日米バスケ文化比較 - 4つの違いを抽出

3. 応援スタイルには国民性が表れているのか

 

 アメリカでは、試合会場に感情をぶつけに来ているが、日本では多くが、良いプレーから学んだり教訓を得て力にしたいような思いで来ているのかもしれない。もちろんどちらの国も誰もがそうではなく、あくまでもバランスの問題だ。前述のウエストブルックのポップコーン事件のようなケースはまさにその例)で、しかも許されない悪例なわけだが、それがこの一件だけでなくたびたび起こり、問題になってきたのがアメリカだ。


日本でも行き過ぎた感情表現がないわけではないが、少なくともリーグやチームが対処しなければならなかったような過激なケースは稀だ。ファンが規律の中で行動できている証と言って良いだろう。


アメリカとは感覚的に異なる規律は、異なる応援スタイルにもつながっている。「日本では決まった応援を決まったようにやらないといけない。そのため、クライマックスのドキドキ感が欠けてしまっている気がする。逆にいつでも安定して大きな音がなっている空気が悪くないという良さがある」というのが、ジェフさんの感想だ。


Bリーグの試合前に、チアリーダーが応援の仕方を説明する時間帯がある(ない会場もあるかもしれないが)。その日、どのようにファンをリードするかは概ね決まっていて、多くのファンは指示された行動をとる。そこに一体感が生まれる。


NBAやNCAAのバスケットボールを現地で見るときに、応援の指示を受けたり、依頼された経験はない。しかしとてつもない一体感が生まれる。


「アメリカではみんな自由に見ています。その分、大きなプレーが起こったときの盛り上がりもすごくメリハリがはっきりしているので、プレーのすごみも増します。みんな自然と立ち上がり始めるし、声もちょっとずつ出てき始め、知らない人とハイファイブを交わしたり。そのわくわく感、ドキドキ感がたまらないんです!」

 

 今年のNBAプレーオフのイースタンカンファレンスファイナルはミルウォーキー・バックス対アトランタ・ホークスだったが、アトランタで行われたシリーズ第4戦を見た人なら、ジェフさんの言っている趣旨がわかるだろう。


1勝2敗の地元ホークスが20点以上の差をつけてリードした第4Q終盤、誰からともなく「Hawks in six(ホークスが6試合でこのシリーズをモノにする)」という大合唱が沸き起こっていた。


ボストン・セルティックスの地元ファンが、宿敵ロサンゼルス・レイカーズをホームで迎え撃つ際に聞かれる「Beat LA」の大合唱も同じだ。「皆さん、このプラカードが出てきたらBeat LAと言いましょう」といったインストラクションがなくても、誰かがあるときこのフレーズを口ずさみ始めるのだ。「決まったものじゃないので、みんなで一致したときの感動もすごい」とジェフさんは説明する。


4. 大切なレガシーを楽しみながら伝える


いろいろと話してくれたジェフさんは、他にもアメリカのスポーツ界に存在するレガシーを大切にする考えが、日本にはあまり感じられないことを日米の違いとして挙げていた。


レガシーがあることで、NBA のチャンピオンシップの重みが変わってくるという。例えばアメリカでは、「レブロン・ジェームズ対マイケル・ジョーダン、どちらがGoatか?」というディベートが年がら年中、どこからともなく始まる。人々はどちらが何個リングを持っているか、プレーオフ一回戦でジョーダンは負けたことがあるのに対してジェームズはない(今年初めて負けた)などの情報を基に、議論を白熱させる。これがもととなって一回戦から注目するようになり、さらに「いや、二人より実力ではケビン・デュラントの方がすごい」と派生した議論に花が咲く。さまざまなプレーヤーやチームに対する興味が掘り起こされていく。


レガシーを土台とした議論が盛んで、それに必要な記録に対するニーズが強力なため、スタッツ収集と管理のレベルが果てしなく詳しく、細かく、長期間になっていく。「このレガシーやディベートの要素がなければ、試合観戦の体験はただ勝ち負けをみる、プレーを見るだけになってしまう。しかしアメリカには、これを盛り上げるスポーツディベートショーがあるんです。日本でもこういうディベート、考え方があったらもっと楽しみ方に深みが出るかもしれませんね」

 

 日米それぞれに特徴のあるスポーツ観戦文化。お国柄があるとしても、お互いのファンがちょっと研究すると、相当楽しみが増すかもしれない。

 

例えば「史上最強日本代表」という言葉も、57年前の東京オリンピックで4勝を挙げた日本代表のレガシーと対比する議論ならいっそう深みが増しそうだ(写真/©石塚康隆 月刊バスケットボール)

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)
月刊バスケットボール



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