月刊バスケットボール5月号

男子バスケ日本代表 - 「魔の時間帯」を阻止する決定力に期待

共同キャプテンの一人として渡邊はチームを鼓舞するプレーを見せている。アルゼンチン代表を相手に勝利を手にすることができるか?(写真/©fiba.basketball)


東京オリンピック男子バスケットボールの日本代表が、8月1日に決勝トーナメント進出をかけてFIBAランキング世界4位のアルゼンチン代表と対戦する。

 

 7月31日までの日程を終え、グループAではアメリカ代表がチェコ代表を119-84で破ったことで、チェコ(1勝2敗、得失点差-49)の3位が確定。また、グループBではドイツ代表(1勝2敗、得失点差-16)の3位が確定している。残るグループCは、アルゼンチン代表(2敗、得失点差-28)と日本代表(2敗、得失点差-46)が3位の座を争う形となった。

 

 決勝トーナメントに進出できるのは、各グループの上位2位までの6チームに、3位となる3チームのうち成績上位の2チームを加えた8チーム。7月31日までの試合を終えた段階で、各グループ3位(および3位となる可能性のあるチーム)の中で得失点差が最も小さいドイツ代表は、すでに決勝トーナメント進出を確定している。また、得失点差が最大のチェコ代表は脱落が確定した。つまり、アルゼンチン代表と日本代表の勝った方のチームが勝ち上がることになる。


希望を感じさせる2試合の経過


日本代表はここまでの2試合で、世界4位の相手でも十分戦えるだろうことを感じさせる戦いぶりを見せた。FIBAワールドカップ2019で優勝し、現時点で世界王者の称号を持つスペイン代表に挑戦した初戦は、第2Q残り5分35秒に八村 塁(ワシントン・ウィザーズ)が3Pショットを決めた時点で26-26。第4Q残り1分を切ってからも、馬場雄大(メルボルン・ユナイテッド)と渡邊雄太(トロント・ラプターズ)のしつこいディフェンスでボールを奪い、速攻で馬場がレイアップを決め77-86と9点差に追いすがった。最終スコア77-88がどれだけ世界を驚かせたかはわからないが、侮れないチームであることは示せただろう。


八村が3Pショット4本を含む20得点、渡邊は19得点に8リバウンド、3アシスト、5スティール。この二人だけでなく、コートに立った全員が持ち味を発揮した日本代表は、相手の背中が見える状態でフィニッシュした。

 

 続くスロベニア代表との試合は81-116と35点差をつけられた。特に第4Qに、相手の3Pシューティングが爆発し、止められなかった。


ただ、オリンピック予選以来絶好調で金メダルの有力候補と見られるスロベニア代表相手のこの結果は、あまり気にする必要はない。アルゼンチン代表も100-118で敗れており、しかも第3Qには一時30点差をつけられていた。


スロベニア代表は、オリンピック予選以降の6試合のうち4試合で100点以上、全試合で90点以上を記録している。逆に80点以上を奪われたのは予選決勝のリトアニア代表(85)、今大会初戦のアルゼンチン代表(100)、そして日本代表の3チームだけ。日本代表は一定以上の抵抗力を見せたと言ってもよいと思う。

ドンチッチはアルゼンチン代表との試合でオリンピックの歴代2位に当たる48得点を記録し、チームを快勝に導いた(写真/©fiba.basketball)

 

 八村はこのスロベニア代表に対し34得点に7リバウンド、3アシスト(どちらもチームハイ・タイ)、さらにスティールとブロックが1本ずつ。渡邊も17得点、八村に並ぶ7リバウンドにアシストとブロック2本ずつを記録した。

 

 また、この試合でもNBAの1-2パンチ以外のメンバーが闘志を感じさせるプレーを見せた。10得点の比江島 慎(宇都宮ブレックス)のシャープ・シューティング(比江島は3リバウンド、1アシスト、2ブロックも記録)は光っていたし、81点目を含む8得点のほか1リバウンド、2アシスト、1スティールの富樫勇樹(千葉ジェッツ)も相手のディフェンスを揺さぶっていた。

 

 第4Q半ばまでは、日本代表は逆転勝利の射程圏内で相手の背中を見ながら追走。2連敗を喫したとはいえ、どちらも金メダル候補に相当粘れた。しかしアルゼンチン代表との決戦には、健闘ではなく必勝を期したい。それにはこの2試合のどちらにも味わわされた「魔の時間帯」を回避することが必要だ。

 

対スペイン代表戦――第2Q「魔の3分31秒」

 

 スペイン代表との勝負を決定づけたのは、第2Q半ばからの「魔の3分31秒」だ。八村の同点3Pショットで26-26とした最高の流れの後、それがやってきた。

 

