月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.08.23

8.23 - コービー・ブライアントの誕生日

 2021年8月23日(月)は、NBAのロサンゼルス・レイカーズで20年間活躍したレジェンド、コービー・ブライアントの43回目の誕生日だ。ブライアントの出身地であるペンシルバニア州フィラデルフィアは、日本とマイナス13時間の時差があるので、“正式には”日本時間の午後1時を過ぎるとブライアントの誕生日となる。

 

Portrait of Kobe Bryant (Illustration by YU)

 

 ブライアントは昨年1月26日のヘリコプター事故により次女ジアナとともにこの世をあとにした。いまだにその衝撃の悲報に触れるのは簡単ではないという人も多いようだ。

 

 一方で、「あの日」に向けられた感情とは裏腹な人々の思いが、日々さまざまななところから強烈に伝わってくる。忘れられない。忘れたくない。思い出そうとする必要さえないほど、毎日のようにブライアントのエキサイティングなハイライト映像がソーシャルメディアから飛び込んでくる。

 

 もしも東京オリンピックでブライアントが来日していたら、開催国代表の日本の戦いぶりにも注目してくれたのではないかと思う。そうでなくとも「神戸」が自身の名前の由来となっていたり、父親が日本でコーチングにあたっていた事実などから、日本にゆかりのある人物だ。男子で同じ背番号8、同じ背番号24を背負って戦った八村 塁、田中大貴のプレーにどんな反応をしただろうか。

 

 アルゼンチン代表に敗れて涙を溢れさせた渡邊雄太に、どんなふうに声をかけただろう。

 

 オリンピック記録となる一試合18アシストを記録した女子の町田瑠唯のパフォーマンスや、ブライアントと同じ背番号8をつけた高田真希が、身長で20cm近くも大きなブリトニー・グライナーの頭越しにレイアップを決めるシーンを見て、「ぜひジアナに教えに来てほしい」と言ったんじゃないだろうか。

 

 歴史的なクラッチ逆転スリーを沈めた林 咲希には、「君はまるで現役時代の私のようだね」とハイファイブを求めたかもしれない。3×3で2度にわたってKO弾を決め、日本に勝利をもたらした富永啓生とすれ違う機会があったら、「日本にもブラックマンバがいるとは思わなかったよ」と笑顔を見せ、今頃はそのセルフィーが全世界に発信されていたと思う。

 

 銀メダルを獲得した女子日本代表の一丸となったプレーを、ブライアントと親交が深かった女子アメリカ代表のダイアナ・タラシは「日本が女子バスケの世界を面白くしてくれた」と称賛した。ブライアントなら何とコメントしただろう。「バスケはこうやってプレーするものだというお手本です」と言っただろうか...。

 

 日本のバスケットボールに対して、きっと何か力になる言葉を残してくれただろう。勝手な想像がそんな方向に膨らんでいく。

 

 今日はブライアントの誕生日であり、明日8月24日は、ブライアントが現役時代に背負った二つの背番号が重なる日、「Mamba Day」だ。今年はそれが奇しくも、東京2020パラリンピック競技大会開幕の日に重なっている。その舞台に登場する車いすバスケットボール・プレーヤーたち、ひいてはすべてのパラリンピアンたちにも、激励の言葉をくれたかもしれない。

 

 ブライアントが家族とともに暮らしていたカリフォルニア州オレンジカウンティでは、昨年からこの8月24日を正式に「コービー・ブライアントの日」としている。意味合いとしては、地域社会や次世代への支援に積極的だったブライアントに思いを馳せて、コミュニティに恩返ししようと呼びかける日だという。また、その制定を積極的に推し進めた現米下院議員のミシェル・スティール氏は、今年7月、この日を全米においても「コービー・ブライアントの日」とする決議案を下院に提出した。

 

 2003年に婦女暴行スキャンダルで世間を騒がせたブライアントの名を記念する日を制定することについて、すでに事件としては解決しているとはいえ、すべての人々が賛同しているわけではない。実際に採択されるのかどうか、現時点ではまだ確認できてもいない。

 

 しかし、ブライアントのそうした過ちも胸に留めた上で、その功績を振り返り、小さな親切や善行をしようとする行為は、この日が法的に特別な日であるかどうかと関係ない。今日も明日も、その後の日々もその人しだいだ。君はどうするのか、と問いかけるかのように、今日もブライアントの豪快なダンクがソーシャルメディアに踊っている。

 

Kobe and Gigi smiling (Illustration by YU)

 

It's the magic within each of us that gives us the potential to inspire the world.

- Kobe Bryant(1978.8.23-2020.1.26)

私たち自身の中にある魔法の力こそが、世界を動かす可能性をもたらしてくれるものなんだ。

 

イラスト/バスケ好き絵描きYU(作品は『YUの訪問先』で)

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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