月刊バスケットボール8月号

Bリーグ

2022.05.10

アルティーリ千葉は「偉大なる歴史の始まり」をどう締めくくるか

 “THE GREAT HISTORY BEGINS.”——偉大なる歴史が始まるというキャッチコピーを掲げ、新規参入チームとしてB3リーグに臨んだアルティーリ千葉が、37勝7敗(勝率.841)の2位という成績で2021-22シーズンを終えた。当初オールラウンドな活躍を見込んだレオ・ライオンズが開幕から7試合出場した時点で故障離脱となり、その後フロントラインの戦力を安定させるのに苦心するシーズンとなった中、キャプテンの大塚裕土、最年長の岡田優介、そして小林大祐と決定力の高いベテランを一つの核として、アンドレ・レマニスHCが指揮を執るハイレベルなバスケットボールで多くのファンを獲得し、期待に応えてきた。

 


ペリメーターの脅威としてアルティーリ千葉をけん引するベテラン小林大祐の3Pショット(©月刊バスケットボール)


大塚が開幕前に語った「全勝でB2昇格」という目標はかなわなかったが、新型コロナウイルスのパンデミック、そして故障者続出という厳しい状況に対応しながらB2昇格決定戦2021-22への出場権は確保した。その間、イバン・ラべネルとケビン・コッツァーのビッグマンの堅実な貢献と杉本 慶の安定したプレーメイクを土台に、バックコートでは秋山 熙、藤本巧太、フロントラインでは鶴田美勇士、紺野ニズベット翔の成長がチーム力を高め。途中から加わった山崎玲緒、野口龍太郎の若手ガードもロスターに前向きな刺激をもたらした。

 


ベルテックス静岡との館山対決GAME2に勝利し2位確定


4月24日、千葉県立館山運動公園体育館でベルテックス静岡を大逆転の末109-106で破って今シーズン2位の座を確定させた後、大塚は「ホームでしっかり2位を確定できたのは皆さんにとって良かったと思います。今シーズンはまだ来週もまだありますけど、ケビン(コッツァー)とイバン(ラべネル)の外国籍2人で頑張ってくれていたり、すごく大変なシーズン。チームワーク面でケミストリーが思っていた以上になかなか生まれなかったりいろいろなことがありました」とそれまでのシーズンの流れを振り返った。「最低限のチャンスがまだあるということで、それを得られたのはすごく良かったと思います」

 


ボールがくる以前に手の形をシューティングのポジションに準備している大塚裕土。プロの姿勢が一瞬一瞬に現れる(©月刊バスケットボール)


A千葉はこの試合でぜひとも2位の座を決めたかったはずだし、A千葉側のファンもそう願っていたに違いない。その週の連戦に臨む前の時点で4試合を残し、リーグ制覇の望みも残しながら2位確定マジック1という状況。対戦相手の静岡は3位で、マジックの当事者であるとともに、14連勝で館山に乗り込んできた「勝利に飢えたチーム」だった。会場は同じ千葉県でホームゲームとはいえ、普段慣れ親しんだ環境とは異なってもいた。


加えて最終週に対戦する金沢武士団は、今シーズン1勝しか挙げていない最下位のチーム。「来週に持ち越しても2位は決まったも同然」という気のゆるみが出るようなら、静岡に連敗して消沈した状態でレギュラーシーズンを終えることにもなりかねない。23日の初戦を83-96で落とし、同日長崎が岩手ビッグブルズに勝利したことで、長崎の優勝が決まった。24日の試合は、自らの王座への望みも絶たれた中、負けても言い訳がきくトリッキーな要素がそろっていた。


逆に静岡とすれば、初戦で勝って連勝を15に伸ばした勢いに乗り、ライバルチームの2位確定を阻止して勝負を最終週に持ち込もうという意欲がチーム全体にあふれていた。当日の会場には“ベルスター”と呼ばれる静岡のブースターの姿も多く見られたが、皆なんとかして2位の座を奪い取る流れを思い描きながら応援していたことだろう(静岡は24日の試合には敗れたものの、翌週トライフープ岡山に連勝して意地を感じさせた)。


太平洋に面した房総半島の西南端にある館山市での今シーズン唯一のホームゲーム・シリーズ。地元の子どもたちの熱い視線も注がれる中、恥ずかしいプレーを見せられるわけはない。来シーズン以降A千葉がホームアリーナとする千葉ポートアリーナ以外で試合をする機会は減少する可能性がある。この先館山でプレーする機会はどれだけあるかわからない。同時に、千葉県内外から時間と費用を費やして見に来てくれた人々も少なくない。普段観戦できない人々、チームに対する大きな期待を抱いた人々が一つになってチームを後押ししてくれるこうした機会に、しっかりしたプレーを見せるのだという思いをチームとして大事にしたい――大塚はかねがねそんな思いを語っていた。初戦はそれが、トリッキーな状況下でやや空回りしたかもしれない。


しかし24日の試合では、A千葉は前半32-45と劣勢を背負いながら、延長の末の109-106というスリリングな逆転勝利をつかむ。勝因は大きく分けて2つあった。一つはチーム全体としてディフェンス面でのタフさを見せつけたこと。もう一つは、前半シューティングハンドの右手に相手のハードなファウルを受け一時ベンチに下がった岡田の奮起だ。岡田は後半の2つのクォーターと延長の5分間で、3Pショット7本を成功させて27得点。延長では先制の3Pショットを含め、点の取り合いの中で8連続得点を奪っていた。


