月刊バスケットボール6月号

NBA

2021.12.27

渡邊雄太今シーズン初先発、キャリアハイ&ゲームハイのダブルダブルもラプターズは大敗

 日本時間12月27日(北米時間26日)に、トロント・ラプターズがクリーブランド・キャバリアーズと対戦。渡邊雄太が今シーズン初めてスターターとして出場し、26得点に13リバウンド、さらにはアシスト、スティール、ブロックも1本ずつ記録した。特殊な状況下で行われたこの試合で、チームは99-144と大敗を喫してしまったが、その中でキャリアハイの37分10秒プレーした渡邊は得点、リバウンドともキャリアハイかつこの試合でのゲームハイ。ダブルダブルは3試合前の対サクラメント・キングス戦以来キャリア2度目となる。

 

特殊な状況下の非常に難しい試合でレベルの高さを示す


この日のラプターズは、通常のスターター全員を含む12人(そのうち10人がコロナ関連の安全衛生プロトコル適用下)を欠いており、登録メンバーが8人のみ。しかもレギュラーロスターのメンバーは渡邊、クリス・ブーシェイ、スビ・ミハイリュク、ダラノ・バントンの4人のみで、ほかの4人(D.J.ウィルソン、ジュワン・モーガン、トレモント・ウォーターズ、ダニエル・オトゥル)はいずれも、欠員が多発した際に緊急補充を可能にするハードシップ・エクセンプションで、急場をしのぐために獲得したGリーグのプレーヤーだ。


一方のキャバリアーズにも安全衛生プロトコル下の7人を含め9人が欠場していたが、主力がほぼそろっていた。


試合前のニック・ナースHCの会見でのコメントによれば、新加入の4人中ナースHC自身が知っていたのは2人だけ。ティップオフ約1時間半前の会見を終えた後に、インバウンドプレーやディフェンスの細かな点を伝える時間を取らなければいけないほど、まさしく“急造チーム”だった。また、レギュラーメンバーの4人も、日本時間12月19日(北米時間18日)の対ゴールデンステイト・ウォリアーズ戦以来、まったくチーム活動ができていない状態とのことだった。


そのような状況で迎えた試合で、渡邊は第1Qから期待に応え、クォーターの残り1分38秒に交代するまでに9得点、4リバウンドを記録。チームとしてもこの時点では33-29とリードしていた。


しかしここまで19勝14敗と勝ち越しているキャバリアーズは、急造チームで楽々対応できるほど甘くない。第2Q残り10分38秒に再び渡邊がコートに戻った時点では、ラプターズは35-41と6点を追う立場となっており、ハーフタイムまでに55-72とさらに突き放されてしまった。渡邊個人は前半だけでも13得点、7リバウンドを記録したが、チームとしての傷口をふさぐには至らなかった。


後半もラプターズは良い波に乗ることはできなかった。第3Qのスタートでは、残り10分37秒に渡邊のアシストでブーシェイが3Pショットを沈めた以外は約4分半にわたって防戦一方。あっという間にスコアは58-92と大差の展開となった。第4Qも、キャバリアーズが身長228cmの超大型ビッグマン、タッコ・フォールを投入したことで地元クリーブランドのファンが盛り上がる中、さらに点差が開いていった。最終的な45点差は、ラプターズにとって歴代2番目に大きな点差での黒星とのことだ。


NBAにおけるキャリアハイ、ゲームハイ、ダブルダブルという成績は、どんな試合でも、誰にとっても非常に難しいことだ。しかもフィールドゴール成功率は55.0%(20本中11本成功)、3P成功率も40.0%(5本中2本)と高く、ゴール下でコンタクトを受けながらのフィニッシュや、ドライブから柔らかいリリースで流し込むフローター、前述のビッグマンフォールをかわして決めたドライビング・レイアップなど、この試合での渡邊は好プレーを随所で見せていた。ディフェンス面では、記録に現れたスティールやブロックの他にも、ドライブしてくる相手のコースに立ちはだかって阻止したり、3Pショットにクローズアウトしてブレさせるような場面も多々あった。

 

試合後会見での渡邊は個人としての好記録を喜ぶことなく、大差の敗戦に対する悔しさをにじませるコメントをしていた

 

 それでも試合後のズーム会見での渡邊に、喜んでいるような様子はまったくなかった。特殊な状況下ではあるものの、前回のダブルダブル以上にインパクトの感じられる数字をどう思うかを尋ねても、「何とも…、正直思わないです。こういう状況はしかたないんですけど、負け方も負け方ですし」と悔しさの方が先に言葉として出てくる。「数字だけ見たらいい数字だと思いますけど、さすがに45点差の負け試合でダブルダブルとっても、正直全然うれしくないですね」

 

直近4試合は平均11.0得点、8.0リバウンド


新加入の4人のほとんどとは、会場へのバスで初めて顔を合わせたそうだ。その中の一人であるD.J.ウィルソンは、2年間ほど前から渡邊を知っているとのことで、夏場は渡邊と一緒にワークアウトをし、トレーナーも同じだったという。ウィルソンは「コートに出たらハードに自分のプレーをすればいいから。お互いに助け合っていこう。この状況ではそれ以外にできることはないからね」と渡邊から言葉をかけられたことも教えてくれた。

 

この試合で15得点、8リバウンドを挙げたD.J.ウィルソンは、試合前渡邊から「お互いに助け合っていこう」と声をかけられたと話していた


渡邊は「新しく来た4人の選手とも本当に試合の直前に会って、自分たちの自己紹介をしあって。すごく難しい試合でしたし、言いたいこと、思うことはたくさんありますけど…」と複雑な思いを抱いている様子だ。個人的にジムでシューティングする以外には何もできなかった8日間を経た後の試合で、「とりあえず久々にバスケットボールができて良かったかなとは思います」と話していた。


この日のパフォーマンスに対する渡邊自身の悔しさいっぱいの捉え方は、最高峰で活躍するプレーヤーとして当然のことなのかもしれない。しかし一方で、この日だけでなく直近4試合での渡邊の平均11.0得点、8.0リバウンドという数字を客観的に見れば、高く評価すべきものであることは明らかだ。渡邊はこの4試合で、この2項目のほかにも1.5アシスト、1.2ブロック、0.8スティール、フィールドゴール成功率51.2%(43本中22本成功)、3P成功率38.9%(18本中7本成功)、フリースロー成功率60.0%(10本中6本成功)と結果を出している(3Pショットとフリースローはさらに上昇させたいだろうが)。

 

 ナースHCも「今日は簡単な試合ではありませんでしたが、彼は奮闘してタフなプレーを成功させていました。ハードなプレーをし続けてリバウンドも獲ってくれましたね」と渡邊のプレーを高く評価していた。「ローテーションの大きな役割を担う存在(big part of our rotation)」とも話し、戦力としての渡邊に対する自信をさらに深めた様子だった。

 

ニック・ナースHCは渡邊に、攻守両面で幅広い貢献をもたらす渡邊を高く評価していた

取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



PICK UP