月刊バスケットボール6月号

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2022.08.05

アメリカ代表、ブリトニー・グライナーにロシア法廷が禁固9年の判決

 ロシアで違法薬物持ち込みの嫌疑をかけられ拘留されていたバスケットボールの女子アメリカ代表、ブリトニー・グライナーに関して、8月4日にロシア法廷が9年間の禁固刑を宣告した。アメリカのジョー・バイデン政権が、人質交換によるグライナー(および2018年にスパイ容疑で逮捕されたポール・ウィーラン)の開放を提案したとされている中での、非常に厳しい判決だった。

 


この判決を受け、バイデン大統領、NBAとWNBAの両コミッショナー、グライナーが所属するWNBAのフェニックス・マーキュリーが相次いで声明を発信している。また、この日のマーキュリーとコネティカット・サンとの対戦では、試合前にグライナーの背番号にちなんで42秒間、両チームがセンターサークルで肩を組み黙とうする「Moment of solidarity(結束の時)」も行われた。試合後の会見では、グライナーのチームメイトでアメリカ代表として東京2020オリンピックでともに金メダルを獲得したガードのスカイラー・ディギンズ-スミスが、涙ぐみ声を震わせながらグライナーへの厳しい判決について語る場面もあった。

 

ジョー・バイデン大統領の声明
本日、アメリカ国民であるブリトニー・グライナーが禁固刑の判決を受け、いま一度、世界がすでに知っているロシアによるブリトニーの不当勾留への思いを強めています。これは受け入れられませんし、ロシアに対して即座に彼女を開放し、彼女が奥さんや愛する人々、友人、チームメイトとともに暮らせるよう求めます。私の政権は忍耐強く働き続け、ブリトニーとポール・ウィーランを安全にできるだけ早く帰国させることができるよう、可能性のあるすべての道筋を求めていきます。
原文リンク(ホワイトハウス公式サイト)



アダム・シルバーNBAコミッショナーとキャシー・エンゲルバートWNBAコミッショナーの声明
本日の評決と判決は不当であり残念ですが、予測されていなかったことでもありませんし、ブリトニー・グライナーの不当勾留は以前からのことです。WNBAとNBAの、彼女の安全な帰国に向けた決意が揺るぐことはありませんし、いよいよBG(グライナーの愛称)を母国たる合衆国に取り戻す過程の終わりに近づいているということに希望を持っています。

原文リンク(NBA公式サイト)


フェニックス・マーキュリーの声明
今回の法的な過程でわが友(グライナー)を取り戻せないことはわかっていた一方で、今日の評決により我々の姉妹であるBGが168日に及ぶ悪夢を耐え続けているのだということに思いを改めています。

 これまでの6ヵ月間と変わらず胸が痛みます。
彼女を家族と我々の元に取り戻そうと公務に従事されている方々の日々のご尽力に感謝し、また心強く思っております。
関係陣営が真摯に取り組み、不当勾留を終わらせてくれることを信じております。
BGの力強さは日々我々の元気の素になっており、彼女がアメリカの地に安全に戻ってくるまで、我々は断固として公の場で彼女について触れていく決意です。
原文リンク(チーム公式ツイッターアカウント)

 

 グライナーは今年2月に、WNBAのオフシーズンに所属していたロシアのUMMCエカテリンブルクに合流するためロシア入国を試みた際、所持品の中にロシアでは違法とされている大麻があったことにより拘束され、以来自由を奪われている。ただし大麻は、アメリカでのグライナーの居住地であるアリゾナ州では一定条件化で一般人が入手・使用できるものであり、グライナーのケースは日本で一般的に想像されるような悪質な違法薬物所持・使用とは異なる状況と捉えることができる。グライナーは誤って所持品に薬物を含めてしまったことを認めており、ロシアの法律を犯す意図がなかったことも明確にしていた。これまでに7年間ロシアでプレーし、問題を起こすことなく同国のバスケットボール界を盛り上げた実績も持っている。それだけに、異国で9年間の禁固刑を受けた結果には不運な側面がある。


グライナーは豪快なスラムダンクでも知られる身長206cmのビッグセンターで、WNBAにおいて最大のエンタテインメントを提供するタレントの一人だ。最悪、バイデン政権の動きが実を結ばないようなことになれば、現在31歳のグライナーにとってキャリア継続の危機であることが明白であるだけではなく、バスケットボール界全体にとって大きな損失となる。

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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