その他の海外

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2022/05/10

「安間志織はワールドクラス」 - 独アイスフォーゲル、ハラルド・ヤンソンHC独占インタビュー(2)

 ブンデスリーガ2021-22レギュラーシーズンを18勝7敗の2位という成績で終えたアイスフォーゲルUSCフライブルクにおいて、安間志織はルーキーながら最年長であり、かつ言葉の壁がある中でフロア・ジェネラルとしての役割を求められる大きなチャレンジに開幕前から直面していた。しかし終わってみれば、チームとしても個人としてもまさしくみごととしかいうことができないような結果を手にすることができた。


 リーグ初制覇に加えて、公式アプリで確認できるレギュラーシーズン25試合の個人成績は平均18.5得点(リーグ2位)、5.3リバウンド、6.3アシスト(リーグ1位)、3.0スティール(リーグ1位タイ)といずれもハイレベル(リーグ公式アプリの集計は2試合分が含まれていない表示となっているため手元集計の数値と若干の際があるが、ヤンソンHCとは公式アプリの数値を基に会話を進行)。取材時点ではリーグの個人表象などが発表されていないが、ルーキーながらMVPレベルと言える大活躍だ。


 コロナとの戦い、そしてウクライナでの戦争勃発。言葉も文化もそれまでの人生で慣れ親しんだものとはまったく違う。非常に難しい状況下で、安間はなぜMVPレベルの活躍ができたのか。ヤンソンHCは、安間もチームもまさしく一丸となって全力を注いでいたことがよくわかる説明をしてくれた。

 


大成功の理由は、「それが安間志織だったから」


――シオリはとても安定していたと思います。平均18得点、5リバウンド、6アシスト、3スティールというのはMVPのような数字です。出来すぎと思いますか? それともシーズン前に思ったとおりという捉え方ですか?


 バスケットボールでは、複雑なことに対して簡単な答えを求めてしまうものです。実際には彼女がやってきた後、さまざまなことが必要でした。彼女を心地よく感じさせることができるだろうか? 語学習得を助けられるだろうか? 日本語で語り合える仲間を紹介できるだろうか? ドイツの地でドイツの食事を楽しんでもらえるだろうか? よく寝られるだろうか? 何事も予想できないプレーヤーに対して、非常に多くのことが影響を及ぼすと思っていました。
 それでも、ビデオで見て、さらに最初にジムで目にした彼女のプレーから、バスケットボールのスキルの面ではリーグのMVPになれる可能性が大いにあると思いました。なので、私の予想を超えたとは言いません。でも、本当に多くのことが好転し、彼女がリーグ最高のプレーヤーであることを見せることができたと思います。


――しかし、実際なぜそれが可能だったのだと思いますか?


 彼女は非常によくやりました。基本的に、非常にうまくいった理由はそれが安間志織だったからです。彼女は素晴らしいプロフェッショナルで、取り組む姿勢(work ethics)について非常に高い基準を定め、頭の中が良く整理されています。
 彼女は毎朝6時に起床して、ストレッチをはじめ、英語とドイツ語を学んでいました。ジムに来るのはたいていの場合私が一番ですが、試合がある土曜日には、私が8時に到着すると彼女が8時2分にはやってきました。

 私たちの方はどうしたかというと、まずは彼女と契約した後、我々のサッカーチームに連絡してみました。フライブルクには男子の有力なサッカーチームがあるんですよ。そのチームはドイツの1部リーグに所属していて、来年はもしかしたらチャンピオンズリーグでプレーできる可能性もあるチームなんです。そこで2000年当時にコーチを務めていたフォルカ・フィンケさんは、ドイツでのキャリアを終えた後に日本でコーチングをしたこともある人物で、それ以来クラブとして日本とちょっとした縁があり、何人か日本人プレーヤーが在籍したこともありました。
 私は彼らに助けを求めたのです。「ウチに今シーズン日本人プレーヤーがやってくるんだけど、どうしたらよいだろうか?」とね。彼らはそれに応じてくれて、フライブルクで日本人が集まるレストランを教えてくれました。そのレストランのオーナーから、シオリに英語を教えてくれる親切な日本人女性の紹介を受けたことで、バスケットボールの世界では非常に重要な英語と、ドイツで居心地よく暮らすのに必要なドイツ語を習得する環境を、彼女に用意することができました。「ハロー」や「サンキュー」を、ドイツ語の「グーテンターク」や「ダンケシェン」と言えるように、「グーテンアーベント(guten abend=こんばんは)」という挨拶が使えるようにというわけです。

 そうした中で、少しずつ彼女は居心地よくなっていったと思います。しかしシオリははじめから本当に良く頑張りましたよ。彼女の居心地を良くするために、プログラム全体で力を注ぎましたが、一番頑張ったのはシオリ自身です。コロナ禍だったことを忘れてはいけません。もしもどこのレストランも、どこのカフェも営業していたら、皆とハグしあったり握手したりファンと会って言葉を交わしたりできたら、もっと簡単にホームタウンの感覚を味わえていたことでしょう。ほとんどの時間を部屋に閉じこもらなければならないコロナ禍でなければ、もっともっと居心地よく過ごせたはずです。

 


安間は「日本のレベルの高さを証明する」


――ヤンソンHCご自身はシオリとのコミュニケーションに困ることはなかったですか?


