月刊バスケットボール5月号

世界と戦った代表キャプテンとパフォーマンスコーチが語る「日本バスケに必要なもの」

月刊バスケットボール スペシャル対談
篠山竜青(日本代表キャプテン)× 佐藤晃一(日本代表パフォーマンスコーチ)

 13年ぶりのワールドカップ出場を果たしたAKATSUKI FIVEは、予選、順位決定戦を通して勝ち星を挙げることができず、改めて世界の大きな壁を痛感することになった。日本と世界の差、フィジカルの差とは何なのか。帰国会見で「体の使い方や身のこなしをもっと成長させる必要がある」と語った篠山竜青と佐藤晃一が今、伝えたいこととは…。月刊バスケットボール2019年12月号に掲載している対談の内容を紹介したい。

 

 9月11日、ワールドカップからの帰国会見で篠山はこう語った。
「日本が世界と戦うときに必ず出てくるキーワードに〝フィジカル〞という言葉があります。僕が感じたのは、自分から体をぶつけていくことに、慣れや技術がないのではないかということです。フィジカルが弱いから、ウェイトトレーニングをしっかりやろうということではなく、体をぶつけることに慣れることや、体の使い方や身のこなしをもっと成長させる必要があると思います。今、もう一度チャンスがあるのなら、小・中学校のうちにレスリング、柔道といったコンタクトスポーツの中で身のこなし方を覚えるというのも、ヒントの一つだと思います」
今の、これからの日本バスケットボールに必要なものは何なのか。世界の壁を体験した日本代表のキャプテン、そしてフィジカルを担当した佐藤晃一に、この発言の「真意」、そして「続き」を話してもらった。