 スペイン代表の27・28点目は残り4分55秒に、エドワーズ ギャビンがアンスポーツマンライク・ファウルを取られ、マルク・ガソルがフリースロー2本を決めるという形でもたらされた。ここから3分31秒の間にスペインは19連続得点で一気に試合の流れを持っていったのだ。

 

 マルク・ガソルのフリースローに続いてボールはスペイン代表が保持。このオフェンスでリッキー・ルビオが日本代表のゾーンディフェンスを3Pショットで攻略し5点差。続く日本代表のオフェンスで富樫のワイドオープンの3Pショットが失敗に終わる一方、スペイン代表はセルヒオ・ユールの3Pショットがゴールを捉え8点差。流れを変えたい日本代表はタイムアウトを取り、田中大貴(アルバルク東京)を投入する。


タイムアウト明け、日本代表のオフェンスで田中のランニング・フローターがミスに終わると、リバウンドをつかんだルビオが速攻でビクトル・クラベールのダンクをおぜん立てし26-36。この時点で残り時間は3分31秒。ゲームクロック上は1分半かからず10点突き放されてしまった。


さらに馬場雄大とエドワーズのピック&ロールがターンオーバーで終わった後、パウ・ガソルがゴール下でルビオのパスから得点し12点差。渡邊の3Pショットがミスとなった後、アレックス・アブリネスがワイドオープンの3Pショットを決め15点差。八村の3Pショットはミスとなり、その返しでルビオがミドルジャンパーを決め17点差。田中がペイントアタックからオープンルックのミドルジャンパーを決められず、逆にルビオにミドルジャンパーを沈められ26-45。この時点で残り1分24秒。


この3分31秒間、スペイン代表は1本もミスショットがない。ルビオはこの時間帯だけで7得点に3アシスト、フィールドゴール3本(3Pショット1本)すべてが成功だった。

 

 八村の豪快なダンクが残り1分2秒に決まり、スペイン代表の連続得点を止めた。しかしこのランが試合のトーンを完全に決めてしまった。

 

スペインの19連続得点をストップさせた八村のダンク(写真/©fiba/basketball)

 


対スロベニア代表戦――第4Q「魔の3分2秒」

 

 2試合目の対スロベニア代表戦では、第4Qに同じような時間帯に飲み込まれた。73-87と14点差で残り6分26秒。この時点では十分逆転可能な状況だった。スロベニア代表の88・89点目はルカ・ドンチッチのフリースロー。これに続く返しのオフェンスで、ボールを運ぶ渡邊が相手のフィジカルなディフェンスにバランスを崩してボールを失い、カウンターでダンクを決められてしまう。スロベニア代表はここから3Pショット5本中4本を決め、ドンチッチのフリースローから始まったわずか3分2秒の時間に16連続得点で一気に73-103とし、勝負をつけてしまった。

 

 これら2つの魔の時間帯には、きっかけとして日本代表側のターンオーバーや相手のフリースローなど、試合のリズムが変わるきっかけがあった点が共通している。また、相手側が高確率でショットを決めているのに対し、日本代表はワイドオープンでも、富樫、渡邊、八村、田中、馬場といった本来勝負強いスターたちが、魔法にでもかかったかのようにミスショットを連発した。

 

 世界の強豪の一角として生き残るには、悪い流れのきっかけを察知したときに、ディフェンス面の引き締めに加えて決定力を発揮することが必要ということを、スペイン代表とスロベニア代表が目の前で見せてくれた。守勢ではなく攻勢で道を切り開くのだ。

 

 オリンピック予選で敗退したギリシャ代表を率いたリック・ピティーノHCが、「短期決戦で勝負を握るのはショットメイカーだ」と話していたことも思い出す。その言葉を受ければ、金丸晃輔(シーホース三河)のような存在が、魔の時間帯を阻止するカギとなるように思える。

 

 金丸や比江島、富樫、田中、さらには張本天傑(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)やベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)ら、ここまでの2試合でベンチから出てきて奮闘しているプレーヤーたちがピンチを救うということには、その後を考えればチームにとって非常に大きな価値があるだろう。このアルゼンチン代表との試合こそ、全力で楽しむべき40分間のはずだ。迷いのない活躍を期待したい。

 

 日本代表はこの2試合で、傾向として各クォーターの始まりを比較的良い形で作ってこられている(8つのクォーターのうち5つで先制点を記録)。各クォーターの開始早々に日本代表側がランを展開し、魔の時間帯を阻止できれば理想的。そうなれば歓喜の勝利が見えてくる。

 

攻守にわたり良いところで好プレーを出せている富樫。アルゼンチン代表戦では魔の時間帯を阻止してくれることを期待したい(写真/©fiba.basketball)

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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