 困ったとは言いません。最初から、さまざまな挑戦に立ち向かわなければいけないだろうことはわかっていました。一つ目の挑戦は、コーチ陣が一新されたことです。私自身戻ったばかりの新任でしたし、4人のアシスタントもすべて新任でした。新しく加わったプレーヤーが6人いて、そのうち一人は日本からやってきてチームの中心となるポイントガードを務めるけれど、彼女は英語を話さないという状況です。挑戦ばかりですよね。「これらの挑戦にどうやって立ち向かおうか?」と集まって考えました。
 ほかにもコロナの問題がありました。そのために、見ていて気付かれたかはわかりませんが、レギュラーシーズン中にアソシエイト・ヘッドコーチにヘッドを任せた試合が5試合ありました。私は座っているだけで、彼に代役を頼んだんです。ヘッドコーチが体調不良で不在となる状況が考えられたからで、実際にファイナルでそうなってしまいましたが、チームは準備できていました。どんな状況かわかっていたんですね。
 新加入のプレーヤーに関しては、言葉の違いにも対応しなければなりませんでした。個別の会話もたくさんしましたね…。普通ならチームをコーチする場合には、「君はここでスクリーンして、君はコチラでスクリーンだよ」とかスペーシングとかショットセレクション、「ここをディフェンスして、こっちをディフェンスして」と言ったことを話し合うものです。でも我々はコミュニケーションの練習に取り組みました。
 我々はどんなサインを使っていくのか? シオリがこんなふうに(身振り手振りを交えて)したときにはどんな意味なのか? 最初、他の皆は理解できませんでした。それがプレシーズンの状態でした。彼女がいろいろ伝えようと手振りで指示を出しても皆わからなかったので、コート上でのコミュニケーションを練習したわけです。8ヵ月間の取り組みで、最初は挑戦ばかりでしたが、それが最後にチャンピオンシップにつながりました。


――ブンデスリーガの中でもトップレベルのスコアリングガードの一人となったシオリですが、中でもどこが秀でていると思いますか?


 まずは人間性です。シオリはチームメイトを良くすることができます。教えてできるものではありません。うちには非常に有能なプレーヤーがいますが、シオリは彼女たちをより良いプレーヤーにしてくれました。彼女は14歳の子に対しても、ボールを渡して「さあ、スリーを狙ってごらん!」と背中を押してくれます。彼女は(周囲を)まとめていきますが、それは彼女の人間性です。
 シオリは世界レベルですよ。これは重要なのでもう一度繰り返しますが、取り組む姿勢、統率力、万全の状態で練習に臨むプロフェッショナリズム、競技力において、彼女は世界レベルです。あの創造性、1対1の能力、パス力は世界レベルです。運動能力、1対1のディフェンス、自ら得点機を生み出す能力は、ヨーロッパのトップレベルの上を行っています。ユーロリーグにおけるトップレベルという意味ですよ。全体として、リーグ最高のポイントガードです。
 もう一つお話ししたいのは、日本代表は東京2020オリンピックで唯一、アメリカ代表に対して互角といわずとも張り合えたチームだったということです。日本代表は身体的にはずっと小柄でしたが、アメリカにおける最高の12人に張り合っていました。
 日本の女子バスケットボールは今後世界に羽ばたく財産を持っていると思いますよ。すでにWNBAでそれが始まっていますね。彼女(ワシントン・ミスティクスの町田瑠唯)は秀でた存在になるでしょう。そうなるためにカッコよさや言葉の壁を心配する必要がないことを見せてくれることでしょう。彼女が見せている特徴や礼儀正しさ、一歩引きながらも自身の良さをしっかり伝えられる力が、大きな影響を及ぼすと思っています。
 これから日本の女子バスケットボール・プレーヤーたちには、その気になればアメリカやユーロリーグに飛び込んでいく機会をどんどん得られるのではないでしょうか。日本の国内リーグは考えうる最高レベルの一つだと思っています。シオリもあなた方の国の女子バスケットボールのレベルがいかに高いかを、証明してくれることでしょう。


☆次ページ: ヤンソンHCとの英語によるインタビュー全文(後半分)

 

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

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