月刊バスケットボール5月号

今週の逸足『NIKE AIR Z00M GENERATION』

 バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした逸品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回取り上げるのは、レブロン・ジェームズ初のシグニチャーシューズ『エアズーム ジェネレーション』(写真のWHEATは今年2月15日に発売されたもの)。スウッシュが入ったコンバース『オールスター』を履くなど、レイカーズ移籍以外にも話題を提供するレブロンからは、今季も目が離せない。

文=岸田 林 Text by Rin Kishida 

写真=山岡 邦彦 Photo by Yamaoka Kunihiko
 

バスケットボールシューズの歴史において、大きなインパクトをもたらした逸品(逸足)を紹介するこのコーナー。今回取り上げるのは、レブロン・ジェームズ初のシグニチャーシューズ『エアズーム ジェネレーション』(写真のWHEATは今年2月15日に発売されたもの)。スウッシュが入ったコンバース『オールスター』を履くなど、レイカーズ移籍以外にも話題を提供するレブロンからは、今季も目が離せない。
 

 このオフのNBA最大のニュースと言えば、間違いなくレブロン・ジェームズのレイカーズ移籍だ。新たな目標を探していた現役最強選手と、低迷を続ける名門チームの社長に就任したかつてのレジェンド(マジック・ジョンソン)。立ちはだかるのは、同地区に君臨する昨年のチャンピオンチーム。

 おひざ元であるハリウッド映画も顔負けのプロローグだ。昨シーズンとは別のチームになったレイカーズで、レブロンが期待通りの結果を残すことができるか、開幕が待たれる。
 

 実はこのレブロンの『世紀の移籍』の背景に、スニーカーが絡んでいたのでは? という“説”が持ち上がっている。事の始まりはNBAファイナル第2戦の前日練習。オラクルアリーナのベンチに腰掛け、コンバース・オールスター(チャックテイラー)に足を通すレブロンの姿がキャッチされた。驚くことにシューズのサイドには(ナイキのロゴである)スウッシュが入っており、瞬く間にSNSでも話題に。コンバースは現在ナイキの傘下にあるとはいえ、ここまで大胆なコラボは例がない。

 このシューズの正体は、LA発祥のストリートブランド「チャイナタウンマーケット」がレブロンのために制作したカスタムメイドモデル。少々ややこしいのだが、同ブランドは露店で見かける“ブートレッグ(海賊版)”のようなデザインを持ち味としており、このシューズも一見“海賊版”風ではあるものの、ナイキも了承のもと制作された“正規品”のようだ。レブロンのレイカーズ移籍が発表された7月、『チャイナタウンマーケット』は自社のインスタグラムに「ウチのシューズを気に入ってくれたから、LAへの移籍を決めたんだね!」というコメントを、レブロンの写真とともに投稿した。誰が見てもその投稿は、ジョーク交じりのものだった。
 

 すると事態は“ナナメ上”の方向に展開する。この投稿を確認したNBAが、シューズをプレゼントした行為がレブロンをLAに勧誘するためのタンパリング(事前交渉)に当たるとし、同ブランドに対して5万ドル(約550万円)の罰金を科すと決定。

 話はこれで終わらない。『チャイナタウンマーケット』側は即座にインスタグラムでNBAからのレターを公表し応戦、フォロワーたちに「罰金の支払いに協力してほしい」と呼びかけるとともに、なんと自社サイトで40%オフセールの開催を告知し始めたのだ(現在は削除)。続報がないところを見ると、その後何かしらの“手打ち”があったのだろう。だがこの騒動は、初代エアジョーダンの『罰金』エピソードをほうふつとさせるとともに、レブロンの一挙手一投足がいかに大きな影響力を持ち、またビッグビジネスにつながっているかを再認識させるものだった。
 

 高校在学中にナイキと7年9000万ドル(当時のレートで約108億円)という破格の契約を結んでから15年。レブロンとナイキは常に自らにプレッシャーを課し、それを乗り越えてきた。今年5月に経済誌『フォーブス』電子版が報じた2017年NBAシグニチャーモデル売上ランキングでも、レブロンは堂々の1位『エアジョーダン32』が発売されたマイケル・ジョーダン(5位)を抑え、スニーカー界でもキングの座を確固たるものとしている(ちなみに2位はカイリー・アービング、3位ケビン・デュラント、4位ステフィン・カリー)。
 

 だが、このランキングはレトロ(復刻)を含まないもの。『フォーブス』によれば、レブロンがナイキと総額10億ドル(当時のレートで1200億円)といわれる“生涯契約”を結んだ2015年をピークに、米国のパフォーマンス(競技用)バッシュ市場は下降を続けている。一方のレトロキックスはパフォーマンスバッシュの3倍程度の規模で売れ続けており、その65%がいまだ『エアジョーダン』シリーズだという。レブロンが目指すべき山頂は、まだまだ先にあるようだ。

 実はレブロンはNBAファイナル開幕直前の5月、やはりLAを拠点に活動するファッションデザイナー、ジョン・エリオットとのコラボもモデルを発表。『チャイナタウンマーケット』のコンバースを着用した直後の第3戦には、初代シグニチャーモデル『エア ズームジェネレーション』の復刻版、それもレイカーズを想起させるパープルスウェードのPEを着用してアリーナ入りしている。
 

 振り返れば、レブロンとシューズを巡る話の網が蜘蛛の巣のように周到に張り巡らされ、そのすべてがLAにつながっていた…ようにも見える。シーズン中に34歳を迎えるレブロンにしてみれば、今回の移籍はキャリアの締めくくりを見据えた決断のはず。さすがにシューズにつられて移籍先を決めることはないだろうが、ファッション・エンターテインメントの中心であるLAに活動の拠点を移すことで、これまでよりもさらにビジネスの機会を広げることができることは確かだ。近い将来、『エアジョーダン』がレトロキックスの王座を『エアズームジェネレーション』に譲り渡す日が来るのかもしれない。
 

月刊バスケットボール2018年11月号掲載

◇一足は手に入れたい! プレミアムシューズ100選

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(月刊バスケットボール)





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