月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2022.10.08

6年振りの代々木を戦った田中大貴、「変わったこと」と「変わらないこと」

 

 2016年9月22日、代々木第一体育館。

 

 この日、Bリーグは産声を上げた。対戦カードは前年のNBLでレギュラーシーズン最高勝率を記録したアルバルク東京と、bjリーグ王者の琉球ゴールデンキングス。ド派手なLEDコートに、赤と白の真っ二つに割れた観客席。全てが新鮮で、日本バスケットボール界の夜明けがそこにはあった。

 

 あれから6年が経った今日10月7日。代々木第一体育館にBリーグが帰ってきた。今度はA東京のホームアリーナとして、だ。

 

 千葉ジェッツを迎えたこの一戦はA東京が78-66で勝利。試合は序盤からA東京が主導権を握り、1Qを26-12と大きくリード。激しいディフェンスで千葉Jをシャットアウトしつつ、オフェンスではハーフコートでじっくりとセットプレーを仕掛け、リバウンドの面でもセバスチャン・サイズらがインサイドの攻防でアドバンテージを奪取。序盤のリードを最後まで守り切った。

 

この日の観客数は8919人とクラブ主管の試合ではBリーグ最多となった

 

 中でも気迫がみなぎっていたのが、キャプテンの田中大貴だ。普段はポーカーフェイスの彼だが、この試合に限っては、「レギュラーシーズンの1試合に過ぎないけど、やっぱり個人的には高まるものがあった」と、いつも以上に気合いを入れて試合に臨んだ。

 

 相手がファイナルで2度覇を競った千葉Jだったというのも、それに拍車をかけたのかもしれない。試合前にはアレックス・カークらと「横浜アリーナでのファイナルの雰囲気に似ているね」といった話をしたそうで、特別なアリーナ、特別な雰囲気、そして特別な相手との対戦が田中を燃え上がらせたようだ。

 

 この試合では両チーム通じて最初のポイントを右ウィングからのミッドレンジジャンパーで射抜くと、得点こそ合計4点と伸びなかったものの、攻防に強度の高さを見せて4アシストに1スティール。中でも4Q残り8分の場面で、千葉Jのヴィック・ローがトランジションからユーロステップを仕掛けた場面では、そのコースを完璧に読み、イージーバスケットを阻止。このシーンはゲーム全体のベストディフェンスの一つだった。

 

 

 さまざまな経験を積み重ね、田中も気付けば31歳。プレーや言動にも円熟みが出てきており、25歳だった6年前と現在ではクラブ内での立場もガラッと変わった。「自分の立ち位置としては6年前と違って今このチームの日本人選手では最年長ですし、大学を卒業してからこのクラブにずっと在籍していて、その間にどうやってこのクラブが成長してきたかを体感してきました」と田中。

 

 2度の優勝やチャンピオンシップ敗退、さらにはCS不出場というシーズンもあった。そういった経験も踏まえて、アルバルク東京というクラブの伝統を今度は自らが次の世代に継承していく立場となった。「(クラブの伝統を)今いる若いメンバーにうまく伝えて、この先もアルバルク東京というクラブが成長してほしいと思います。6年前、自分が先輩たちに指導してもらっていたように、今度は自分が若い世代に伝えていくという責任があります」

 

 逆に変わらないものもある。それは、『勝たなければならないクラブである』という誇りと責任だ。今季のロスターを見ても、リーグで1、2を争うタレント力を有し、小酒部泰暉や吉井裕鷹といった有望株も複数人所属している。だからこそ、将来を見据えつつも今勝つこと。それを追い求め続けている。

 

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「アルバルクというクラブでやらせてもらっている身としては、やっぱり勝たなければいけないと思っています。他のチームがそうじゃないというわけではないですが、より結果を求められる。そういうクラブでプレーさせてもらうという責任感があります。毎年、優勝を目指して勝ちにこだわること。そこは変わらないです」

 

 歴史的開幕戦を知るメンバーもめっきり減り、今では田中とザック・バランスキーの2人のみとなった。指揮官も今季からデイニアス・アドマイティスに代わり、A東京は大きな変革期を迎えている。変わりゆくクラブの中で、その伝統を色濃く受け継ぐ田中の存在は今、これまで以上に重要なものとなっていくだろう。

 

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

写真/石塚康隆

 



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