月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2020.12.14

ケミストリーが成熟しつつあるシーホース三河 名門がついに眠りから覚めるか? 

 シーホース三河は1947年にアイシン精機バスケットボール部として誕生し、95年に日本リーグ(現在のBリーグ)1部に昇格。以降、天皇杯優勝9回、リーグ優勝6回を飾り日本を代表する名門クラブへと躍進を遂げた。

 

 シーホースという名は徳川家康に由来する。徳川家の祖である松平家が領地としていたのが三河地方で、その一族に生まれた家康が築いた城は“龍城”を呼ばれており、これが「龍→タツノオトシゴ→シーホース」となった理由の一つだそうだ。

詳細はシーホース三河公式HPをチェック!

 

 徳川家康といえば学校の授業でも教科書に必ず出てくる戦国大名だ。そこから由来するクラブの実力はその名に恥じぬもので、前述した数々のタイトルはもちろんのこと佐古賢一、後藤正規、桜木ジェイアールらを筆頭に日本バスケットボール史に残るレジェンドを数多く輩出してきた。

 

 

Bリーグ発足以降は思うような結果を残せず…

しかし、今季の三河は違う!

 

 そんな名門クラブだがBリーグ開幕以降は天皇杯とリーグ優勝はいずれも達成できていないばかりか、昨季は強力なメンバーを抱えながら最終結果は18勝23敗と負け越すなど、なかなか思うような結果を残せていない。この数シーズンで中核を担ってきた比江島慎(宇都宮)や橋本竜馬(北海道)が退団し、外国籍選手もなかなか安定しなかった中で既存戦力の金丸晃輔らも本来のパフォーマンスを発揮しずらい状況にいたこと(とはいってもスタッツ上では素晴らしい成果を残している)が大きな理由だろう。

 

 しかし、今季はどうか。12月9日の広島戦で今季最長の6連勝を記録すると12日から13日にかけて行われた新潟との第13節でも危なげなく連勝。この時点で西地区首位の16勝5敗を記録する圧巻の強さを見せつけている。

 

 好調の要因を鈴木貴美一HCは「練習からしっかりと取り組めていますし、(チームの雰囲気も)良い感じに仕上がってきたので大崩れしなくなってきました。オフェンスのケミストリーは高まっているし、ディフェンスもよくなってきています」と語っている。金丸も「悪いときにみんなでディフェンスを頑張って自分たちの流れが来るまで我慢できています。みんながそういう意識を持ち始めた」と手応え十分な様子だ。

 

 新潟とのゲーム2は前半を終えて42対33と9点のリードを持っていた三河だが、エースの金丸は僅か2点止まり。「金丸選手はスクリーンの使い方が非常にうまいので、本来であればガードがショウディフェンスをするところを少し下がってカールカットを邪魔するように意識させていました。それが前半、金丸選手をうまく守れていた部分」(新潟・福田将吾HC)という新潟の策に苦しんだ。シュートアテンプト自体も4本と、この試合前の時点で平均16得点を残していた金丸としては歯がゆい前半の戦いだったことだろう。

 

新潟も懸命の守りを見せたが、金丸を起点とする三河のオフェンスを止めることはできなかった

 

 しかし後半、三河が本来持っている自慢のオフェンスが火を吹いた。攻めの中心となる金丸をリズムに乗らせるべく鈴木HCは「前半は彼(金丸)がボールを触っていなかったので、彼がボールを触れるシステムを指示しました。金丸がボールを触れていなうちに他の人がアタックせざるを得ない状況が結構あったので、意識して彼がシュートを打っていけるシステムを多めにするように、と」という指示を出したそうで、この采配がピタリ。金丸は3Qだけで3Pシュート3本を含む16得点、4Qの7得点と併せて結局合計25得点を挙げるさすがのパフォーマンスで指揮官の狙いどおりの結果を出したのだ。エースの復調で波に乗ったチームは3Q以降おもしろいようにシュートが決まり出し、後半の20分間で58対36とゲームを掌握。後半のFGは25/39(64.1%)、3Pも7/13(53.8%)と最後まで高確率にショットを決め続けた。

 

 先に金丸がディフェンスから流れを引き寄せると話していたように、バスケットボールはディフェンスのリズムがオフェンスのリズムを生むことが多い競技だが、この日の三河はオフェンスのリズムがすなわちディフェンスのリズムにつながったように映った。その結果が今季最多の100得点であり、チーム全体で記録した30ものアシストだ。

