月刊バスケットボール5月号

女子バスケットボール日本代表新指揮官、恩塚 亨の情熱

 9月27日からアンマン(ヨルダン)で開催されるFIBA女子アジアカップ2021で、女子バスケットボール日本代表チームをヘッドコーチとして率いる恩塚 亨氏。当初は同大会に関してのみのヘッドコーチ登録発表だったが、9月22日には公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)が、それ以降を含め正式に、それまでのトム・ホーバス氏からチームを引き継ぐ就任発表会見を行った(同時にホーバス氏の男子日本代表ヘッドコーチ就任も発表された)。

 

 大役を引き受けるにあたり、恩塚HCは堂々決意を語った。その言葉には、5連覇のかかった同大会、来年シドニー(オーストラリア)で開催されるFIBA女子ワールドカップ2022、そして2024年のパリオリンピックという直近の大舞台を視野に入れたチーム作りのコンセプトだけではなく、バスケットボールの存在意義や、それに取り組む人々の価値を包み込むような情熱が込められていた。

 

 就任会見で恩塚氏が残した初心表明の言葉を全文、以下にまとめる。

 

東京医療保健大学をのヘッドコーチを務める恩塚氏は。来春までは大学と代表ヘッドコーチを兼務するが、以降は代表に専念することも発表された

 

選手やチームの命を輝かせ、バスケットボール界に夢を残すことが目的

 

 これまでの代表チームやバスケットボール界の皆様に、深い敬意と感謝の気持ちを胸に抱いています。その気持ちを胸に、選手やチームの命を輝かせることを私の仕事の目的として職務に臨みたいと考えています。


目標はパリオリンピックで金メダルを獲得することです。金メダルを獲得して皆様と喜びを分かち合いたいと思っています。そのために世界一のアジリティーを追求して、身長の高さをアジリティーの高さで凌駕したいと考えています。アジリティーとはネクストプレーの速さや適応力のことです。原則の遂行とワクワクがカギです。瞬間瞬間の勝負で先手を取り、チームが躍動感を持ってシンクロするバスケットボールを目指しています。


このチームの強化の肝は目的の設定にあると考えています。目的は、バスケットボール界に夢を残すことです。夢を残すこととは、私たちの挑戦を見た方々が、「私も頑張りたい」と夢を抱けるようになることを意味します。私たちはそのために、バスケットボール界のロールモデルになりたいと考えています。この挑戦が、選手の本当の力、本当に強い力を引き出せると私は信じています。


自分の頑張りが誰かの夢につながる、夢を残すことにつながる、と信じている人間の方が、自分の夢だけを追う人間よりも私は強いと信じているからです。


この目的実現のカギを3つ考えています。

 

 選手もスタッフも、なりたい自分、理想の自分へ向かいます。私は15年間代表チームにかかわってきて、自分に自信を持てない選手を何人も見てきました。「私なんて…」という言葉もたくさん耳にしました。代表選手であっても自信を持てないのです。


きっと、バスケットボール界全体を見渡したときに、もっと多くの割合でこのような方がいらっしゃるのではないかなと思っています。だからこそなりたい自分、理想を語る人が増えるように、まずは私たちが理想を語っていきたいと考えています。


そして、理想を語り始めた人に、「いいね! 君ならできる」と応援できるような、そんなバスケットボール界にしていきたいと考えています。


次に、夢を抱いて全力を尽くす考え方を大切にしたいと考えています。数年前まで私は高圧的なコーチでした。人は厳しくしないと頑張らないと思っていたからです。結果を出そうとして、私はいつしか寂しい人間観になっていたと思います。


たくさんの学びで気づくことができました。人は夢を心に抱いて、効果的なやり方を理解して、自信があれば、全力を尽くせる存在である。選手やスタッフが夢を抱いて全力を尽くせるように誠実に向き合い、相手を信頼し、尊重する言葉で成長へと導いていきたいと考えています。


3つ目は、選手が自信を持って判断するバスケットボールの追求です。ナンバープレーでロボットのように選手が動くのでもなく、フリーで選手が混乱することもないバスケットボールのやり方を追求します。そのためのカギを「原則」としています。原則を生かして、瞬時に5人が自信を持って判断してシンクロできるようになることを目指します。


選手自身が自分でバスケットボールをしている。そういう感覚を大切にしたいと思っています。


この3つの理想を追求したいと考えています。代表チームは結果がすべてということは理解していますし、最重要課題だと考えています。だからこそ代表チームという重責の中で、それでも理想を語り、理想に向かおうと生きること、挑戦することができたら、夢を残せるのではないかと考えています。


私たちの金メダルへの挑戦によって、「私も夢を抱いて挑戦したい」と思う人が増えて、そんな人であふれるバスケットボール界になっていたとしたら、私たちの目標も目的も、どちらも達成できると信じています。ワクワクがあふれるバスケットボール界に、皆様とともに向かっていけたらと思っています。


皆様にはご理解とご協力を、心からお願い申し上げます。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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