月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.10.13

カイリー・アービング(ブルックリン・ネッツ)、2021-22シーズンの活躍に危機

 新型コロナウイルスワクチン接種を拒絶しているカイリー・アービングに関し、所属のブルックリン・ネッツでGMを務めるショーン・マークス氏が難しい決断を発表した。北米東部時間10月12日付の声明で、チームのスーパースタの一人であるガードのカイリー・アービングについて、練習・試合への参加を禁じることを発表したのだ。


ネッツの本拠地ブルックリンが位置するニューヨーク市は、プロスポーツに従事する人々にワクチン接種を義務付けている。そのため、ホームアリーナであるバークレイズ・センターでプレーするにもワクチン接種が必要となり、それに応じないアービングは、このままではホームで行われる41試合すべてを欠場しなければならないことになってしまう。同様の条件となる都市はニューヨーク市だけではなく、ワクチン接種を済ませていないプレーヤーは、誰であれ出場機会が削られてしまうことになる。マークスGMの決断は、そうした社会環境的な制限下での苦渋の決断と言える。声明の内容は以下のとおりだ。


「現在置かれている状況の特質を鑑み、深く審議を重ねた結果我々は、カイリー・アービングについては完全に活動参加が可能な立場となるまで、チームでプレーも練習も行わないという決断をいたしました。カイリーは個人としてその形を選び、我々はその選択を尊重します。現在、その選択のために彼はフルタイムでチーム活動に参加できない状況である一方、我々はチームの誰にもパートタイムでの参加を認めることはできません。チームとしてケミストリーを育み続け、これまで長年培ってきた一丸と犠牲という価値観に真摯に向き合っていくことが必要不可欠です。我々の、今シーズンにおけるチャンピオンシップ獲得という目標は変わりませんし、その達成に向けて組織内の全員が同じ方向に向かわなければなりません。シーズン開幕を楽しみにしており、ブルックリン・ボローの皆さんが誇りに思えるような成功を今シーズン収めることを期待しております」
“Given the evolving nature of the situation and after thorough deliberation, we have decided Kyrie Irving will not play or practice with the team until he is eligible to be a full participant. Kyrie has made a personal choice, and we respect his individual right to choose. Currently the choice restricts his ability to be a full-time member of the team, and we will not permit any member of our team to participate with part-time availability. It is imperative that we continue to build chemistry as a team and remain true to our long-established values of togetherness and sacrifice. Our championship goals for the season have not changed, and to achieve these goals each member of our organization must pull in the same direction. We are excited for the start of the season and look forward to a successful campaign that will make the borough of Brooklyn proud.”


NBAプレーヤーのワクチン接種に関しては、昨シーズン中から大きな議論になっている。ニューヨーク市同様に、大規模イベントに参加する人々にワクチン接種を義務付けたサンフランシスコ市を本拠地とするゴールデンテイト・ウォリアーズでは、アンドリュー・ウィギンズが宗教的信条を理由にワクチン接種を拒絶していた。ウィギンズはNBAに対し、ワクチン接種の義務免除を打診したがリーグ側はこれを拒否。ウィギンズはその後、ワクチンを接種してチーム活動に参加している。


ワシントン・ウィザーズのブラッドリー・ビールもワクチン接種を拒否しているプレーヤーの一人だ。ただしホームゲーム出場には問題がなく、アービングのケースとは影響の強さが違っているかもしれない。


NBAは所属プレーヤーのワクチン接種比率を公式には発表していない。しかし、リーグ公式サイトに9月30日付で公開したAP通信社の記事によれば、少なくとも1度ワクチン接種を受けたプレーヤーは全体の約95%に上るという。


多くの犠牲者が出ているパンデミック下、人種や社会的立場により感染率や死亡率に大きな差があるアメリカで、ロールモデルたるNBAのトッププレーヤーやレジェンドたちがワクチン接種に対する意見を公にすることには、大きな社会的影響が伴う。個々の自由意思によるワクチン接種を尊重する一方、社会として感染のリスクを最小限に抑えるため、何が正しく、何が正しくないのかは簡単に判断ができないが、良い方向に事が運ぶよう願うばかりだ。


アービングは、公共の場ではないネッツの練習場での練習は認められていると言い、個別のトレーニングは可能なようだ。スティーブ・ナッシュHCは、「明日どうなるかもわかりません。時間をかけて、今回の出来事にどんな意味があるのか、見出していきたいと思っています」と話している。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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