集中力を増した “ノックダウン・シューター”の手から放たれるボールは次々とゴールを射抜いた。その鬼気迫るプレーぶりから「勝つ」「決める」という岡田個人としての決意を感じたファンも多かったはずだ。

 


アルティーリ千葉のシーズンを救うクラッチぶりを発揮した岡田優介(©月刊バスケットボール)

 


正しいマインドセットで最終週も連勝、いざ昇格決定戦へ


B2昇格決定戦2021-22出場を決めた後、レマニスHCは前日の敗北から立ち直ったチームについて、「やってくれると思っていました。誇りを感じさせるパフォーマンスでしたね。勝つにせよ負けるにせよ、バスケットボールをしっかりプレーしなければいけません。それをやってくれたことがうれしいです(I guess that’s what we expected, coming out with a bit of pride in their performance. With the way you win or you lose, that’s basketball. But we need to play it the right way. So, that’s why I was pleased about)」と話した。もちろん岡田についても「ユウスケは過去にも何度もこうして助けてくれました。それが仕事なんですよね。今日もまた自信のあるプレーを見せてくれました。試合に飛び込んで、オフェンスから良い流れを生み出してくれましたね(Yusuke did that a lot before. That’s what he does. And he came in and showed his confidence. He broke out in the game first at the offensive end and started a good stretch)」と称賛を忘れなかった。

 


厳しい戦いとなったシーズンにうまくチームを切り盛りしてきたアンドレ・レマニスHC(©月刊バスケットボール)


一方、大塚は 「昨日(23日)で決めようと話していました。これでプレーオフが決まるとか1位が決まるとか、ホームコートのアドバンテージが決まるとか、そういう状況の試合がこれから出てくると思うので、絶対に勝たなければと認識して皆で取り組みました」とチームのフォーカスが揺らいでいなかったことを明かしている。その認識が実を結び、後半と延長の5分間は特にディフェンス面のプレッシャーが高まった。中でも12点挽回した第3Qに静岡の3Pショットを6本中1本に抑え、延長では1本も決めさせなかったことが岡田の大爆発とともに非常に大きな勝因だった。


前日の試合ではペリメーター・ディフェンスを破られワイドオープンで3Pショットを次々と決められた(実際には25本中10本成功の40.0%)。大塚によれば「シューターがどこにいるか、その選手がどのくらいの確率なのかといったデータと、自分たちのディフェンスの引き出しでここまでヘルプ、ここからはいかないというところがかみ合わなかった」とのことだった。2日目は同じように決められるにしても、多くが厳しくコンテストした状態のタフショットで、それを決めた静岡のシューターたちの力を称えるべき内容だった。2日目も27本中11本成功の40.7%と高確率で決められたにもかかわらず勝利につながったのは、A千葉が12点挽回した第3Qに6本中1本、延長5分間はアテンプト自体が2本で成功は0と要所で静岡のペリメーター・シューティングを沈黙させられたことが大きい。大塚は「今日しっかりアグレッシブなディフェンスに改善できたので良かった」と話していた。


波に乗る静岡のシューターたちの攻勢をしのぎ切れたのは、攻守でアグレッシブさを失わなかったことだとも大塚は指摘した。「僕らが苦しい試合になるのはアグレッシブさがないとき。ガード陣は若い選手もいますし、長所を生かして縦横無尽にディフェンスしてほしいとコーチから言われています。今日はそれができていたと思います」。レマニスHCも「こうした経験ができてよかったです(I think it’s good for us to get through this experience)」と笑顔で話した。「強いチームと対戦し劣勢を跳ね返して延長に持ち込むことができました。どんなふうに状況を管理していかなければならないか、多くの学びがありましたし、何とか勝つことができて自信も得ることができました(That was good that we played a good team and had to come back from being down get through another time period, lots of learnings from how we managed the situation and some confidence to take out finding out the way to win in that situation)」


翌週の金沢との連戦では、初戦はセンターのコッツァーとガードの杉本を、第2戦では最大の得点源であるラべネルを休ませている。また両日とも小林は出場していなかった。それでも初戦で85-82、第2戦では104-64という異なる色合いの試合を制し、連勝でレギュラーシーズンを終えた。


両試合とも3Pショットがチーム全体として好調で、初戦では27本中12本成功(成功率44.4%)、第2戦では21本中12本成功(成功率57.1)という数字だった。特に大塚(2試合で7本中5本成功、成功率71.4%)、岡田(同15本中8本成功、成功率53.3%)の両ベテランが調子を上げたことは、B2昇格戦2021-22に向け注目すべきポイントの一つに違いない。静岡との館山対決では大塚が3Pショットを1本も決められず、かつフリースローを3本連続でミスする“珍事”もあったが、それがそのまま“珍事”に終わりそうなことを最終週のパフォーマンスは示している。岡田に関しても、好調の波が週をまたいで続いていた。


5月28日(土)に東京体育館で行われるB2昇格決定戦2021-22に向け、大塚は「アルティーリ千葉のファンや今まで選手たちを応援してくれたファンの後押しをエナジーに変えて、良いパフォーマンスをしていきたい」と意欲を語った。「ビッグゲームで大事なのはルーズボールとか、見ている人の気持ちを動かすプレー。それが勝利に間違いなく必要になってくる」。泥臭く途切れることのない40分間の格闘を、最高の舞台で結果に結びつけられるか。いよいよ正念場だ。

 

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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