月刊バスケットボール8月号

今週の逸足『KYRIE 1』

バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした一品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回取り上げるのは、2015年カイリー・アービング(セルティックス)が米ペプシコ社のPR動画の中で履いたとして話題になった「カイリー1(スペシャルエディション)」。ケガに悩まされたシーズンでもあったが、このシューズとともにチームをファイナルへと導いた。


NIKE KYRIE 1

 

文=岸田 林 Text by Rin Kishida

写真=中川和泉 Photo by Izumi Nakagawa
  

バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした一品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回取り上げるのは、2015年カイリー・アービング(セルティックス)が米ペプシコ社のPR動画の中で履いたとして話題になった「カイリー1(スペシャルエディション)」。ケガに悩まされたシーズンでもあったが、このシューズとともにチームをファイナルへと導いた。
 
 NBA開幕とほぼ時を同じくして、日本でも映画『アンクル・ドリュー』(チャールズ・ストーン3世監督)の上映が始まった。カイリー・アービング(セルティックス)が主演するこの映画には、助演のシャキール・オニール(元レイカーズなど)、クリス・ウェバー(元ウォリアーズなど)、レジー・ミラー(元ペイサーズ)、ネイト・ロビンソン(元ニックスなど)らに加え、ジェリー・ウェスト(元レイカーズ)、ビル・ウォルトン(元ブレイザーズなど)、デビッド・ロビンソン(元スパーズ)らもカメオ出演。NBAファンなら世代を問わず楽しめるコメディー作品に仕上がっている。カイリーとともに映画の主演を務めるコメディアンのリルレル・ハウリーによれば、カイリー自身がセルティックスへのトレードを知らされたのは2017年のオフ、まさに映画の撮影中のことだったという。

 この映画の原案は、2012年に米ペプシコ社が制作した「ペプシマックス」のYouTube動画。当時まだルーキーだったカイリーが、特殊メイクで老人にふんしてストリートのピックアップゲームに現れ、圧倒的なスキルで相手の若者や観衆を驚かせるという、言ってしまえばベタな「ドッキリ」ものだ。だがウェブ動画の域を超えた特殊メイクや映像のクオリティー、そしてカイリーの予想外に(?)うまい演技も話題を呼び、動画の再生回数は瞬く間に2200万回を突破。製作費2万5000ドルという低予算にもかかわらず、YouTubeでその年に公開された全ての動画の中でもトップ50にランクインする「バズ動画」となり、多くの広告賞にも輝いた。カイリー自身もドラフト全体1位に恥じない活躍を見せ、新人王とオールルーキー・ファーストチームに輝いている。
 

 高校時代から全米に名が知られる有望選手だったカイリーは、プロ入り後、ペプシコに加え、「NBA2K」シリーズで知られる2Kスポーツ、フットロッカーなどともエンドースメント契約を締結している。とりわけ彼の将来性を買っていたのがナイキだった。ナイキがカイリーと正式に契約を締結したのはドラフト直後の2011年7月。この年のNBAはオーナーと選手会の交渉がまとまらず、7月1日には先の見えないロックアウトに突入していた。そんな状況においても、ナイキはアンダーアーマーとの水面下の争奪戦を制してカイリーとの契約に成功したといわれる。やがてレブロン・ジェームズ(現レイカーズ)らとともにチームをけん引するスターへと成長したカイリーのため、ナイキは2014年12月、「カイリー1」を発表した。ナイキのバスケ選手としては通算20人目、6年ぶりの新しいシグネチャーラインの誕生だった。

 2015年11月、ペプシコはおよそ2年ぶりに「アンクル・ドリュー」シリーズの新作「チャプター4」を公開した。沈黙を破ってマイアミに現れたアンクル・ドリューは、もう一人の謎の老人(実は元バックスなどでプレーした名シューター、レイ・アレンだ)と「H-O-R-S-E」ゲームでマッチアップ。約7分にも及ぶ大作で、この動画も米国では話題となった。この動画でアンクル・ドリューが着用していたのが、未発売の「カイリー1」スペシャルエディションだった。後にペプシコは「ペプシ」のアプリ上でこのシューズと特製のパーカを組み合わせ、毎週(たった)5人にプレゼントするキャンペーンを開始。周到に準備されたクロスプロモーションだったことが明かされた。
 

 このシーズン、カイリーはケガで序盤を欠場したものの、動画が話題になった12月にはコートに復帰。NBAファイナルでは新作の「カイリー2」を着用し、レブロンとともにチームをけん引、チャンピオンに導いている。特に第7戦では、ステフィン・カリー(ウォリアーズ)との1on1から、優勝を大きく引き寄せるスリーポイントを決めてみせた。米メディアはその活躍を「『アンクル・ドリュー』モードに入った!」と報じたほどだ。

 YouTubeでの再生回数は昨年までに累計1億回を超え、とうとう映画化にまでこぎ着けた『アンクル・ドリュー』。米国での映画の公開に合わせ、ペプシコからは新たなキャンペーン動画も公開された。加えてナイキからは、映画をモチーフにしたアパレルとシューズのカプセルコレクションも登場。ナイキのアプリ「SNKRS」での先行発売に加え、一部のカラーはフットロッカー(カイリーのスポンサー)での限定販売も行われた。シグネチャーシューズ売り上げランキングではレブロンに次ぐ2位のカイリーだけに、マーケテイング戦略もさらに緻密になっているようだ。 新人王に輝いたルーキーシーズン、チャンピオンリングを獲得した2015-16シーズン…振り返ればカイリーは、アンクル・ドリューが現れたシーズンに、コート上でも大きな結果を残しているようにも見える。ケガでの欠場を余儀なくされた昨シーズンは彼にとって必ずしも満足のいく結果ではなかっただろう。映画が大いに話題になった今シーズン、カイリーが再び「アンクル・ドリュー」モードに入るのか、大いに注目だ。
 

月刊バスケットボール2019年1月号掲載

◇一足は手に入れたい! プレミアムシューズ100選

http://shop.nbp.ne.jp/smartphone/detail.html?id=000000000593

(月刊バスケットボール)



PICK UP