 

 

ケミストリーの熟成と

それを象徴する数字以上の貢献

 

 数字上ではこうしたスタッツが目に留まるが、見えない部分の貢献も忘れてはならない。13日に新潟戦で例を挙げるならば長野誠史の貢献が好例だろう。スタッツは出場7分19秒、6得点、1リバウンド、1アシストだ。この数字だけで判断してしまえば決して目に留まるものではなく、ボックススコアを素読みする程度で終わってしまうものだ。

 

 しかし、この日の長野は拮抗した2Q残り7分30秒の場面でブラインドサイドカットからゴール下でイージーレイアップを沈めると直後の残り5分でも川村卓也からのパスを高橋耕陽にさばき、最後はゴール下で再びパスを受けて自ら加点。この2つの得点は新潟に行きかけた流れをもう一度三河に引き寄せる上で大きな4点となった。

 

短い時間でもこの日の長野のような質の高いプレーが見られる

 

 また、ダバンテ・ガードナーとカイル・コリンズワースもそれぞれ要所でチームをサポートする活躍を見せた。ガードナーは今季平均20.5得点を挙げているがこの試合では僅か8得点だった。しかし、7本のアシストを供給しポイントセンターとして金丸や川村にスペースをもたらした。コリンズワースはこの試合でトリプルダブル(14得点、12リバウンド、12アシスト)とスタッツも光ったが、マッチアップした五十嵐圭や林翔太郎に対しては198cmの長身を生かして積極的にポストアップを仕掛け、ヘルプが来れば外にさばく臨機応変な対応で新潟のディフェンスを困らせた。

 

 それぞれが数字以上のインパクトを残したこの試合は、チーム内で良好なケミストリーが出来上がっている象徴的な一戦と言える。鈴木HCは「選手の入れ替わった中で新潟さんはこれからのチーム。それに比べてウチは先にチームが出来上がっていたので、それが勝因でした」と謙遜するが、裏を返せばそれだけ完成度には自信があるということでもある。

 

 異なる個性を持つコリンズワース、長野、柏木真介、熊谷航という4人の司令塔にウイングには金丸&川村のツイシューターが待ち構え、ベンチからは昨季滋賀で中心選手として活躍した高橋が活力を与える。インサイドにもゲームメイクもこなせる全盛期真っただ中のガードナー、未完の大器シェーファー アヴィ幸樹、バックアップには他クラブならばスターターでもおかしくないシェーン・ウィティングトンが控えているのだから選手層の厚さは言わずもがなである。この並びだけでも強力な三河がケミストリーの面でも成熟しつつあるのだからその破壊力たるや…。

 

コリンズワースの貢献はトリプルダブル以上の価値があった

 

 また、ベンチの雰囲気の良さも目に留まる。味方のハッスルに対してはベンチにいるメンバーが立ち上がり、それを受けてコートに立つ選手たちも生き生きとした表情でプレーしている。キャプテンの根來新之助を筆頭に川村、ガードナー、シェーファーらボーカルリーダー的な役割をこなせる選手と金丸や柏木といった背中で見せる選手がうまく融合したロスターは戦力面以外でもバランスが取れた構成ではないだろうか。

 

 試合後に新潟の佐藤公威が「全員がエネルギーを出さないといけない瞬間もあったし、沈んでしまった瞬間もありました。沈んでいる状況をなくさなければ」と反省の弁を述べていたが、佐藤の言う「沈んでしまった瞬間」というのが、このところの三河には見られない。

 

 もちろん結果が伴っているからというのは大きいだろうが、プレータイムが多い選手、少ない選手にかかわらず明るく振る舞い、味方のワンプレーを自分のことのように喜べる雰囲気は優勝を狙うチームには欠かせない要素と言えよう。こういった雰囲気だからこそ、自己犠牲をいとわないスタッツ度外視の貢献も多いというわけだ。

 

 これで三河は4試合連続で20点差以上の快勝、5試合連続のベンチ入りメンバー全員出場となった。クラブとしては16年の天皇杯優勝が直近で獲得した最後のタイトルだ。そこから早5シーズン。“冬眠”というには短すぎる冬かもしれないが、今季は名門・三河の目覚めのシーズンとなるかもしれない。

 

文/堀内涼(月刊バスケットボール)

写真/©︎B.LEAGUE

 



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