月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.09.23

“歴史的開幕戦”から5年、田中大貴が込める琉球戦への決意

 ド派手なLEDコートに映し出される華やかな映像、赤と白の真っ二つに分かれたアリーナ、どこか落ち着かない表情を見せる選手たち…。アルバルク東京と琉球ゴールデンキングス。Bリーグの前身であったNBLとbjリーグの看板チームどうしの対決となったBリーグオープニングゲームから、丸5年が経過した2021年9月22日。

 

 翌週に迫った2021-22シーズンの開幕へ向けてメディアに口を開いたのは、田中大貴(A東京)と岸本隆一(琉球)だ。5年前の“歴史的開幕戦”をコートで迎えた2人は、田中が30歳、岸本が31歳となり、互いのクラブを代表するフランチャイズプレーヤーとして5年の歳月を歩んできた。

 

当時田中(左)は25歳、岸本は26歳。5年の時を経て再び開幕戦で激突する

 

運命のマッチアップが

A東京の王座奪還へ向けたスタート

 

 A東京にとってこの5年は、2度のチャンピオンシップを獲得した成功の多い期間となったが、昨季のみを切り取ってみると、Bリーグ誕生から初めてチャンピオンシップ進出を逃す屈辱のシーズンに。

 

 だからこそ、王座奪還への強い意志が戦力補強にも表れている。今さら言うまでのないかもしれないが、千葉ジェッツからセバスチャン・サイズ、宇都宮ブレックスからライアン・ロシター、名古屋ダイヤモンドドルフィンズから安藤周人を獲得し、彼ら3人のほかにも笹倉怜寿とジョーダン・テイラーという2人の司令塔を迎え入れた。この豪華な布陣をルカ・パヴィチェヴィッチHCが統べるA東京は、机上の計算では優勝の大本命と見て間違いないだろう。

 

 とはいえ、田中は「メンバーだけ見ればすごく充実しているように見えるかもしれませんが、ルカHCが考えるバスケットに適応するまでにすごく時間がかかると思います。シーズンをとおして、良いことも悪いことも起きると思いますが、その中でしっかりと積み重ねて最後に強いチームになりたい」と、気を引き締めている。

 

安藤(左)、サイズらの加入はオフの大きな注目点だった

 

 5年前、いやそのずっと前から不変の、名門クラブがゆえの意識がそうさせているのだ。日本のバスケット界をけん引する存在ーー。アルバルク東京というクラブは田中自身も、そして対戦相手の岸本も「全クラブが意識する存在」と口にするほど、誰もが認めるトップクラブ。田中はA東京のキャプテンとして「自分が『今年、優勝するんだ』という思いを一番強く表現して、どんなときもブレずに戦いたい」と力強く口にする。

 

 対する琉球もリーグタイトルやファイナル進出の経験こそないが、毎シーズン西地区の上位争いに食い込み、熱狂的なブースターとともにキングスのバスケットを作り上げてきた。「お互いが5年前と違ってそれぞれの強みや特性を生かして開幕を迎えるので、気持ちとしては雑草魂を持ちつつも、僕らが5年かけて積み上げてきたものをぶつけたい」と岸本。両者、あの開幕戦を意識しないことはないはずだが、あくまでも今季のパフォーマンスと結果にフォーカスしていた。

 

 

田中大貴、琉球戦のキーマンは「自分」

 

 田中にこんな質問をぶつけてみた。「琉球戦のキーマンは誰ですか?」

 

「難しいですね…」。彼はしばらく考え込んだ後に「自分にしておきます」と一言。その理由について「ルカHCになってからずっとアルバルクでプレーしているメンバーも少なくなってきました。ヘッドコーチの考えを理解して、試合でそのバスケットを表現することは大事で、自分にもその責任があると思います」と話す。パヴィチェヴィッチHCが就任した17-18シーズンから現在までA東京でプレーし続けているのは田中、小島元基、ザック・バランスキー、菊地祥平、アレックス・カークの5人。小酒部泰暉、吉井裕鷹、平岩玄、そして再加入の笹倉もパヴィチェヴィッチHCのバスケットを経験しているとはいえ、まだまだキャリアが浅い。

 

田中は「新しく加入してきた選手はみんな高いIQを持っていて、すでにだいぶ慣れている感じはある」としつつも、「本番となるとどうなるか分からないので、自分がゲームを落ち着かせたりコミュニケーションを取って、なるべく良い方向に(チームを)持っていくという意味で、自分がしっかりとないといけない」と、責任感を口にする。

 

 パヴィチェヴィッチHCのバスケットの1番の体現者として、プレー内外でチームをけん引する覚悟を持って開幕戦を迎えようとしているのだ。

 

 東京2020オリンピックが過ぎ、注目度が増すBリーグ。5年間でリーグとして目覚しい成長を遂げてきたからこそ、さらにジャンプアップするために今季の持つ意味は大きい。「(この5年間は)周りの方たちが自分たちのために作ってくれた雰囲気などでここまで盛り上がって、ファンも増えていったと思います。ここからはゲームのクオリティ、選手のバスケットの質の高さをより上げていく必要があります。5年前に比べてクラブもリーグも成長していると思いますし、そういう成長を止めないように選手として、やるべきことをしっかりやっていきたい」と田中。

 

 歴史的開幕戦のリマッチが、新シーズンの幕開けを告げる。

 

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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