという、昨季までの4シーズンをかけて作り上げてきたチームの中心メンバー退団によるチームの再構築についての質問は多かったが、優勝会見で田臥は今季の戦いについて「苦しんだとは思っていなかった」とキッパリ。もちろんアップダウンはありましたが、絶対にこのチームは成長し続けられると思ったし、本当にチームのためにプレーできる選手が今シーズンはそろったという感覚が最初からありました。最後にこういう形で終われたので、それが間違いではなかったと思えてよかったです。みんな最高で、チームのためにやり続けられたと思います

 

 田臥にはチームメイトをまとめる舵取りという役割があり、比江島はスコアラー、鵤は「ディフェンスで前線からつくことが多いので、ディフェンスのスイッチ入れること、チーム全体に浸透させることを意識していますし、オフェンスでは相手のウィークポイントを狙うことを意識していて、それが役割だと思っていました」とチームの切込隊長に。渡邉の役割は新加入選手や若手選手へのメンタリティーの伝達と、この試合で決めた計7得点のように「スタメンが作った流れを切らさないことと、出たら思い切り打つこと」、そしてスコットは「ペイントの中をコントロールするのが自分の役割。それが得点なのか、リバウンドなのか、ブロックショットなのかはその局面によりますが、チームを助けるためにやれることは何でもやろうと思っていました」と、会見に登壇した5人それぞれが明確に自身の役割を理解し、チームとしても共通認識を深めてきた。

 

 

 このファイナルシリーズでは、特にアウトサイドから重要な役割を担っていた喜多川修平が出場できず。そんな中で第1戦からベンチに喜多川の「31」のジャージを置き、優勝セレモニーでは多くの選手が彼の顔をかたどったお面を持っていた。安齋HCもインタビューで同じものを持っていて、優勝直後にはテレビ電話で喜多川とも喜びを分かち合ったそうだ。

 

 プレー面でも、こうしたオフコートの面でも全員で支え合った。これこそがチーム力というものではないだろうか。最後に、田臥が今季の宇都宮の戦いを端的に総括するようなコメントを残していたので、紹介したい。

 

「僕やナベだったり、経験のある選手が『ブレックスはどういうチームなのか』というのを伝えたり、表現したりというのはやらなければいけないことです。それを見て、みんなが理解してチャレンジしてくれたし、チェイスやアイザックもブレックスというチームでどう貢献しなければいけないのかを真剣に考えて毎日練習して、毎試合やってくれました。やればやるほど(チームが)一つになっていく感覚がありました」

 

 最高のステージで最高のチームにまとまった宇都宮ブレックスの優勝は、自己犠牲の精神と、チームとしての信念がもたらしたものだった。

 

 

写真/©︎B.LEAGUE

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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