月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2022.05.23

宇都宮ブレックス、「チャレンジャー」として臨む2年連続のファイナル

 

 2021-22シーズンもクライマックスを迎えたBリーグ。B1チャンピオンシップのセミファイナル第2戦は、劇的なブザービーターで島根スサノオマジックを撃破した琉球ゴールデンキングスが西地区から初のファイナル進出。逆の山では宇都宮ブレックスが川崎ブレイブサンダースとの死闘の末に2年連続3度目のファイナルにコマを進めた。

 

 クォーターファイナルの千葉ジェッツ戦から、川崎との今シリーズまでをアウェイ4連勝で駆け抜けた宇都宮だが、安齋竜三HCが「昨年は『絶対に優勝』というところまでチームを作ってきたのですが、今シーズンは本当にチャレンジャー」と言うように、今季は東地区4位でワイルドカードとしての戦い。アップセットを繰り返してのファイナル進出と、優勝した16-17シーズンや昨季とは状況が異なる。

 

 昨年オフには長年チームを支えてきたライアン・ロシターとジェフ・ギブスの退団に加え、ゲームチェンジャーとしての役割も大きかったLJピークも移籍。新たに加わったチェイス・ファーラーとアイザック・フォトゥはすばらしい選手ではあるものの、特にロシターとギブスのリーダーシップを失ったこと、長い年月をかけて培ってきたブレックスのバスケットを再構築することについては、不安の声もあった。

 

出場時間は限定的だったが、ベンチから積極的に声をかける渡邉の姿は、宇都宮を象徴するようなものだった

 

 しかし、渡邉裕規が「メンバーは変わりましたが、レギュラーシーズンや昨年のファイナルの経験から、自分たちでもびっくりするくらいの団結力が出てきました。『チーム力』とよく言いますけど、このチームで1年経ってない中で、ここまでの仕上がりに持ってこられたのはすごいと思います」と、自信を見せているように、着々とチームを作り上げてきたことが、この大一番で結果に表れている様子だ。

 

 また、昨季との大きな違いとして、どれだけの人に優勝候補と目されているかという点も挙げられるのではないだろうか。もちろん宇都宮ブースターは優勝を信じて疑わなかったはずだが、ずば抜けた勝率をたたき出した琉球に、前年王者の千葉、天皇杯を制した川崎などにスポットが当たる中、そこに宇都宮の名前が挙がることは例年よりも少なかった。それも、彼らのとっては良かったのかもしれない。

 

 勝って当たり前というプレッシャーから少し解放されたことで、「チャレンジを楽しんでいる感覚はあるかもしれません。すごくチームのムードが良くて、でも意外に冷静で。もちろん、ファイナルに行って当然だなんて思っていないです。でも、『ファイナルに行けちゃったよ』とかでもなければ、有頂天になっているわけでもなく、『今やってやる、してやったり』という感覚が気持ち良いというか、そんな感じでやっています。チャレンジをすごく楽しんでいます」と渡邉。

 

 川崎との第2戦でも、接戦の中でどこか冷静に、スリリングな展開を楽しんでいるように見えたのは、それが理由だったはずだ。そうしたスタンスだからこそ、泥臭くリバウンドやルーズボールに飛び込み続け、川崎の流れに行きかけるたびにオフェンスリバウンドで相手のリズムを断ち切る宇都宮らしいディフェンスと遂行力の高さが40分間常に表れていた。

 

24得点に加え、ディフェンスでも存在感を示した比江島

 

 オフェンスでも鵤誠司やジョシュ・スコットがここぞの場面で得点し、この試合でMVP級の活躍を見せた比江島慎は3Pシュート5本を含むチームハイの24得点とゲームを掌握。勝負どころでもきっちりとフリースローを決め続けた。また、この緊迫した試合でも12選手中11選手を起用したこと、そして、77-73という最終スコアも実に宇都宮らしいものだ。

 

 昨年のファイナルでは最後まで波に乗り切れず、何度も「申し訳ない」という言葉を口にしていた比江島も、「昨年の経験があったからこそ、今があるかなと。成長も感じられましたし、あの教訓を得てやってこられたので、あとは気負い過ぎずにいかにリラックスしてファイナルの舞台を楽しむのかが大切になってきます。本当に精一杯楽しみたいと思います」とリベンジを誓っており、昨年とは一味違ったメンタル面での充実感が比江島自身にも、チームにもある様子。

 

 そこに変わらない強さも健在。宇都宮の強さについて、川崎のニック・ファジーカスは以下のように語っている。

 

「堅実さが彼らの最大の武器。今日もありましたが、自分たちがオフェンスでターンオーバーをしてしまった後に宇都宮がターンオーバーをすることはないです。それに、例えばリバウンドで一つでも気を抜けば彼らはオフェンスリバウンドに飛び込んできますし、そういうところをハードにやるチームです。オフェンスなら最後までシュートを打ち切る、ディフェンスでは守り切るという部分で計算し尽くされているのが、宇都宮が宇都宮たるゆえんだと思います」

 

宇都宮の起点となる活躍を示した司令塔の鵤

 

 新たなメンバーが加われば、既存メンバーがしっかりとその選手にブレックスメンタリティを伝承すること。外国籍選手を例に取っても、ロシターやギブスがスコットにそうしてきたように、今はスコットがフィーラーやフォトゥに『ブレックスとは』という部分を伝えているに違いない。これがファジーカスの言う堅実さ、誰が出ても変わらぬ強度のプレーができる遂行力の高さの源となっているのだ。

 

 安齋HCも「チャンピオンシップに入る前からですけど、うちの選手たちの遂行力には本当に僕自身が指揮を執っていてすごいなと感じます」「やるべきことを全員がやってくれているのが本当に大きいです。今日も何度も流れを持っていかれそうなところはありました。でも、コートの中で問題を解決していけたのは、今シーズン積み重ねてきた成果が出てきている証拠。しっかりとコートで表現してくれている選手を誇りに思いますし、すごいなと思います」と賞賛を惜しまない。

 

 ファイナルの相手は琉球。宇都宮同様にコアメンバーを長くキープしながらチームを作り上げ、ディフェンスとリバウンド、そして多くのプレーヤーが得点に絡むという意味では、両クラブには共通する部分も多い。はたして宇都宮はこのシリーズを制し、5年ぶりの優勝を手にすることができるか。注目のファイナルは5月28日(土)に東京体育館で幕を開ける。

 

 

写真/©︎B.LEAGUE

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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