月刊バスケットボール8月号

大学

2022.08.18

筑波大男子バスケットボール部のホームゲームは「毎試合が学園祭」の可能性を感じさせるイベントだった - TSUKUBA LIVE!レポート

 8月7日に筑波大キャンパス内の中央体育館で行われた同大男子バスケットボール部のホームゲーム「TSUKUBA LIVE!」は、これまで日本で行われてきた大学バスケットボールの多くのホームゲームとは異なる趣向で開催され、大いに盛り上がった。対戦相手は伝統的なライバル関係にある日本体大。バスケットボールだけでなく水球でも、両校は同日に対戦を組んでいた。コロナ感染拡大を受け来場者を学内関係者(筑波大の学生と教職員)のみに限定したこともあってか、場内は独特の熱気とホーム感に包まれた。試合はライバル校に対する69-79の逆転負けで終わったので、“ホーム・クラウド”にとって最高の結果ではなかったかもしれないが、母校のキャンパス内で間近に見る伝統の一戦に来場者たちは沸いていた。

 


筑波大は試合には敗れたが、イベントとしてのTSUKUBA LIVE!は学生たちの熱気にあふれ成功裏に終わった

 


水球部と試合を盛り上げたパフォーマーも含めた全員での記念写真(写真©筑波大学アスレチックデパートメント)

 

盛り上がった母校キャンパスでのホームゲーム

 

 このイベントは、筑波大が大学スポーツの価値向上のフロントランナーとなるべく2018年に誕生させたアスレチックデパートメント(以下筑波大AD)が音頭を取り、同大の学生たちを巻き込んで推進しているムーブメントだ。本来は今年の3月26日に、茨城ロボッツのホームゲームとタイアップする形で開催する予定だったが、学内でのコロナ感染拡大の影響で直前に延期となり、今回はその“リベンジ開催”。それだけに関係者の意欲も高かった。


筑波大ADは、アメリカのNCAAに所属する大学が行っているようなホームゲームを目指しており、この日の運営もその指向が反映されていた。来場者にはドレスコードの形で「白コーデ」が呼びかけられ、場内を埋めた約300人の観衆の多くが白いシャツやパンツを取り入れたルックスでコートを囲んでいた。メンバー紹介は、筑波大のときは照明を落とし盛大に進め、日本体大の紹介はシンプルに名前を読み上げるだけという、「ホームゲームあるある」の進行。来場者全員が持ち帰ることができるオリジナル応援グッズ(ハリセンとTシャツ)も用意され、開場前には座席に置かれていた。

 


こちらのシートを畳むと応援グッズのハリセンのできあがり

 


当日を迎えるまでの数日間は、バスケットボール部をはじめとした学内の参加団体がソーシャルメディアを使ってカウントダウンを行った。これまでバスケットボール部の活動を見たことがなかった人も応援を楽しめるようにと、簡単な質問に答えるだけで自分と相性が合う筑波大のプレーヤーを自動で見つけてくれる「推し選手診断」というオンライン企画も用意されていた。

 

「推し選手診断」当日用ページ

 

 場内を盛り上げるバイリンガルのMCやメディア対応をするスタッフなど、運営の多くの部分は大人の力を借りながら学生が進め、コート上ではハーフタイムなどインターバルの時間に、学生たちによるパフォーマンスが来場者を楽しませた。それらの要素が混ざり合った場内は、NCAA的な学園祭とも形容できそうな雰囲気があった。ゆくゆく開催頻度が増えていけば、ホームゲームは毎試合がバスケットボールをフィーチャーした学園祭。そんな可能性を感じさせる雰囲気があった。

 

浸透するホーム&アウェイの文化

 

 自らの学内にあるホームコートで、身近な友人や同じ大学の名前を背負った同志たちの応援を感じながらプレーすることの意義の大きさは、出場した両チーム関係者の試合後コメントからも感じられる。筑波大の吉田健司HCは、「今までのリーグ戦のホームゲームと違い、演出なども含め筑波大関係者みんなで作り上げている感じがして、学長も来られている中でゲームをさせてもらっているというのがいいなぁと。筑波大がスポーツで元気を出そうと学内・学外に発信する第1回目として、良かったと思います」とこのイベントの価値を実感していた様子だ。「施設の限度もありますが、学内で開催することで学生たちの愛校心がはぐくまれるようなこともあると思います」

 


吉田健司HC


キャプテンの中田嵩基は1年生時に、つくば市内にあるつくばカピオでのホームゲームを体験済み。しかし学内でのホームゲームは初めてで、かつコロナ禍を経験した2・3年次は観客の前でプレーすること自体がなかった。それだけに「4年生になって初めてこういう試みができ、無観客でやっていた状態とは違う気持ちの高まりが久々にあったかなと思います。近しい人がいる中で、勝ちたかったですね!」という言葉からは、負けた悔しさだけでなくTSUKUBA LIVE!の雰囲気を楽しんでいたことも感じられた。

 


中田嵩基キャプテン


「この作り、運営を含めてすばらしかった」と話したのは対戦相手の日本体大、藤田将弘HC。「このような場所でできたことを筑波大の皆さんに感謝します。良い参考例として、我々の大学でもぜひやりたいです。大学バスケットボールにはどんどんホーム&アウェイでやっていく構想があり、今日のホームゲームは一つの参考になります」とホームゲーム文化の浸透・拡大に向けた意欲も語っていた。

 


アウェイチームとして参加した日本体大の藤田将弘HC

 


これまでバスケットボールに縁のなかった学生たちまでが、一つ一つのプレーに「やったぁ~!」「ああぁ、残念」とマスクの中でつぶやく声が聞こえてきたり、学内の仲間たちの視線を感じながら自らを表現するパフォーマンスに取り組んだ学生たちのいきいきとした姿は非常に印象的だった。「筑波大に来てよかったな」と自分自身を誇りに感じられる瞬間を、関わった一人一人が感じていたのではないだろうか。

 

 


試合前後はハーフタイムなどのインターバルには学生たちがさまざまなパフォーマンスで場内を盛り上げた


敗れた筑波大バスケットボール部は、結果を残念に受け止めたと同時に、学内の試合で二度と負けたくないとも感じたことだろう。筑波大ADは秋のリーグ戦でもホームゲーム招致を予定している。そのときには、仲間にもっと喜んでもらえるようにと気合が入ったに違いない。


ホームチームを破って帰路についた日本体大にしても、敵地で白星をつかんだ自分たちを誇らしく感じただろう。仮に負けていたらどうなのかといえば、「次にはこのコートで、この状況を跳ね返して絶対に勝ってやるぞ」と士気を高める要素になったと推察する。


ポジティブな要素が数々見つかったTSUKUBA LIVE!とホームゲーム推進。大学バスケットボールはあらたな発展の局面を迎えている。

 

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