月刊バスケットボール6月号

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2021.11.18

女子アジアカップ2021Div. Bの話題5選-4 ヒジャブ着用、イラン代表に見るバスケットボールの多様性への対応

今大会初戦、レバノン代表との試合に臨む直前のイラン代表メンバー(写真/©fiba.asiacup2021)

 

 11月7日から13日までの期間、アンマン(ヨルダン)で開催されたFIBA女子アジアカップ2021ディビジョンBに出場したイラン代表は、自国の文化的、あるいは宗教的特徴を鮮明に表現するいでたちでプレーしていた。彼女たちは、チームの全員がユニフォームのほかにヒジャブと呼ばれるヘッドスカーフと上下のインナーウエアを着用していたのだ。それは5月にグラーツ(オーストリア)で開催された3x3の東京2020オリンピック予選でも見られた光景だ。


国際舞台において、そのいでたちでプレーすることが許されるようになったのはわずか4年前。それはすなわち、それ以前の相当長い期間に渡り、イランの女子プレーヤーたちには国際舞台に参加する道が阻まれていたことを意味している。調べてみると、5人制の女子イラン代表がFIBAの国際大会にチームを派遣した実績は過去に3度しかみつからない。


直近は2019年の西アジア女子チャンピオンシップで、この大会では銅メダルを獲得している。しかしそれ以前となると、今から47年前、1974年のアジアカップ(当時の呼称はAsian Basketball Championship)と同年のアジア大会におけるバスケットボール競技までさかのぼらなければならない。

 その間、イランでは1970年代後半に起きたイラン・イスラム革命という出来事を契機に、女性の日常なヒジャブ着用が習慣化されるようになった。それはスポーツの現場でも同じことで、イランのプレーヤーたちは、バスケットボールをプレーする際にも肌の露出を極力避けることを求められているのだ。

 

 一方でFIBAは、プレー中の事故につながる可能性のある物品の着用を禁じており、2017年にルールを変更するまでは宗教上の理由によるヒジャブやターバン、ヤムルカ(ユダヤ人男性の民族衣装、小型の帽子)などの着用も禁じていた。そのためイラン、あるいはイスラム教徒の女性たちの多くが、国際舞台への道を遮断されることになっていたのだ。

 

シリア代表との5・6位決定戦でゴールに向かうシャディ・アブドルバンドとフォローに走るネギン・ハミネー(写真/©fiba.asiacup2021)


イギリスの有力紙ガーディアンのオンライン記事などで見られる情報によれば、FIBAのルール変更は、ボスニア系アメリカ人のインディラ・カルリョ氏という女性が立ち上げた、グローバル・アクティブというイスラム教徒の女性の活動を支援する非営利団体による陳情を発端に見直されることになった。カルリョ氏はNCAAディビジョンIのテュレーン大学でプレーしたトップアスリートで、卒業後にアイルランドとボスニアでプレーした後、ヒジャブをまとうことを決めたという。そこで突き当たったのが、ヒジャブ着用禁止のルールだった。エリートレベルでのプレーを望んでいたカルリョ氏だったが、ボスニアであれアメリカであれ、他のどこであれ、国を代表する立場で大会に出場することができない「引退」の状態というわけだ。


その状況を変えようと考えたカルリョ氏は実際にこのルールの変更を求め、同じ志を持つ世界のバスケットボール・プレーヤー24人と協力して13万人以上にも上る署名を全世界から集め、当時FIBAの事務総長オラシオ・ムラトレ氏(現IBF[国際バスケットボール基金]理事長)に掛け合った。

 

 2017年のヒジャブ着用プレー解禁は、こうした経緯で勝ち取られたものだ。この出来事により、それまで閉ざされていた地域で多くの女性がバスケットボールに参加し、目標を持って前進できる可能性を見出すことができるようになったことの意味は計り知れない。

 

 その恩恵を受けたプレーヤーの代表格が、49歳で今大会に臨んだキャプテンのエドナ・エサイアン・ジャンギだ。ジャンギは今大会でイラン代表のキャプテンを務め、平均12.0得点、9.3リバウンド、2.0スティールがいずれもチームハイ。あらゆる意味でチームの支柱となる存在だったが、長年積もった代表活動への思いがその意欲の源だったことは容易に想像できる。

 

 チームとしては今大会で勝ち星を挙げることができなかったイラン代表だが、いずれの試合も点差はひと桁。特に、最終的にディビジョンA昇格を決めたレバノン代表と戦った初戦は64-66の僅差だった。国際舞台に復帰して間もない現在は、最新のFIBA世界ランキングで80位。しかし今後急速に発展を遂げる可能性があるかもしれない。

 

果敢なドリブルドライブを見せるイラン代表のキャプテン、エドナ・エサイアン・ジャンギは49歳。FIBAのルール変更で長年の夢だった代表活動ができるようになった(写真/©fiba.asiacup2021)


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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