月刊バスケットボール6月号

波乱の指揮官交代から3年…高知中央の次なるステップ

吉岡コーチ体制3年目

浸透してきた「考え続ける」ことと留学生との“共存”

 

 

昨年のウインターカップで3位入賞と、大躍進を遂げた高知中央。井上ひかる(現園田学園女大)を起点にチーム全員が連動するバスケットは、見る者を虜にする魅力的なものだった。

 

とはいえ、彼女たちのサクセスストーリーの始まりはたったの2年前。つまり、現3年生が入学してきた2019年の春からだ。

 

それまでは留学生にボールを集めてひたすら高さで勝負するチームだったそうで、「ポートボールかって揶揄されるようなこともあって、背の高い選手に入れて戦うだけのバスケットと言われていた時期もあったんです」と、吉岡利博コーチは当時のチームについて語っていた。人間性についてもお世辞にも良いとは言いがたい状況で、井上も「監督が変わるまではチームもぐちゃぐちゃで人間性も良くなかった」と振り返っている。

 

 

ここを境に吉岡コーチがチームの抜本的な改革を託され、高知中央で指導に当たることとなる。しかし、当時は指揮官交代に対して選手たちからは不満の声も。これまでとは全く異なるバスケットを要求されたことで、選手たちに迷いや不満が生まれたのだ。

 

今となっては「1年目なんて僕がコーチになることに納得していない子もいましたし、練習後にはコートの端の方で『バスケットが分からない』って泣いてしまうような子もいました。あのひかるでさえ、2年生のインターハイ前にはそういうことがあったので(笑)」と吉岡コーチは笑うが、そんな状況からチームをリビルドしていくのには相当な苦労があったはず。

 

まず取り組んだのが留学生依存からの脱却。“依存から共存へ”というテーマを掲げ、これまでのスタイルを捨て去った。実際に、昨年のウインターカップでは井上を中心にピックプレーを多用し、留学生のンウォコ・マーベラス・アダクビクター(現拓殖大)もアウトサイドから攻める場面も見られるなど、チームの中での一つのオプションとして、高さのアドバンテージを使う戦い方にシフト。まさに“共存”という形をのぞかせた。

 

 

昨冬の好成績は、その戦術が結実した中でのものだったのだ。そのカラーは今年のチームにも継承されていて、突出したスコアラーこそ不在ながら、井上とバックコートを組んでいた当時2年生の福原葵、今やチームの動力として高知中央を率いる司令塔の池口祐可、そして彼女たち日本人選手を支える留学生のオケケ・ギフト・ウチェンナが大黒柱としてチームに厚みをもたらす。

 

3年目でようやく戦術面もメンタル面も安定してきており、「(この3年で)『考え続ける』という部分はだいぶ浸透してきました。以前は一つのプレーが終わるごとに思考が切れていたんです。だから、例えば『この場面なら味方が必ずドライブにいくだろう』というような思い込みでプレーしないことを伝えています。見た事実、起こったことに対して自分がどう動くかを常に考え続けることが必要ですから。常に次のプレーを意識して動くという部分は浸透してきたところ」と吉岡コーチ。

 

メインコートを戦って明確になった

日本一への思い

 

昨年の結果を受けて明確になった思いもあった。それが「日本一」になることだ。今年度のキャプテンを務める福原はその思いを次のように語る。

 

「昨年はベスト4という目標で大会に臨んで、それは叶ったんですけど…。桜花学園さんとやった後に、目標は達成したんですけどやっぱり負けて悔しいという思いが強かったです。それで絶対に自分らの代ではって。その試合の前までは日本一を取りたいとまでは考えていなかったんですけど、大会を終えて自分の中でそういう気持ちが芽生えてきました」

 

 

はるか上の存在だと思っていた相手と対戦し、自分たちの力を発揮することができた。もう一歩で頂点まで上り詰めることができるのではないか。その思いが彼女に日本一という目標を抱かせたのだ。

 

吉岡コーチも「あの試合で『王者ってこういう感じなんだな』というのを肌で感じました。ただ、その背中がものすごく遠かったかといったらそうではなかったです。実際、第4Q中盤で10点強くらいまで点差を詰めることができたので。そこから立て続けにミスをしてしまいましたが、そういう場面でしっかりと詰め寄れるチームになれれば、つまり真に強いチームになれれば、たとえ相手が桜花学園でも脅かせる存在になっていけるのではないかと思います」と言う。結果以上に、あの準決勝がチームにもたらした影響は大きかった。

 

今年は昨年ほどのタレント力はないが、それを補えるほどに全員がどこからでも得点できるチームで、この3年間で培ってきたバスケットスタイルも健在。常に全員がアタックメンタリティーを持って戦う集団だ。四国大会を制すなど、成功体験も十分だ。

 

とはいえ、高知中央の属するトーナメントの左下ブロックは激戦必至。シードこそ獲得しているものの同じブロックの下位回戦では、留学生がいるチームへの戦い方を熟知している近畿の強豪・大阪薫英女学院やポテンシャルの高い選手を多く抱える関東王者の昭和学院ら、一筋縄ではいかない相手がひしめき合っている。

 

初戦からアクセル全開で、ベスト8やベスト4を戦うくらいに気概で臨まなければ上位進出、そして優勝の可能性は閉ざされてしまうだろう。

 

昨年の結果を受けて、高知中央への注目度はかつてないほどに高まっている。それでも、今の彼女たちにはそれを跳ね除けて再び快進撃を見せてくれる力も、経験値も備わっているはずだ。注目の初戦は大会2日目、8月11日(水)の11時10分にティップオフを迎える。

 

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