月刊バスケットボール5月号

【ウインターカップ2021】洛南のエースが直面した高い壁

 

 #5大西一輝にとって、中部大第一との2回戦はさまざまな意味で悔しい敗戦だったはずだ。

 

 2回戦の注目マッチアップとなった中部大第一と洛南の対戦は、終盤で力強さを見せた中部大第一が大激戦の末に、福岡大附大濠との3回戦にコマを進めた。前半は中部大第一の常田健コーチが「相手のインサイドをアタックしてファウルトラブルに陥らせ、なるべくベストメンバーで試合を成立させないようなプランを敷いていて、その通りにできました」と振り返るように、中部大第一が粘る洛南をじわじわ引き離し、18点の差(27-45)を付けた。

 

 洛南はインサイドを支える#10星川開聖と#11西村渉が前半でそれぞれ3ファウルと、苦しい状況。しかも、ポイントゲッターの#5大西は「相手は身長が大きくて、気持ちよくシュートを打たせてもらえませんでした。普段よりもディフェンスの寄りも早くて、かなりきつくマークされている感覚もあって、それでリズムを崩されてしまいました」というように、相手ディフェンスの徹底マークに遭い、前半2得点。試合を通じてもわずか5得点に封じ込められた。

 

 

 前半は単純な実力差が出ていたような展開だったが、後半に入ると流れは一変する。#5大西らに代わってコートに立った#8杉信イフェアニと#9高田和幸のガードコンビが躍動。思い切りの良い3Pシュートやガッツあるディフェンスで流れを引き寄せると、「あのサイズの選手たちに走られたら、うちは手も足も出ないと思っていたので、そこをさせないという意識付けをさせることができた」という河合祥樹アシスタントコーチの言葉通り、前半にも増して全員でインサイドを固め、最大で1点差まで詰め寄ることに成功。

 

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 最終的には中部大第一の地力が上回り、76-89で敗れることとなったが、その気迫みなぎるプレーからは今年の洛南の持ち味であり「戦術・戦略を理解して、チームで戦う意識を植え付けてくれた」と河合Aコーチが語る3年生たちを中心とした「全員で守って、全員で攻める」というスタイルがはっきりと表現されていた。

 

 ただ…その時間帯のコートに#5大西の姿はなかった。3Qの残り5分53秒にベンチに戻って以降、再び彼の出番が訪れることはなかったのだ。河合Aコーチとしても、初めからそうするつもりはなかったはずだが、「試合の流れの中で、大西を戻すことよりもチームに勢いを与えられるメンバーを最後に選びました。追い上げなければいけない、もしくは追い付いてきて緊迫した雰囲気だったので、最後の10分、もしくは5分をそれまでの時間の中で一番良いラインナップで戦ったため、起用できなかった」と振り返る。

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 それは至極当然のことである。実際に追い上げた時間帯の洛南の選手たちは本当に集中していたし、#5大西自身も「あの時間帯はベンチもスタンドの選手も全員が一つになれたので、あそこまで詰められたんだと思います」と、味方のプレーを鼓舞し、不満は一切漏らしていない。

 

 それでも、1年間洛南のエースとしてプレーしてきた自負が彼にもあったはず。だからこそ「前半の最後にも3Pシュートを相手に決められたりして、気が抜けてしまうところがあったので、そこはこれからもっと鍛えないといけないところだと思いました」と、自身のプレーを悔やむ。

 

 インターハイはディフェンス面での課題が残ったことで、敗れた3回戦の東海大付諏訪戦ではプレータイムが限定的になってしまった。それからはディフェンスにフォーカスして体作りからやり直したことで、京都府予選ではその成果が垣間見る場面も。だからこそ、『今度こそは』という思いが彼の中にはあったはずだ。もちろん、河合Aコーチの言葉通り、試合展開からすると追い上げの時間帯に#5大西をコートに戻すことで、そのリズムが切れてしまう恐れもあった。

 

 

 ただ、裏を返せば、「それでも大西をコートに戻さなければ」という真のエースになることが彼にとっては課題として残ったとも言える。#5大西自身もこの悔しさを大学でのプレーに活かしていく構えだ。「洛南は全員でディフェンスをして、全員で攻めるチームなので、一人がディフェンスをしないとそこでやられてしまいます。そういったメンタルの面が一番学んだことでした。大学に行ってもディフェンスは絶対に必要なので、まずはこの悔しさをバネにディフェンスをできるようにして、オフェンスではもっと3Pを決めて、もっと点を取れる選手になりたい」と#5大西。

 

 チームとしても個人としても、この1年で直面した壁は高いものだった。しかし、人は壁にぶち当たったときに成長するもの。夏からここまで#5大西自身が課題に向き合って成長してきたように、これから先も彼は必ずもっと大きく成長するはずだ。

 

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取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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