月刊バスケットボール5月号

進化した日本スタイルを構築し、世界に挑む女子代表

 9月22日から始まるワールドカップを控える女子代表にとって、ラトビアと対戦した三井不動産カップ2022(8月11日、12日@ゼビオアリーナ仙台)は、コロナ禍にあって貴重な国際ゲームであるとともに、メンバー選考の上でも重要な位置づけだった。

 

 昨年の東京2020、続くFIBAアジアカップにも出場している宮崎早織(ENEOS)にしても、決してポジションが確保されているわけではない。「ガードはポジション争いが激しい」と宮崎が語るように、昨シーズンはドイツでプレーし優勝に貢献、MVPも獲得した安間志織(UMANA REYER VENEZIA/イタリアリーグ)、東京2020に出場し、得点力がある本橋菜子(東京羽田)、東京2020では3x3で出場、安間の抜けたトヨタ自動車の正ポイントガードに座り、見事Wリーグ連覇を果たした山本麻衣、さらにWNBA挑戦中の町田瑠唯(ミスティックス/富士通)も恩塚亨HCは代表候補だと語っている。そうした厳しい代表争いは、言葉を換えれば、日々高いレベルでの切磋琢磨となる。宮崎自身も「自分の成長につながっている」とポジティブに臨めていると話す。それまでシュートタッチが合わなかったと言うが、この大会では2試合目に3Pシュート4本全てを決めて、結果を出した。

 

激しい代表争いの渦中にいる宮崎早織

 

 一方で、トム・ホーバスHCから恩塚HCへと変わったことで、求められるプレーが変わり、そこにアジャストしていくことも求められている。宮澤夕貴(富士通)は「トムさんのときは、オフェンスでは3Pシュートという役割が明確でした。今は、『ドライブしてもいいよ』と選択肢が増えたことで、どちらが良かったのか考えてしまう部分もあります」と語る。ただし、チームの問題ではなく「私自身がどう判断するかという問題」と宮澤。また、故障から復帰し、日本代表に戻ってきた渡嘉敷来夢(ENEOS)は「自分はもっとできる」というイメージがあるのに、そこまでできていないモヤモヤを感じてもいると言う。

 

 

 トム・ホーバス体制でオリンピック銀メダルを獲得した女子代表。次なる目標は金メダルしかない。そのためには当然ことながらアメリカに勝つことができるチームにならなければならない。もちろん、他の強豪国にも負けないチーム作りが求められている。さらに銀メダルを獲得した日本のスタイルは研究され、対策されてくることは必至。しかし、考え方を変えれば日本はトランジションが早く、3Pシュートを中心に攻撃してくるといったことに、相手が対策してくることが分かっているわけであり、それを逆手に取りつつ、女王・アメリカにも挑戦できるスタイルを構築しようとしているのだ。

 

 恩塚HCはそれぞれ役割を持った選手たちに、プレーの選択の自由度を与えることで、それを成そうとしている。そこで選手たちに求められるのは自身の判断力。その個々の判断スピードと共に、その判断に周りも連動していく…。ある意味、究極のチームプレーを目指しているとも思える。恩塚HCはそうしたスタイルをカウンター・バスケットと呼んでいるが、相手の対応を予測し、カウンターで仕掛けていくといったニュアンスだろうか。ディフェンス面ではプレッシャーの強度を落とさないために、選手をこまめに交代していく。こうした起用法にも、選手は対応を求められる。

 

 そうしたことを理解しているからこそ、選手自身も試行錯誤しながらも挑戦しているのだろう。宮崎も「3、4分という時間で、全力を出さなければならないのですが、最初は難しかったですが、大分慣れてきました。たとえその時間でうまくいかなくても、また、自分の番が回ってくるという安心感もあります」と、自チームとは違う起用方法にアジャストしている。

 

 平均身長の高いラトビア相手に2連勝。2試合目は日本に対し、前からプレッシャーをかけ、ゾーン・ディフェンスを多用するなどの対策を見せたラトビアに3Qまで苦戦を強いられた。それでも日本はオフェンスで得点が伸びない時間帯もディフェンスで我慢を続けた。その戦いぶりが功を奏し4Qになると相手が失速。一方の日本は3Pシュートを5本決めるなど、一気に突き放した。

「チームとしてやろうとしていることの大枠は見えてきた」と語る恩塚HC。さらに完成度を高め、ワールドカップで結果を残すことができるか。世界一への挑戦の第一章に注目したい。

 

(月刊バスケットボール/文・飯田康二 写真・松橋隆樹)



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