フィジカルの差は「量」と「質」


─今回の会見でもそうですが、篠山選手はアウトプットしていこうということに積極的ですね。
篠山「好きだというのもありますが、意識してアウトプットしているという面があります。あるサッカー選手の話で、アウトプットしていくことが、自分の成長のために大切だと聞いたことがあります。自分のプレーについて、それを言語化して、説明していくことで、自分の中でそのプレーが明確になります。インタビューにしても、自分の気持ちをしっかりと伝えるということを意識します。そうすることで失敗したときも、成功したときも、そのプレーを振り返ることがうまくなってきたと思います。こういう姿勢、こういう視野だったから、こういうプレーを選択したと整理できるようになりました。そうした積み重ねが経験となり、自分を成長させてくれるのだと思っています」
─今回の企画では、ワールドカップで感じたことをアウトプットしてもらいたいと思っています。
佐藤「そもそも、このテーマの元となったのは、ワールドカップ最終戦後の夕食の席で篠山選手と私、そして阿部勝彦(日本代表ストレングス&コンディショニングコーチ)で2時間くらい話し込んでいたことなんですよね。私が篠山君にフィジカルも含めて、ワールドカップを振り返って質問をぶつけていたら、話が広がっていって、ぜひ篠山選手から内容を発信して欲しいということになりました。」
篠山「帰国して会見を行う予定になっていたので、何を話すべきかと考えていて、周りからは最強、最強と持ち上げられながら、1勝もできずに終わり、やっぱりフィジカルが足りないと言われて…。そんな中で、メディアに、またその先にいるファンに対して何を伝えればいいかと悩んでいたんです。それで、フィジカルの差というけれど、それは何だろうと、掘り下げて、あれこれ話していくうちに、そうしたことならアンダーカテゴリーの選手たちや、その指導者たちに何を伝えたいかを発信してくのがいいのではないかと。それが会見での発言になったんです」
佐藤「私はワールドカップなど世界レベルの大会に出た代表選手たちに、そこで経験した知識を持って、小・中学生の頃に戻れるとしたら何をやっておけば良かったと思うかと聞くことにしています。出てくる答えは、だいたいフィジカルについて、日常の取り組みについてといったものです。それをアンダーカテゴリーの育成の場や、指導者養成の場で話すようにしています。篠山選手の場合、小・中学の頃に戻れるのであれば、レスリングや柔道などほかのスポーツをやっておけば、といったことです」
─強さだけではないフィジカルの差とはどんなことですか。
篠山「ぶつかり合いの量と質の差です。ヨーロッパの選手たちは体をぶつけることに慣れていて、うまさがあります。スクリーンのかけ方、外し方にしても、体をぶつけていく角度、タイミングといった体の使い方がうまい印象でした。
胸の厚みが違うから通用しないといった感覚ではありません。例えば、僕のような小柄なガード選手であっても、準備をしていれば、インサイドに飛び込んでくるビッグマンをバンプして止めることはできるんです。身体の大きさや腕の太さの問題ではないということを伝えたかったのです」
─佐藤さんは、NBAチームのフィジカルコーチなどを務められていたわけですが、そうした世界トップのレベルと比較して、ワールドカップの日本代表のフィジカルはどうだったのでしょうか。
佐藤「一概に比較はできないのですが、実感としては私が代表に関わるようになった3年前に比べると、トレーニングの効果によって、選手たちの慢性的な故障が減ったということは言えますし、日常的にトレーニングすることがルーティーンになりました。これは阿部さんの指導によるところが大きいですね。習慣としてウェイトトレーニングをする感覚が染み付いていきましたから、明らかにスタンダードは上がりました。体を当てる練習も増えましたし、ワールドカップに臨む準備はできていたと思います。篠山選手の話では渡邊雄太選手が『ヨーロッパのチームはNBAよりもフィジカルだ』と言っていたそうです。ヨーロッパはルールの範囲内でとりあえずぶつかれるときはぶつかるといった感じでした。フィジカル、コンタクトと言うと、我々はボックスアウトやスクリーン、ボディーアップ、ドライブ、バンプといったシーンをイメージしますが、彼らの場合それだけではなく、相手が嫌がるコンタクトを常にするといった感じです」
篠山「そういうスタイルが小さい頃から当たり前なんでしょうね。僕らはミニバス、中学、高校のチームでは体をぶつけていけとは教わりません。各アンダーカテゴリーの代表に入って、ナショナルトレーニングセンターで練習して、初めて体をぶつけることの大切さということを教わるわけです。それでもなかなか実感できずに、実際の国際大会に出場して初めて実感するわけです」
─コンタクトの部分では、国際強化試合とは違うのですか。
篠山「インテンシティ(激しさ・強さ)は全く違います。特にディフェンスに関しては違いました。この夏に強化試合をしたアルゼンチンにしても、ドイツにしても、こんなもんじゃないだろうなとは思いながらやってはいましたが、やはり本番の大会では全く違いました」
佐藤「そこまでとは聞いてなかったですね。私は懐の深さの違いというか、相手との距離感からくるプレッシャーの度合いが違うのではと感じていました。日本の選手は、このくらいでプレッシャーを感じるだろうと思っていても、より近くまで寄らないと他国の選手たちはプレッシャーを感じない。逆に、他国の選手たちに近くまで寄られると、日本の選手は、よりプレッシャーを感じてしまうのではないでしょうか。日常のパーソナルスペース(人と接する際の心地良いと感じる間合い)のようなもので、他国の選手は距離が近くても気にならないという感じです。これは男子に限ったことではなく、女子のアンターカテゴリーのヘッドコーチの萩原美樹子さんは、ドライブしていく際、選手たちにゴールに直線で向かっていけとよく指導しています。どうしても日本の選手は相手を避けて、弧を描くように入っていってしまう。自分から体をぶつけていってフィニッシュに持っていくというマインドが希薄なんですね」
月刊バスケットボール2019年12月号(10月25日発売)では、アメリカとヨーロッパの違い、体格のハンディを乗り越えるために必要なアドリブと連動性についてなど、さらに熱く、深い内容の対談を掲載しています。

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