月刊バスケットボール6月号

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2021.11.18

女子アジアカップ2021Div. Bの話題5選-3 シリア代表が35年ぶり2度目の出場、白星2つと貴重な経験を持ち帰る

 すでに10年以上も続く激しい内戦による社会情勢の不安定さから、シリアは長年女子代表を国際試合に出場させることが困難な状態にあった。しかし、1986年以来35年ぶり2度目の出場を果たした今大会では、帰化選手でNCAAディビジョンIのニューオリンズ大学でプレーしたガードのランディ・ブラウンを軸に初戦でイラン代表に78-71。最終的に5位の座をかけて戦ったイラン代表との2度目の対戦にも63-58で勝利した。彼女たちは、シリアで女子バスケットボールが前進していることを世界に発信した。

 

大会初戦でイラン代表に勝利し、笑顔をはじけさせたシリア代表(写真/©fiba.asiacup2021)

 

 その意味合いは対戦相手も承知している。カザフスタン代表のビタリー・ストレブコフHCは、準決勝進出決定戦でシリア代表を87-69で破った後の会見で、「まず私は、シリア代表に大いなる敬意を表したいと思います。皆さんの誰もが、シリアがこの10年間抱えてきた問題をご存じでしょう。その中で彼女たちは、バスケットボールに取り組む機会を見出したのです。どの試合も懸命にプレーし、決してあきらめません。シリア代表にもシリアの国民の皆さんにも、平和が訪れ、すべてがうまくいくように願っています」とコメントした。


9月にBBCが伝えた国連の調査では、シリア内戦による死者数は最低でも35万人。しかしイギリスの監視団体による非公式集計では60万人以上という報告もある。そのような過酷な環境下で、バスケットボールに情熱を燃やすことにどんな意義があるのか…。

 

 その答えを持っている人が、今回のシリア代表の中にいる。FIBAの大会公式サイトで公開されている記事(英文)によれば、30歳のフォワード、アリシア・マガリアンはバスケットボールをしていたがためにヨーロッパの大学に特待生として進学する道が開け、結果として現在シリア国内有数の医薬品会社で働いているのだという。

 

 残念ながらマガリアンは、今大会ではケガのためプレーすることができなかったのだが、「この10年間はシリアに住むすべての人々にとって最悪でした。非常に厳しい日々を生き抜いてきました」というコメントを目にすれば、彼女がこの舞台に立ったこと自体を祝福せずにはいられない。「私たちはとにかく練習をやめなかったんです。シリアの国外にいる方々には、私たちがどれだけ苦しんできたか、わかってはいただけないかもしれませんけれど」

 

バスケットボールで人生を切り開くきっかけをつかんだというアリシア・マガリアン(写真/©fiba.asiacup2021)

 

 たとえ完全にわからないとしても、誰しも彼女たちの生きざまとバスケットボールに対する姿勢に思いを馳せることに何らかの意味を見出せるのではないだろうか。最後の試合となった5・6位決定戦を終えた後の会見で、「今大会は35年ぶりの出場でありがたかったです。シリアにとても良い経験を持ち帰ることができます」と全4試合を総括した、センターのジョーナン・バイェ(集合写真前列中央、両手でこぶしを握っているプレーヤー)の笑顔も印象的だった。

 

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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