月刊バスケットボール5月号

U16男子日本代表アレハンドロ・マルチネスHCの育成アプローチ - FIBA U16アジア選手権2022グループフェーズレポート

 FIBA U16アジア選手権2022に出場しているU16男子日本代表は、グループフェーズでクウェート代表を98-33、フィリピン代表を73-67で下し、グループCの1位として準々決勝に臨むことが決まった。次の一戦に勝利して今大会の4強入りを果たせば、7月にマラガ(スペイン)で開催されるFIBA U17ワールドカップ2022への出場権が手に入る。


このチームを率いているのは、スペイン出身で4月に就任したばかりのアレハンドロ・マルチネスHCだ。直近のシーズンは中国のCBAで指揮を執っていたが、プロチームだけでなく母国のユース世代の代表チームでコーチングにあたった経験を持っている。かかわったプレーヤーの中にはリッキー・ルビオ(NBAインディアナ・ペイサーズ)もいる。

 


大会初日のクウェート代表との一戦で試合を見守るアレハンドロ・マルチネスHC(写真/©FIBA.U16Asia)


大会初日のクウェート代表との一戦は、ティップオフ直後から日本代表のアグレッシブなディフェンスが非常に効果的で、相手のボールハンドラーがゴールに正対することさえ難しい状態を生み出すことができた。相手のターンオーバーから次々とイージーゴールを奪った結果、冒頭で触れたとおり一方的な展開で勝利している。ただ、内容的に必ずしもすべてが完璧だったわけではなく、日本代表側もターンオーバーや不用意なファウルをコールされるシーンも多かった。


マルチネスHCはこの試合を、「こうした大会の初戦の難しさを考えれば良い試合でした」と振り返っている。プレーヤーたちの出来に対する感想を問いかけると、「緊張した状態で物事をはじめましたが、徐々に良くなっていき、当初のゲームプランのほとんどをうまくやってのけました」と評価。「ここは心を広く持って、彼らは本当に若いですから失敗して当たり前だと捉えています。プロと同じ目で見ることはできません。これから形になろうというところですから、それを手助けしようという考えです」と答えた。


いくつか試合中に感じたネガティブな点(前述の不用意なファウルやターンオーバーに加え、第3Qにややディフェンスの精彩を欠く時間帯があった)をあえてコーチにぶつけたが、世界中どこの国の若者たちも不用意なファウルをするし、ディフェンスが悪くなるクォーターがあるものだと意に介した様子はなかった。「彼らはまだ本当に若く学ぶことがたくさんあります。学ぶ意欲とうまくなろうという気持ちがあって、とても良いこと。コーチ陣の言うことをよく聞いて、やってみようとしていますよ」。ミスに関しては映像で分析して、プレーヤーにも見せて修正できるよう手助けする、フィリピン代表に対してもミスは出るだろうがそれも分析すればよいのだと、マルチネスHCは答えた。

 


2日後のフィリピン代表との試合は初日と様相が異なり、2桁点差のリードを奪っても勝負がついたような状況は最後の最後まで来なかった。しかし、フィリピン代表については前日のクウェート代表との試合を見てゲームプランを練り、それがしっかり遂行できたという。勝因は「40分間非常に高い緊迫感を持ってプレーしたこと」。しぶとい相手をしぶとさで上回ったことを高く評価していた。


「今日頑張ったので、しっかり体力的に回復できるように次の試合に向けて準備しようと思います。勝てばスペインでのU17ワールドカップ行きという決定的な試合ですから、非常に大きな機会です。でも勝ちたければ謙虚に臨み、一所懸命にプレーすること。それはとても難しいことだと思っていますよ」


結果が伴っているからということもあるかもしれないが、世界の舞台につながる大切な大会で「勝たねばならない」という論点で率いていないのは、母国でユース世代におけるコーチング経験も豊富なマルチネスHCのの持ち味なのかもしれない。大会前にJBA公式サイトから発信された合宿レポートでも、U17で世界を目指すのは人生で一度きりの機会なのだから過剰なプレッシャーを感じず楽しんでほしいという考えを明かしている。ここまでのところ、確かにそうしたアプローチがプレーヤーたちののびのびしたパフォーマンスにつながっているように感じられる。

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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