月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2021.02.01

オールドスクールバスケットで得点を量産する富山グラウジーズ

 現代バスケットはスペーシングを重視し、3Pシュートとピック&ロールを武器に得点を重ねていくことがトレンドだ。

 

 オールドスクールなポストアップからゴリゴリとインサイドで得点したり、「効率が悪い」としばしば言われるミッドレンジジャンパーを武器にするチームや選手は世界を見渡してもめっきり少なくなった。

 

 だが、そうした効率の悪いとされる2点の重要性に我々が改めて気付かされたのは、昨季のNBAファイナルだったのではないだろうか?

 

 マイアミ・ヒートのエース、ジミーバトラーはミッドレンジジャンパーを武器に毎試合得点を量産し、第3戦では3Pシュートを1本も打たずに40得点を稼いだ。後の王者ロサンゼルス・レイカーズも得点が停滞した時間帯にドワイト・ハワードがポストアップから試合をつなぐシーンが何度か見られた。

 

 

確実な2点で勝負した富山

 

 Bリーグのレギュラーシーズン第19節、富山グラウジーズ対アルバルク東京の第1戦(1月30日/アリーナ立川立飛)はまさにオールドスクールというに相応しい展開だった。

 

 この試合、コンディション不良で欠場となったジュリアン・マブンガを欠く富山はジョシュア・スミスとリチャード・ソロモンのツインタワーでA東京に挑んだ。

 

圧倒的な身体能力とリーチの長さでA東京のビッグマンを苦しめたソロモン

 

 富山はこの試合を含めて平均得点がリーグ1位の89.8である一方、3PシュートのアテンプトはB1の20クラブの中で13位(689本)というデータがある。マブンガ、前田悟、岡田侑大、松脇圭志といった優秀なシューターが複数在籍していることを考えると、この数字は意外だ。

 

 本来ならばマブンガの存在で多くのチームからアドバンテージを取れるSF〜PFのポジションが手薄になったことで、この日の富山はいつにも増してスミスとソロモンのインサイドを強調。序盤はソロモンが、試合が進むにつれてスミスがパワフルなポストプレーでA東京のビッグマンに対して一歩前に出た。結局、この試合はソロモンが27得点、12リバウンド、スミスが26得点、14リバウンドを記録した富山が終始インサイドを制圧し、97-86でA東京を撃破。2Pシュートアテンプトで54対37、ペイントエリア内での得点も54対28と圧倒した。

 

 浜口HCは「現代バスケットはNBAも含めてピック&ロールを基本に組み立てて、それに対応するチームが多いですが、ウチにはジョシュ(スミス)というポストムーブに優れる体の大きい選手がいます。それに僕はポストアップをしてプレーを組み立てていくのが好きなオールドスクールなコーチなので、引き続き続けていきたいです。また、ウチには3Pシュートが優れている選手も多いです。ジョシュを1対1で止めるのはどのチームにとっても簡単ではないので、そこのアドバンテージを(シューターを生かすという面も含めて)有効に使っていきたい」と、インサイドゲームに自信を見せる。

 

リーグ屈指のフィジカルを持つスミス(左)をカーク(右)は「Bリーグのシャキール・オニール」と表現した

 

 ただ、練習中からスミスとソロモンが同じチームでプレーする機会は決して多くない。練習時のマッチアップ相手がいなくなってしまうからだ。「練習自体も彼らを2人を同じチームで組んで5対5をすることはほとんどなくて、2人のいるチームのどちらにマブンガを入れることが多い」と浜口HC。その中でも、「先週の信州戦で2試合彼らが一緒に出て、1戦目はなかなかゲームにならなかったけど、2戦目ではお互いのスペースや息も合ってきて、今日の試合なんかはチームとして機能するようになってきた」と2人の同時起用から収穫を得た様子だ。

 

 マブンガ不在をプラスに転換できたことは、今後も続いていく東地区でのチャンピオンシップ争いに向けて好材料になったに違いない。

 

 

インサイドの強調が転じてアウトサイドを生かす

 

 強力なポストプレーヤーが存在することはアウトサイドにスペースを生み出すことにもつながる。特にこの試合に関してはスミスとソロモンをマークしなければならないあまり、A東京のガード陣が積極的にダブルチームを仕掛けていったが、これがもう一つのアドバンテージを生んだ。

 

 本来、爆発的な得点力を誇る岡田が2人のビッグマンが生み出したスペースに飛び込み、ゴール下でイージーショットを決めれば、ピック&ロールから得意のミッドレンジジャンパーを沈める場面も目立った。岡田だけではない。途中出場のベテラン水戸健史も同じく絶妙なカットインからゴール下の得点やショートコーナーのジャンパーをヒットし、A東京の反撃の芽を摘んだ。

 

インサイドに気を向けると、今度は岡田らウィング陣が輝きを放つ

 

 チームNo.1シューターの前田こそ、この試合は不発に終わったが、ビッグマンのスミスがチームのアシストリーダー(8本)となったことを考えれば、いかにインサイドから効率的なパスが味方に供給されたかが分かるだろう。

 

 A東京のルカ・パヴィチェヴィッチHCも「オフェンスリバウンドに飛び込まれてしまいましたし、(スミスとソロモンは)ワイドボディーでジャンプ力も高い2人です。ペイント内でのプレーでもシールされてしまって良いポジションニングで面を取られてしまいました。同時に我々が彼らにダブルチームを仕掛けたときにアウトサイドプレーヤーのところをオープンにしてしまった」とセンター陣のパワフルなプレーと、彼らの存在によって日本人のウィングプレーヤーに要所で得点を許してしまったことが敗因の一つであると認めている。

 

 超強力なツインタワーにリーグ最強のオールラウンダーであるマブンガ、得点力の高い日本人プレーヤーを複数擁する富山は圧倒的なオフェンシブチームに仕上がってており、優勝争いにも食い込んできそうな底力と勢いがある。今後の課題はディフェンス力の向上とターンオーバー数の削減だ。オフェンシブなバスケットを展開いるだけに、容易なことではないが、この2点が強豪からタイトルコンテンダーへと飛躍するためのカギになることは間違いない。

 

 ちなみに、前述した富山の今季平均89.8得点という数字はBリーグ開幕からの5シーズンの中で最多の数字だ。

 

富山グラウジーズ 対 アルバルク東京 第19節結果

第1戦 97-86

第2戦 86-90

 

写真/B.LEAGUE、山岡邦彦

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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