月刊バスケットボール8月号

日米バスケ文化比較 - 4つの違いを抽出

 日本独自のバスケットボール文化について、本場アメリカのファン、ジェフ・スキナーさんと話す機会があったのだが、バイリンガルの立場でのさまざまな事象の受け止められ方が面白かった。日本のバスケットボールが今後さらに国際化していく流れの中で、国内シーンを海外のファンにより楽しくエキサイティングだと感じてもらえるような伝え方の参考として、一つの視点としてまとめてみる。

 

ユタ・ジャズのホームゲームを観戦した際のジェフさんとお仲間お二人(ジェフさん提供)


1. プレーの質とは別の迫力と臨場感を生む映像と音


スキナーさんが指摘するポイントの一つは、映像の質に関するものだった。アメリカと日本では、試合を捉えるカメラの台数とアングルが違うという。

 

 例えばワシントン・ウィザーズの試合では、5Kの動画撮影機材38台がコートの周りに設置され、360度全方向から穴のない視覚を提供できる。リプレーや静止画(フリーズフレーム)も含め、特定シーンのあらゆる情報をさまざまな角度から提供する術が用意されているのだ(参照記事)。

 

 「NBAではアングルの変化もたくさんある。クローズアップも含め、もちろん日本の中継でも似たことはやっていますが、ずっと同じ絵であまり変化がないと感じるんですよね」と話すスキナーさんは、5秒送りで試合を早送りしてみたことがあるそうだ。すると、NBAの方が断然絵が変わっていることに気づいた。「たまたま見た試合のせいかもしれない」とは言うものの、そうしてみたくなるほど日米の映像に歴然と差があったのだ。

 

 今年のBリーグファイナルでは、プレーヤーたちが歩く通路やロッカールームの様子が写し出されていた。こうした映像はまだまだ日本では珍しいもののように思ったが、アメリカでは当たり前のコンテンツ。例えば今年のNBAプレーオフで、ウィザーズのラッセル・ウエストブルックがロッカールームに向かおうとした際に、その頭上からポップコーンをひっかけた不届き者がいたが、そういった状況もこと細かに放送される。

 

 新型コロナウイルス感染拡大前は、NBAでは試合前後にロッカールームがメディアに開放されていた。そのため、会見場とは別にプレーヤーのインタビューもその場からの映像が公開されることがよくあった。試合前の緊迫感や試合後の喜びなど関係者の感情も、より生々しく伝えられる環境だった。

 

 スキナーさんが感じる日米の違いは映像だけではない。その一例はダンク時のリムの音。収録するマイクの性能なのか、設置方法なのか。ダンク自体のパワーの差もあるだろうが、とにかく「ボールがリングに当たった時の音は個人的にはNBAの方が好き。NBAでもスタジアムによって差があると思う」という意見だ。

 

 また、特定のプレーヤーにつけられたマイクで試合中の会話や息づかいを伝える手法も、アメリカではよく見るが、日本の試合中継では見たことがないという。

 

 アメリカだと『Mic’d up 』などの呼び名がついた一般的な企画だが、「コート上で実際にプレーするプレーヤーやコーチがどういう考えを持っており、どういう会話をしているのか知ることができてとても楽しい」とスキナーさんは話してくれた。これも確かに日本では、少なくとも広くなされてはいないかもしれない。


2. 解説・実況の言葉のチョイスで高揚感が変わる

 

 さらに会話を進めると、日本のバスケットボールの試合中継で感じる、英語ネイティブのバイリンガルならではの違和感があることも、スキナーさんは話してくれた。


実況の言葉の選択は、その場で瞬時の判断に基づいて担当者の頭の中にある引き出しから行われていくものだ。大変難しい作業であることが大前提なのだが、スキナーさんの話は非常に整理されていて、批判という観点ではなく参考になる。それは、「アメリカは自由な表現で楽しみ、盛り上げることをメインに、日本はきちんとしゃべることに注力して何が起こっているのか伝えることをメインに、実況が行われている」という見方だ。

 

 例えば、ワシントン・ウィザーズの八村 塁がゴール下の相手ディフェンダーに接触しながらダンクを決めれば、実況のJKことジャスティン・カッチャーと解説のドリュー・グッデンのやり取りは以下のようになる。

 

実況(JK)
Hachimura with a big slam!! Kon-nichi-wa!!
(ハチムラ、強烈にぶち込んだ!! コンニチハだぁ!)
解説(グッデン)
Hey, somebody getting contact, an emergency contact…!
(あれ、ちょっと誰かぶつかったみたいですね。緊急事態のようですよ…笑)

 

 また、例えばトロント・ラプターズの試合で渡邊雄太がペイントエリアを突っ切ってドライビングダンク決めたシーンでは、実況のマティーD(マット・デブリン)が以下のような表現を使って絶叫していた。

 

Whoooa! Right down the lane, Jack! With the slam!!
(うわぁぁあ! 真ん中を突っ切っていきましたよ、ジャック! ぶち込んだぁ!)

 

 ジャックとは解説のジャック・アームストロング。彼は同じプレーを、数秒後のリプレーで次のように振り返る。

 

Look at that right here, this time goes to the hole! Helloooo!!
(このプレー見てくださいよ、今度はゴールにアタックだ。ハッロォォ~!!)

 

 ちなみにこれがモントリオール育ちのクリス・ブーシェイのダンクだったら、「Helloooo!!」は「Bonjouuur!!」とフランス語になるだろう。

 

 どちらの例も、こと細かな状況説明や分析の前に、心の動きが強く伝わってくる。何かスゲぇぞ、楽しそうだな! というのがわかるのだ。


スキナーさんは、「表現も豊富で、ときには言葉ではなく音だったりもする。驚きを表す感情のこもった言葉を使い、ファンの感情を体現してくれているかのような表現で盛り上げてくれるんです。それに対して日本では、「ダンク!」、「ダンクシュート」という言葉をほぼ毎回使って表していると思いますが、これは起こっていることを伝えようとしているんだと思うんです」という感想だ。


アメリカの実況はニックネームや、例に出てきたコンニチハやハローなど身近な言葉を使うので、親近感が湧く。そうした実況や解説はプレーの説明がおざなりにされているかと思えばそうではない。裏の情報であったり、どうでも良い会話であったり、見ているだけではわからないところまでも楽しませてくれる。審判のコールに納得しない点などは、忖度なく議論が展開される。


日本のバスケットボール中継では、「何が起こっているのか伝えたい気持ちが出すぎて、私には楽しむ余裕がないんです。少し疲れてしまう。プレーを喜んだりその余韻に浸るのが難しいんですよ」


プレーを学んだり、バスケの単語を学んだりしたいのであれば日本の実況の方が良いのかもしれないと、スキナーさんは言う。「対してアメリカの中継はエンターテインメント向けなのでしょうね。それと、客観的(日本)対主観的(アメリカ)な差を感じているのかもしれません。ホーム&アウェイが明確なアメリカでは、公平な実況と解説をベースにしながら、ホームの担当者はファンのように喜ぶこともある。また。別のチームのアナウンサーもいて、彼らは彼らでひいき目にアナウンスできるんです」



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