月刊バスケットボール5月号

大学

2022.03.29

筑波大学アスレチックデパートメントの画期的な取り組み - 3.26茨城ロボッツつくばホームゲーム“裏レポート”

 3月26日につくばカピオアリーナで行われたB1公式戦茨城ロボッツ対サンロッカーズ渋谷の試合は、1,226人(現状の開催規定ではほぼ満員)のファンを集めて盛大に行われた。


創立当初の2013年から2年間『つくばロボッツ』と名乗っていたロボッツにとって生誕の地であるつくば市でのホームゲームは、今シーズンはこの週にしか組まれていない。試合開始時点で12勝28敗という厳しい成績ながら、流れとしては5連勝で迎えたこの試合で、茨城のプレーヤーたちは奮闘を見せた。エリック・ジェイコブセンはチーム最多の21得点、チェハーレス・タプスコットは15得点に13リバウンドのダブルダブルを記録した。司令塔の平尾充庸は3Pショットを50%の確率で成功させ13得点。第4Q半ば以降、劣勢を跳ね返そうと懸命に追いすがる3Pショットを成功させた福澤晃平(この日11得点)や多嶋朝飛(同7得点)の姿も、来場したファンを喜ばせた。


最終的には、3Pショットを11本中6本成功させ22得点の石井講祐、勝負がかかった第4Q終盤にその石井とのコンビネーションから連続得点を奪ったジェームズ・マイケル・マカドゥ(この日15得点)らのオフェンスを抑えきれず、ロボッツはこの試合を76-85で落とした。しかし、勝利に向け最後まで粘ったロボッツのしぶとさが試合を引き締めたとともに、ホームとしてこの日を盛り上げようというつくば市の人々の熱量がさまざまな形で感じられた、アツいホームゲームだった。

 

3月26日の『筑波大学アスレチックデパートメント presents TSUKUBA HOME GAME サンロッカーズ渋谷戦』より(写真/山岡邦彦)

 



大学バスケットボールにおける画期的ホームゲーム実現への一歩


その熱量の発散に深くかかわったのが、地元の国立大学でバスケットボール界の伝統的強豪として知られる筑波大学に3年前に誕生したアスレチックデパートメントの存在だった。この部門は筑波大学のスポーツ教育や学内のスポーツ活動を支える役割を担っている。一方学外における存在意義としては、日本の大学スポーツの在り方を見直し、その価値を最大化するための先進的な第一歩を踏み出すことも挙げられる。


この日の試合は『筑波大学アスレチックデパートメント presents TSUKUBA HOME GAME サンロッカーズ渋谷戦』と銘打ち、ロボッツ協力の下でプロスポーツのエンターテインメントのノウハウを学びつつ、学生たちが主体となってロボッツのホームゲームを盛り上げるというユニークな取り組みを行っていた。当初はB1公式戦の後、同じ会場で筑波大学男子バスケットボールチームのホームゲームも、“TSUKUBA LIVE!”のタイトルで準備していた。このイベントでは、同じ関東学生バスケットボール連盟に所属する青山学院大学をつくば市に招き、B1の茨城対筑波の学生版といえそうな対戦になるはずだったが、直前の22日に筑波大学のチーム内で新型コロナウイルス感染例が確認されたために、やむなく開催を見送ることになったのだ。


そのような流れを受けての当日、つくばカピオアリーナに足を踏み入れると、同大でこの春4年生になる田中 陽がクリエイティブ・ディレクターとして手掛けたという“TSUKUBA LIVE!”のロゴが、最初にドカンと目に飛び込んできた。ティップオフ前には、同大応援部“WINS”のブラスバンドがX Japanの「紅」のパワフルな演奏で一気に場内の高揚感を最高潮に押し上げた。この日はWINSだけでなく、体温チェックからチケットのもぎり、モッパーなどボランティアスタッフの役割から、ハーフタイムショーにおける演技や演出、前述の田中 陽の例のようなかかわり方までも含め、あらゆる場面で筑波大の学生たちが活躍していた。


話を聞かせてもらった若者たちは、アスレチックデパートメントの活性化とともに、それぞれがかけがえのない経験を積むことができること、その経験に取り組む自分の姿を仲間や家族に見てもらえることにやりがいや価値を感じていることを口々に語った。中にはこの企画で初めて本格的にバスケットボールにかかわった学生もおり、キラキラした瞳でプレーヤーたちの躍動や運営にかかわる喜びを話してくれた。

 


ロボッツのホームゲームを盛り上げた筑波大学の学生たち(写真/山岡邦彦)

 


『TSUKUBA LIVE!』再計画もすでに進行中


筑波大学アスレチックデパートメントの副アスレチックディレクターを務める山田晋三氏によれば、同大に同部門が誕生したのは、「学長の意志の下、アメリカの大学スポーツを統括するNCAAのようなことを日本でも実現できないか。とにかくやってみよう」との意欲に基づく出来事だった。その活動に弾みをつける意味合いで計画された『筑波大学アスレチックデパートメント presents TSUKUBA HOME GAME サンロッカーズ渋谷戦』と『TSUKUBA LIVE!』では、当初の予定通りに進まなかった中でも「学生たちが出演者として、ファンとして、ものすごいエネルギーで取り組んでくれました」と前向きな手応えを感じたという。背景には、コロナ禍で学生たちの生活や表現活動がさまざまな制限を受け、人前で披露する機会が失われ続けてきたこともあったに違いない。若者たちは仲間や家族に広く声をかけ、積極的に会場に呼び寄せた。その結果、B1公式戦終了後にいったん場内の入れ替えを経て18時から行われる予定だった『TSUKUBA LIVE!』も、満員御礼を見込んでいたそうだ。

 


山田晋三副アスレチックディレクターとロボスケ(写真/山岡邦彦)

 


そうした好感触を受け、筑波大学アスレチックデパートメントは、延期となった『TSUKUBA LIVE!』の再計画をこれまでになく個性を強く打ち出す画期的なホームゲームとしてすでに進行している。『筑波大学アスレチックデパートメント presents TSUKUBA HOME GAME サンロッカーズ渋谷戦』は、終盤まで競った展開で好試合となったという意味合いだけでなく、日本の学生スポーツを前進させる取り組みの試運転としても成功だったようだ。

 


(月刊バスケットボール)



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